ひと を 呪わば穴ふたつ
「此の世をば我が世と思ふぞ望月の かけたることも無しと思へば」
/ 藤原道長
――この世は 自分(道長)のためにあるようなものだ 望月(満月)のように 何も足りないものはない――
平安の世の栄華を極めた藤原道長。
この歌は、天皇に娘を嫁がせた時のお祝いの席で道長が詠んだものだ。
たとえ実の兄でもライバルとして蹴落とし、摂政・関白の地位に就いた藤原道長は、恨みや反感を受けることも多かったという。
そこで、道長は安倍晴明を頼りにするようになる。
道長が法成寺を建立している際、彼は、毎日のように子犬と一緒にその様子を見に行っていた。
ある日、いつになく、寺門で子犬が吠え、着物の裾を咥えて中に入れようとしないので、気になった道長は安倍晴明を呼ぶ。
その先には道長を呪うものが埋めてあるという――
「ならば、埋めてあるものを堀り出してみよ」
道長に言われた晴明は、すぐさまその場所を占い探し出す。
晴明に言われた場所を家人が掘り起こして見ると、指摘どおり呪いをかけた土器(壺)が出てきた。
その壺のふたを開けると、ムカデや毒蜘蛛などの無数の毒虫がうごめいていたという。
それは蟲術といって古代中国から伝わる呪いの呪術だった。




