生と死 20
原田は、席を一つ詰めて俺の近くに座り直し、小声で話しはじめた。
「俺は、君が神童って噂だから教えるんだぞ? テレビばっか見て自分で考えない馬鹿には絶対話さない」
神童……。誰がそんなこと言ってるのか。
背中が痒くなったけど、「光栄だよ」と適当に返して原田の話を聞いた。
「電磁波を使ったテクノロジー犯罪は、道教から派生した陰陽道、密教に通じる知識を持った神官レベルの支配者たちの得意技なんだ」
「……ん?」
ちょっと聞きたいことより話が逸れたな。さっきも言っていたが父の陰陽道が悪だとでも……?
「奴らは蛇とかに自分達を同一視させて神格化させ、麻薬や音楽で洗脳して一般人をコントロールしていくんだ。そうした連中はやたら日付や数字、悪魔的なシンボルを使いたがって、生贄や儀式をやる。現代はそれに電磁波が加わって”お告げ”に見せかけ簡単に洗脳していく」
「それは【ルーメン】【ゴールド・スター】のことを言ってるのか?」
原田はまた、にいっと笑った。
「そんなことハッキリ口に出して言えないな。今は携帯のチップで全ての情報が連中に渡ってるんだ。安易に名前出したら殺されちまう。最近死んだミュージシャンみたいに」
ここで、またワードが繋がった。だけど、今、俺が知りたいのは”呪詛”だ。
「ターゲットを絞って、そのお告げなんかを電磁波で相手に飛ばす事って可能なんだろうか?」
法律上は犯罪じゃなくても、そんな行為は気が咎めるが、やらなければやられてしまう。
原田は、少し首を傾げて答えた。
「できるんじゃないかな」
できるのか。
「おかしいと言われるように電磁波で精神的に弱らせる音声送信ができるものも売ってあるしな、ほらハンディ式」
原田はパソコンで検索し、その高周波電磁波送信機とやらの写真を見せてくれた。
「いや、そんなもの買えない。もっとそこらにある電波でできないの?」
かぶりを振る俺を若干訝しげに見つめて、原田は、「これなんてどう? 科学的根拠はないけど」と、あるマップを検索し始める。
「これも、都市伝説みたいに言われてるけど」
その前置きは空気みたいに吐いた。
「特定の電波塔、携帯中継局が健康に影響があるほど強い電磁波を出してるってのも陰謀論になっちゃうかな。まぁ、その電波塔がある周辺を地図で見てみ」
俺はパソコンを覗きこんだ。
「……寺、神社がある」
全部がそうじゃないが。
「まぁ、どこにでもそんなものあるから珍しくもないけど。呪術的に何か関係あんじゃないかな。パワースポット的な。洗脳よ、届け!って」
原田がふざけて両手を掲げたものだから、前の席の生徒がこっちを見た。
科学的根拠など、呪いにいらない。
これだ、と俺は思った。
「この地図、プリントしていいかな」




