早速イベント発生しているらしいですわ
2021年3月10日改稿!
「──どうぞよろしくお願い致します」
教室には拍手も何もかもを忘れたような静寂が満ち、私は少し戸惑うようにして席に着きます。
アルティザン男爵家は派手な名声こそないものの比較的長い歴史を持つ家系である。
歴とした貴族家でありながら誰一人面識がなく、十二歳になるまで屋敷から出られなかったという特殊すぎる仕来りに驚愕し、それ以上にあまりの美しさに衝撃を受け酔い痴れるクラスメイト。
段々とざわめき始める中、誰よりも早く衝撃から回復したディミトリ先生が静かにする様にと手を鳴らしていますわ。ご苦労様ですわね…原因私ですけども。うふふ。
ホームルームではこれからの授業予定や、選択授業についてのお話がありました。
最初の一週間は必須科目のみの授業で、二週目が始まるまでに選択科目を決めなければならないと。細かな説明が終わると鐘が鳴り、休憩時間を挟んでから全学園生を集めた式典のために移動となります。
ディミトリ先生が先導して長い廊下を歩いていきます。皆様緊張なさっているのか一言も発することなくついていき、聳え立つ大きな魔法樫の扉を開いて大講堂へと入っていく。
ダンスパーティでも使われるという大講堂に入ると、煌びやかなシャンデリアの光や格調高い装飾、その中で談笑する上級生の皆様が目に入ります。お召し物は一様に制服ではあれど、上品な佇まいや優雅な所作がまるで舞踏会にいるような感覚にさせてくれますわ。
大講堂に入った私達の元に真紅のタイを身につけた2年生のお兄様お姉様方がそれぞれやってきて談笑の輪に加えてくださいます。
数人ずつに分かれて移動して、軽い自己紹介から出身領地の話で盛り上がり、これからの授業のことや最近の流行について、はたまた外国の話など様々な話題で交流を深めましたの。
ちなみに私のいるグループは、朝クラスまでご一緒したふわふわ男爵令嬢と、凛として読書していらしたお隣さん公爵令嬢、それに侯爵家のご令嬢二人と男爵家の私という構成ですわ。
全新入学園生が大講堂に揃い上級生との交流が落ち着いたのを見計らって、拡声魔道具を持ったご年配の先生が壇上に立つ。上級生の皆様は談笑を止めて壇上へと向き直る。私達もそれに倣っていると、学園長の入場が知らせられる。
質の良い礼服にどこまでも深い森を思わせる深緑のローブを羽織った総白髪の老齢男性が静かに歩いてくる。身体の線は細くて上品に歩いているにも関わらず、重くのしかかるようなプレッシャーを感じますわ。
流石は我が国の生ける伝説、竜殺しの大魔導師様ですわね……。
「新入生の皆さん、ようこそ王立ユメルティア学園へ。私が学園長のガルシア・フォン・アルトメリアである。君達は成人となる十五歳までの三年間をこの学び舎で過ごすことになるだろう。共に学び時に競いお互いを高め合える無二の友人に出会えることを祈っている。挨拶はこれくらいにしておこうかの」
厳かな雰囲気で手短な挨拶を終えると、朗らかな表情になって話を締め括る学園長。すると大講堂の中央を空ける様に移動が始まり、楽団の演奏が流れてきますわ。
軽快なワルツが流れる中、紫紺のタイを身につけた三年生の男女が数人中央に進み出る。
「我々はユメルティア学園の生徒会です。当学園では文武魔の研鑽は勿論のこと、豊かな交友関係の構築や洗練された社交技術の獲得にも重きを置いています。そのためクラブ活動が盛んに行われております。これから各クラブの紹介を行います。是非学園生活の参考になさって下さい」
聡明な顔付きをした生徒会長が説明を行うと、生徒会役員は四方に散って準備に取り掛かる。
剣闘クラブや魔闘クラブなどのガチ戦闘系クラブでは迫力のある演武が披露されましたわ。
馬術クラブや狩猟同好会では投影水晶を用いて活動を紹介し、課外活動の充実をアピールしていらっしゃいます。
社交ダンスクラブとユメルティア吹奏楽団は合同で活動することが多いようで、音楽やダンスを愛する方々が集まると仰っています。
研究系クラブでは学園生のみならず併設しているユメルティア研究機関の研究生も在籍しており、魔法や歴史や算術、様々な分野の研究がなされているそうですわ。他にも、クラブ活動ではないものの、女子生徒の間でお茶会が開かれていたり、有志による小規模な会合が開かれていたりするようだという紹介がなされて、クラブ紹介は終わった。
興味がある人は前列へ行って説明を聞き、分からないことがあれば二年生のお兄様お姉様方に聞くと丁寧に説明してくださる。私としても、興味深いクラブ活動が幾つもあり、ワクワクする気持ちを抑えて上品に拍手致しましたわ。
司会の先生から式典の終了が告げられ、各教室へと生徒達が帰ります。新入生はこの後授業もなく、もう帰る時間となるそうですわ。
私達のグループも移動を始めると、ドンと盛大にぶつかる音と共にか細い悲鳴が聞こえる。驚いて辺りを見回してみると、第二王子殿下とふわふわ男爵令嬢が尻餅をついてらっしゃるではありませんか。
「きゃあ!……ご、ごめんなさいアルフレッド殿下」
「なんだ全く!おい、早くどかないか!立てないだろう」
「い、今どきま…ッ!足を挫いてしまったみたいです…」
何やらおっ始まっておりますわね。どうやったらあんなに折り重なるように転ぶんでしょう?
お、第二王子殿下が業を煮やして男爵令嬢を抱えて立ち上がりましたね。所謂お姫様抱っこですわ。
先程まで怒ってらっしゃったのにどうしたのかと思ったら、しっかり揉んでらっしゃいますのね。全くシケてやがりますわ〜。
と、茶番に鼻白んでいると、グランベルク公爵令嬢と目が合ったのでニコリと微笑む。
「グランベルク様、私達だけで参りませんか?」
「そう致しましょう。お二人もご一緒に参りましょう」
侯爵令嬢のお二人も同意見のようで、サッサと教室へ向かいます。やべー奴を目にしたことで、ある種の団結が生まれたようで、会話も弾みましたの。
皆様とまた明日、ご機嫌ようと挨拶を交わして、帰路に着きます。
私は下級貴族用の馬車留めから家に帰ります。明日からどうなるのかしら〜?
第二王子のお名前はアルフレッドというみたいです。
魔法樫はマホガニーからの連想ゲームで生まれました。高級木材のようです。