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#6 俺の友達は誰にも渡さない

 週末の商業区は人で溢れかえっていた。

 先週の事もあり、約束の時間より少し早く着いた俺は、ずっと張り詰めた空気を纏っている。その雰囲気に当てられてなのか、その位置には人の寄り付かないスポットが出来ていた。


「よう、お早い到着なこって……どうした、顔が死んでるぞ」

「大吾……いや、すまん。なんでも無いんだ。というか、早いのはお前もだろ?まだ三十分前だぞ」

「ん?あー……まぁ、な。亮太が早く来てると思って合わせたんだが…」

「俺に?なんで」

「ちょっと頼みが…って思ってたんだけど、どうやらお姫様も似たような事考えてたらしいな」

「お姫様?」


 大吾の指差す方向を向くと、そこには膨れっ面の彩里がこちらを睨んでいる。どうやら全員揃ったようだ。


「何ッで大吾もこんなに早く来てるのよ!」

「ちょっとした野暮用があったんだって。ホントだよ?なんなら、彩里がめかし込んでくると思って遅れるとすら予想してたくらいだ。でもまぁ……目の下の隈、隠しきれてないぞ」

「っ……!さ、最低!別に、楽しみで眠れなかったとかじゃ無いんだからっ!」


 そう言いながら、彩里は俺から顔を逸らす。服もメイクも結構はりきっているのが伝わって来た。


「…彩里」

「……何よ、笑いたければ笑えばいいわ」

「笑うもんかよ。すごく頑張ったんだな」

「っ……ふん!アタシ、用事を一つ思い出したわ。ちょっと待ってなさい」


 そう言って、彩里は踵を返して人混みの中に消えていく。行き先の見当は付くが、言えばまた不機嫌になるだろうから黙っておこう。


「…悪いな」

「俺と二人で話したかったんだろ?」

「ああ、コイツを見てくれ。どう思う?」


 大吾はおもむろに小さな箱を取り出し、中身を見せた。その瞬間、俺は息を飲む。


「……大吾、これはどういう…いや、どうやって手に入れた?」

「やっぱ亮太は見ただけで分かっちまうか」

「ンな事はどうでもいいッ!お前、これが何なのか知ってて持ってるのかよ!」

「巷で噂の能力強化薬だ。部活の先輩から貰った」

「っ!……あぁクソっ!」


 降って湧いた感情を理性で押さえ込み、少し深呼吸。見たところ使用した痕跡は無いし、本人も俺に話す事を少し躊躇っていた節がある。ここは冷静に考えて、サンプルが転がってきたと捉えるべきだろう。


「それで?そんな物を俺に見せてどうするつもりだったんだ?」

「亮太ってさ、こういう噂には敏感だろ?だから、もしかしたら安全に処分する方法も知ってるかと思って。例えば、作った人に返すとか…」

「……はぁ。全く、人の苦労をなんだと思って…まぁいいや。あるぜ、安全に処分する方法が」


 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


「お待たせ……って、あれ?大吾だけ?亮太はどこに行ったのよ」

「亮太ならトイレだってよ。すぐ戻るって言ってたが……」

「そうなの?すれ違わなかったけど……」

「入れ違いなんだろ。ほら、噂をすればナントカだ」

「悪い悪い、結局俺が一番最後だったな」

「全く……ほんと、仕方ないんだから。さぁ、行きましょ」


 上機嫌な彩里を先頭に、商業区の中心へと歩き出す。夏前という事もあって、レジャー用品や水着を売り出している店舗が山ほどあった。


「ところで今更なんだが、海で何する予定なんだ?」

「そうだな…」


 考えてるって事は無計画って事か。まぁいつもの事だけど。


「本当はキャンプとかしてみたいけど、俺たち三人だけで行くのはちょっと規模が小さいだろ?親が着いて来るなら…あっ」

「いや、大丈夫。続けてくれ」

「…すまん。まぁとにかくだ、花の高校生が三人だけでするには、ちょっと物足りないだろ?だから、普通に日帰りか民宿に泊まって泳ぎに行くくらいだな」

「要するに無計画って事には変わり無いんだな」

「まぁそういう事だ!ははは!」

「そういえば、彩里の方は大丈夫なのか?」

「何が?」

「いや、おじさんがよく許可なんて出したなって……」


 隊長はアレで、娘の彩里を溺愛している節がある。任務中でもちょっと彩里のことを話すと、根掘り葉掘り聞いてくるくらいだ。

 だから夏休みに彩里が海まで行く事を許可したのが、少し意外だった。


「パパには何も話して無いわよ?」

「「……え?」」

「なによ、二人そろって間抜けな顔をして」

「「いやいやいやいやいや!!」」


 彩里はどこか世間とズレている所があったが、ここは言ってやらねばならない。俺がおじさんの立場だったら、邪な男どもがひしめく海に、そう易々と行かせるわけがない。


「彩里、お前は自分の属性って物を考えた事があるのか?」

「「……属性?」」


 ちょっと待ってくれ。大吾が俺の言いたい事の斜め上から援護射撃してきたぞ。


「火属性、ツンデレ、ツインテール、つるぺた、アホ毛、ロリ、JK……思い付くだけでもこれだけの属性を持っているんだぞ?」

「つるぺた……」

「こんな逸材を果たして世の男どもは放っておくだろうか?いや、否だ。断じて否であるっ」


 おーい大吾、戻ってこい。口調が崩れてきた。

 気付けば大騒ぎし過ぎたのか、俺たち三人は注目の的となっている。


「ただでさえ美少女の彩里に大量の属性が付与されてみろ……その戦闘力は計り知れず、海などと言う開放的な場所に行けばナンパは必須!というより今現在ですら、お近づきになりたい男は大量に存在する…そうだろ!」


 周りに同意を求めるんじゃありません。そして周囲も真剣にうなずくんじゃありません。彩里が恥ずかしくて耳まで赤くするだろうが。


「可愛いは正義ッ!可愛いは凶器ッ!可愛いの塊である彩里は歩く攻城兵器ッ!!」

「大吾、大吾。もうそろそろ……」

「はぁ、はぁ…ふぅ……ん?」

「…………ばかぁ」


 耳まで赤くした彩里は俺の後ろに隠れ、うずくまっていた。


「冗談に決まっているじゃないのよぉ…」

「そうなのか?」

「あ、当たり前でしょ!?大体、ちょっと考えたらわかるじゃない!パパに隠し事ができた事、そもそも一度だってある!?」

「……無いな」


 全てを知っている訳ではないが、少なくも俺の知る限りでは成功した事がない。というのも、おじさんの能力がそういうモノだから仕方ないのだけれど。


「……そ、それに…亮太と一緒なら大丈夫なんて言われたら……」

「うーん……ん?何か言ったか?」

「な、なんでもないわよっ!」


 そう言って、一人でずんずんと彩里は前を歩く。不機嫌になったりご機嫌なったり、忙しい奴だ。


 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


 買い物も終えて、昼過ぎには帰路に着く事になった。彩里には別件で用があると伝えて、地下モノレール駅で別れる。


「それで、どうすればいいんだ?」

「まずは然るべきルートに乗せる」


 大吾を連れて、再び商業区へ。だが今度は中心部ではなく、少し外れた位置に向かった。

 買い物の前に、リサと連絡を取っておいたので、サテライトの遣いが所定の位置にいる手筈になっている。さらに用心深い奴で、決められたルートを外れると現れてくれないらしい。

 同じようなルートをぐるぐると歩かされ、自分がどこを歩いているのかよく分からなくなって来たとき。不意に俺と大吾は袋小路へと誘い込まれた。


「な、なぁ亮太……大丈夫なのか?」

「……ああ」


 大吾の腕を引き、壁に向かって歩き続ける。するりと空気の膜を通り抜けるような感覚が肌を撫でたかと思えば、仮面を着けた男とも女とも取れない人が立っていた。


「壁を見せかける能力、か……」

「この人に渡せば、後はなんとかしてくれる。通称、片付け屋さんだ」

「へぇ…そんな噂を知ってたんだなぁ」


 その人物は無言のまま手を差し出し、薬をねだる。さっさと研究したいご主人様の命令だろうか。

 だがその瞬間、俺の脳内にテレパスが飛んできた。


『逃げるデスヨ!そいつクセモノデース!』

「っ、おい大吾!」

「え?」


 人物が薬を受け取った瞬間、見えない顔からニヤついた笑みが見えた気がして。


「この野朗ッ!」


 幻影の壁が消え、その背後には別れたはずの彩里が何故かいて。


「大吾ッ!彩里ッ!」


 その人物と二人が、足元から泡のように消え始める。


「その手を、離せえええええええええッッッ!!!!!」


 ギリギリ、間一髪、俺の指先が大吾に触れたその刹那。


『リョータ?リョータっ!返事をするデス、リョータァァァァ!!』


 忽然と、その姿を消した。

ご愛読ありがとうございます


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