#4 俺の住む街で事件がおきる
調査開始……と言っても、別段どうこうと言うわけではない。そもそも、俺はどちらかと言えば戦闘特化で諜報には向かないからだ。こういうのはリサが担当する。
「とは言え、何もしないのも気が悪いからなぁ……」
今日は日曜日で学校も休み。昼過ぎまで眠りこけ、彩里や大吾と遊ぶ予定もなく、買い物がてらプラプラと商業区へ。
そうそう、今更ながら俺の住んでいる街について話しておこう。先ほど商業区と言ったが、他には居住区と生産業区がある。
どの県もどの街も、昔より区画整理が行き届き、居住地や工場などは明確に区切られた。
読んで字の如く、居住区には各々の家が、商業区にはショッピングモールや商店街が、生産業区には企業や工場がある。基本的に、どの街も円を描く様に設置され、アクセスは地下モノレールの普及も相まって容易になっている。
流石に、生産業区には許可証が無いと中に入れないようになっているが。
「今日の特売品は……卵とティッシュと…ん?」
日曜日だというのに、見慣れた服装……制服姿の女子生徒がいる。スクールバッグではなく、大きなラケットケースを持って。
…時間的には部活帰り……いや、終わるにはまだ早い。さてはサボりだな?
「見たところ一年か?ここは一つ、先輩として指導を……げっ」
あの胸のバッジ、特待生じゃねえか…もう気が重くなってきたぜ……。
特待生は、能力の優れた生徒の事を指す。また、そんな連中を集めたクラスの事を言う時も。事あるごとに没能力者を見下し、無駄にプライドも高い。助ける気が失せるような連中だ。
『さすが、me達のエースですネ!もう怪しい連中をsearch & destroyデスか?』
「……っ!…いきなり話しかけてくるなよ、リサ。そしてなんでもう俺が勝っているんだ」
突然、耳元に話しかけたのは、いつの間にか肩に乗ったリサだった。怪しまれないように、すぐさまスマホを耳に当てて通話をしているフリをする。
「で?リサがここにいるって事は」
『YES!フトドキモノを追いかけていたデース』
小さくなる能力で、どうやって追いかけているのか見当もつかないが……リサの追跡能力が高いのは、今日までの実績で証明されている。それが悪いヤツかどうかは別として。
「それで?ホシはどいつだ」
『あの女デース!sundayなのに制服……怪しいデース!』
……どうやらリサは日曜日もスポーツに励む女子を理解出来ないらしい。追跡に成功したが、相手は無実の一般人だ。
「…あのな、リサ。あの生徒は別に不審でもなんでもないぞ?むしろ人畜無害な一般人だから」
『NO!そんなはずないデース!』
「……根拠は?」
『女のカンってやつデスよ!』
うん、このまま通り過ぎよう。
『wait!ちょっとマツデース!追いかけるデスよ!』
「どう見たって人畜無害だろうが。今回はハズレだよ」
『ハズレじゃないデース!ほら、ヒトケの無い裏路地にlostデスよ!』
「あのなぁ……」
駄々っ子に言い聞かせるように説明してやろうと思った矢先、件の裏路地から悲鳴が聞こえた。
『クセモノ!?デアエ、デアエー!』
「使う所間違ってるっ!じゃ、ねぇ!」
踵を返し、女子生徒の消えた裏路地に直行する。
曲がり角に差し掛かった時、走って逃げる不審者とすれ違った。
「……っ!?」
裏路地には、見かけた女子生徒が横たわっている。一瞬、不審者を追いかけるかどうか迷ったその時、空気の弾ける音がしてリサが等身大に戻った。
「Chase!リョータはクセモノを追うデース!こっちは任せろデス!」
「助かる!」
反応が遅れたが、まだ間に合う。転移能力を危惧したが、逃走を図った時点でその可能性は消えた。一歩を踏み出す毎に蓄積される速度を使って、ほんの少しずつ距離を詰めていく。
裏路地から大通りへ抜けて、別の細い裏路地へ。
「馬鹿め、そっちは行き止まりだ!」
手を伸ばせばもう届く距離まで追い詰める。触れずとも捕まえられると思った、のだが。
「なん、だと……」
相手は見事に逃走した。俺が追い詰めていたと思ったが、逆に追い詰められていたという事だ。
「まさか、壁をすり抜ける能力だったとは……」
商業区内の地図は、頭に入っている。追えない事もないが、道程を無視出来る相手に追いつけるとは、到底思えなかった。
ともあれ、ここで立ち尽くしていても仕方がない。先ほどの女子生徒が口封じに始末される可能性がある以上、一刻も早く戻らないと。
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後日。
「よう、毎日お見舞いとは熱心だな」
「…リョータ……」
「そう気負いするなよ。別にリサの責任ってわけでもないだろ?」
組織の集中治療室の一室で、先日の女子生徒が眠っている。あの日、リサや女子生徒が襲われる事は無かったが、倒れていた女子生徒が目を覚ます事は無かった。
「サテライトに調べてもらった結果、聞く?」
「……」
「まぁ、上から報告しろって言われてるから、聞くしかないんだけど」
タブレット端末に保存されたデータを引っ張り出し、概要だけを説明する。
「数ヶ月前から、今回みたいな事件が頻繁に発生している。被害者は老若男女を問わず……というより、十代の少年少女が圧倒的に多い。そして、いずれもある日突然、昏睡状態に陥るそうだ」
「…really?」
「本当だ。そして、昏睡状態の被害者にはある共通点が存在する。彼女たちは、いずれも能力強化薬に手を出していた。目の前の彼女も、恵まれた能力だったが……大会も近いからな、焦ったんだろう」
「ソウ、デスか……」
「とにかく、だ。今回は俺たちに任せて、リサはゆっくり休めってさ。おじ……隊長の命令だよ」
「…カタジケナイ」
それじゃあまた、と言って俺は病室を後にした。もう一つ、サテライトから『よく当たる憶測』の部分を伝えずに。
「……被害者は全員、能力を失っている…か」
超能力は、いわば本人の人格形成の一部だ。それが失われたからこそ、被害者は目を覚さない。彼らを助けるためには、無くした能力を戻してやらねばならないのだ。
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数日前から、俺はずっと悩んでいる。というのも、先輩からもらったある物が原因で。
「……亮太なら、何か知っているんじゃないかと思ったんだがなぁ…」
能力強化薬。噂には聞いていたが、いざこうやって手元にあると、悩んでしまう。
俺はサッカー部に所属していて、二軍だけどスタメンの補欠ではある。二軍の中には特待生もチラホラと在籍していて、その中で没能力の俺が、ベンチとは言え大会に参加出来るのは嬉しい事だった。試合に出られるなら、孫の代まで自慢してやろうと思っていたのだが…。
「情報元が種田じゃなぁ……信憑性に欠けるというか…」
使えば能力が強化される。美味しい話だが、絶対に裏があるはずなんだ。うん、やはりこの存在は忘れよう。
それに、種田が言っていたじゃないか。努力を怠って楽をする薬なんて、要らないってな。
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