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#3俺の知らない噂が聞こえる

 

 能力検査が終了し、もう間も無く夏休みを迎える初夏のある日。


「なぁなぁ亮太、このウワサ知ってるか?」

「噂?どんな」

「能力の新たな可能性を生み出す開花物質の新薬があるって話」

「フン、努力を怠って楽をする新薬なんて、無い方がマシよ」

「知っているのか、彩里」


 俺がその話の概要を知らないと分かると、彩里は口角を上げて優越感に浸る。大吾も空気を読んで、それ以上は口をつぐんだ。


「あらあら?亮太にしては珍しく疎いじゃない?こう言う話は十八番じゃなかったかしら」

「……まぁ、最近忙しくてな」

「仕方ないわね……特別に、アタシが、優しく教えてあげるから、よく聞きなさい」

「…ウレシーナー」


 俺の十八番というのは、裏の事情でそう言った情報に密に関係しているからだ。とはいえ、管轄や部隊によっては流れてくる情報が違うため、今日みたいな初耳の噂話に立ち会ったりする。

 ……その事実と、彩里が生意気な態度で教える事とは、微塵も関係ないのだが。


「まっ、本当かどうかも怪しい様な、噂なのだけれど。3歳になった全ての子どもに、開花薬品を注入するのは知ってるわよね?」

「そりゃあ、法律で決められた義務だからな」

「でも、能力には亮太みたいな超残念な没能力の子もいるでしょう?」

「残念とか言うなよ……」

「そんな能力者の救済として、能力を大幅に強化してくれる新薬があるらしいわ。公式には、そんなもの無いって発表しているみたいだけれど……」


 チラリと周囲を伺い、彩里は耳打ちをする動作をとった。


「……アタシの友達が、能力強化薬を使った人を知っているのだけど、本当に強化されたらしいわ」

「へぇ……じゃあ本当に存在するんだな」

「それが分からないの」

「……分からない?」

「そう。強化されたって言ってるのは本人だけ。しかも、友達はその話をメッセージで見ただけで、不思議なことにその使った子とは音信不通らしいわ」

「うーん、真実は闇の中ってか?」

「まぁね。噂は噂よ、そのうち尻すぼみになるわ。仮に事実だとしても、アタシは本人の力量以上の能力なんて、身を滅ぼすだけだと思うけれど」


 眉唾物ではあるが、音信不通というのは穏やかじゃないな。そういう場合、大抵は死んでいたり攫われていたりする…のは、裏に浸りすぎた偏見だろうか。


「それで?さっきから何か言いたげそうな大吾は、何かあるのか?」

「え?いや、うん…まぁ……」

「なんだよ、歯切れの悪い」

「いや、なんでも無いんだ、ほんと。うん、なんでも」

「……そっか。ところで彩里、この話はおじさんにしたのか?」

「パパに?話してないわ。だってパパに話すと3日もしないうちに噂を聞かなくなるんだもの」

「……だろうね」


 仮に管轄が違ったとしても、彩里の父親に報告すればすぐさま対応するだろう。なにしろ彼は俺の上司なのだから。


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 〈……というわけだ。結局のところ、先日捕まえた奴らも、所詮はトカゲの尻尾だったって事だな〉

 〈Hum……今回のmissionは難しいデース…BOSSもムチャな事押し付けるデスね〉

「上の無茶振りはいつもの事だ、いちいち反応していられないだろ。それで、あの薬の中身は解析できたのか、サテライト」


 自宅のパソコン前。特殊な回線に繋ぎながら、俺は先日の報告を受けていた。俺の部隊は全部で5名、彩里の父親と俺とリサ、それから解析班のサテライト。あと今は別件で連絡のつかない同僚が1人。ちなみに、サテライトとは会ったこともないし顔も見た事がない。会話はサテライトだけ毎回テキストチャットの、隊長が連れてきた凄腕の解析者だ。


 〈誰に向かって口を聞いている?あんなもの、調べるのに1日だって要らない〉


 その淡白なチャットと共に、資料が送られてくる。開けると出てきたのは何枚かの画像だった。


 〈こちらとしては化学式の方が見やすいのだがな、君達にはこちらの方が分かりやすかろう。見ての通りだ〉

 〈全然分からないデース〉

「人工アドレクトロン……か?」


 人工アドレクトロン…通称、開花薬品。脳内麻薬と呼ばれるアドレナリンと、人体の脳から検出された超能力物質と呼ばれるサイコメトロン、さらにその二つを人工的に作り出し掛け合わせたものが、脳の第六感を刺激し超能力をあたえる薬品となる。


 〈その通りだ。だが、半分ハズレでもある〉

 〈アタリなのにハズレなのデスか?〉

「……少し違う気がする。どちらかと言うと、人工アドレクトロンを元に、全く違う薬品を調合した様な?」

 〈素晴らしいな、流石は部隊のエースと言えよう。お察しの通り、コレは人工アドレクトロンを元に、能力で手を加えられた違法薬物だ〉


 ……は?能力?能力で、だって?それじゃあ、まるで…っ!


「それじゃあ、まるで『誰かに薬を作らせている』みたいじゃないか!」

 〈落ち着け、ダウナー。サテライト、続けるんだ〉

「……すみません」


 少し興奮してしまい、隊長に制される。


 〈……それが悪意であれ、強要であれ、どちらでも構わない。問題はこの薬の効果だ。時に隊長殿、今巷の中高生の間で『能力強化薬』なるものが出回っているのを知っているか?〉

 〈噂程度だが。他の管轄で、実際に能力強化薬を使用したらしき者がいると聞く。しかし、その薬品の採取には至らないそうだ〉

 〈ふむ……ならば照合は難しいか。少々頂き、マウスに投与してみたいのだが…?〉

 〈それは出来ない相談だ、サテライト。この解析が終了すれば、サンプルは本部に送られる。もう一度、入手に成功すれば実験も出来よう〉

 〈むむむ……いた仕方ない。それで、憶測ではあるが、今回手に入れた薬は件の違法薬物でほぼ間違いないだろう。そしてこれは憶測とも呼べない仮説なのだが、化学式を見る限りでは副作用がある。どの様な、とまでは分からないが……〉

 〈いや、現時点では十分すぎる結果だ。では今後の方針を固めておこう。ダウナーは日常生活に紛れて違法薬物の調査を、ミニマムも同様によろしく頼む。こちらも薬物について探ってみるつもりだ〉

了解(イエス・サー)!」


 話の区切りが着き、今回の報告会は終了した。ずっと黙っていた、彼女を除いて……。


 〈wats?つまりどういう事デスか?〉

ご愛読ありがとうございます。


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