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#24 俺が死ねば良かった

「うぁぁぁあああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」


 なんでッ!なんで、なんで、なんで、なんなんだよコレはァァッッッ!!!!

 誰だよッ!先生をこんな風にした奴はッ!

 誰だよッ!みんなを虫みたいに潰した奴はッ!

 誰だよッ!守ってみせるなんて言ってた奴はッ!

 俺だよッッッ!!全部、ぜんぶ、全部、俺じゃねぇかよッッッ!!


「嫌だ!認めない!認めてやるもんか!こんな、こんな、こんな……ッ!」


 諦めるな、まだ間に合う。奪った命を…生きる速度を、今すぐ戻せば、生き返るはずだ……!下半身は無いけれど、千切れて無くなった傷じゃない。腐って崩壊しただけで、失血死する事は無いはずだ。


「頼む、頼む頼むたのむ…!そこにいるなら願ってもいい。神でも悪魔でも誰でもいい。起こしてくれよ奇跡を……!救ってくれよ俺たちを…!!」


 どれほど奪った?どの命が先生の命だ?他の子たちは救えるのか?そもそも本当に俺は、誰かを救えるのか?


「どこだ、どこにあるんだ、奪った命は…!」


 自分の中に、速度の保管庫があるのなら。今その保管庫は、大量の速度エネルギーに換算された命が保管されている。その中から、先生の速度エネルギーを。換算された命を正確に切り出して還元しなくてはならない。多すぎても少なすぎても、拒絶反応と還元失敗で戻せない。

 その奪ったエネルギー量は感覚的に判断が付くために、もう見つけていた。見つけていたけれど。


「…ッ……そんな、はずは無い…!」


 奇跡とは、二度と起きないからこそ奇跡で。奇跡を願ったはずなのに。

 あまりにもそれは…少なすぎた。命の残量としては、およそ1分にも満たない時間。それが例えば小動物であったなら、そういう事もあっただろう。あるいは年老いた老婆であったなら、納得しただろう。だけど先生はどう見ても……まだオバサンと呼ばれる年齢では無い。


「……ッ」


 震える手で。それでも奇跡を祈りながら。息を吹き返せば手は打てると信じて。命を還元する。


「……亮太…くん」

「先生っ!だい、大丈夫、大丈夫だから…!ちょっと怪我しちゃってるけど、まだなんとかなるから!今は辛いかもだけど、生きて、生きてさえいればなんとか…!」

「…良かったです」

「先生…!」

「……亮太くんが、助かって」


 それはまるで、自分は死んでも良かったかのような言い方で。弱々しく掲げられた手で頬を撫でられたけれど。それはまるで屍人が如く冷たくて。


「………」

「…先生?……先生!?先生!!」


 何度呼びかけようと、失われた命は戻らない。そして、奪われた命が戻ると同時に。止まっていた肉体の変化が急速に進んでいく。まるで世界が、そうあるべき現象として強いるように。すなわち。


「あぁ…どうして……こんな…こんな……っ!」


 止まっていた腐食は、急速に小子の肉体を犯し、たった数秒で跡形も無く消し去った。骨も、髪の一房も残さず。


「…………ァ」


 刹那。抑えていた全ての糸が途切れて。その身に封じたエネルギーが、一気に溢れ出し。

 力が、跳ねた。


 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


「ノウナッ!お前どう言うつもりだ!!」

「いやぁ、まさかこんな事になるとはね」


 少し時間を戻して、亮太が地上へと這い出てきたころ。超アルカリ性の赤子が地上で他の子どもたちを襲っているのを見て、悟はノウナに掴みかかる勢いで問い詰めていた。


「全てを救うため、子どもを主軸に回すというのは…百歩譲って理解しよう……!その頭のトチ狂った世界救済のためだと言うのなら、万歩譲って納得しよう……ッ!だが、だがしかしだッ!」


 眼下の惨状を指差して、悟はなおもノウナに詰め寄った。


「これはなんだッ!なぜ子ども達が!護るべき命が無作為に散らされているッ!!説明してみろ!」

「だから言ったじゃないか。まさか、こんな事になるとはね。これでもね、予言書や未来予知、ありとあらゆる方法と道具でこの先を観て、識って、最善の策を用意したんだよ。けれど、どんなに根回しや対策を講じたって、オレっちの求める成功率は約九五パーセント…不確定な未来が五パーセントもあるなんて異例だよ」

「……ッ!!!」


 ノウナは嘘を言っていない。紛れもなく事実であり、そしてこれは本当に想定外の事態だとも言っている。そう言うノウナの顔は……いつも通りヘラヘラとしていて、こちらの神経を逆撫でする勢いだが。


「……なら、ば…ここから全てを救う方法はあるのか…っ!」

「神に祈るしか無いね」

「…だとすると……私のする事は一つだ」


 次の瞬間。悟はノウナが止めるよりも早く、ホウキの上から姿を消した。


「……ほぁ!?」


 ホウキだけが単独で浮遊するのを見て、ノウナはすぐに悟が飛び降りた事を理解する。


「ちょっとぉ!?ホウキはァ!?」


 すぐさまイカロスの翼で落下する悟を追いかけたが、ノウナの事などお構いなしにぐんぐん降下する。


「何考えてるのかな!?落ちたら助けられないって言ったよねぇ!?」

「知らん!私に死なれて困るなら、自分でなんとかしろ!」

「わーおまさかの人任せっ!……あのねぇ!別にこのまま放っておいても問題は無いんだよ!?想定外の過程だけど、最後は世界を救ってハッピーエンドだってのに、わからないかなぁ!」

「…いい加減にしろよノウナ」


 あと三分もすれば、大地と熱烈なハグをする悟は。それでもなおノウナに冷たい怒りをぶつけていた。


「目の前の命ひとつ救えずに、世界など……救えるものか…ッ!」

「……っあーもうッ!そうだそうだ、そうだったね!隊長はそう言うもんね!言っとくけど、この羽は一人用なんだからね!助かる保証は無いからね!!」


 本物とは違う、まして手作りの翼など。偵察用もいいところの、ちょっとした負荷で壊れるというシロモノで。ノウナは悟の背後に組み付いた。


「ハッキリ言おう!落下を止める事は絶対に無理!滑空して衝撃を和らげるから、協力よろしく頼んだよ!」


 ノウナが翼をグライダーのように使う事で、最低でも落下死を防ごうという心を、悟は瞬時に読み解いた。翼の受ける揚力値が上がるにつれ、少しずつ二人の体は垂直落下から飛行体制になりつつある。


「あーくっそ!!まずいまずい、ひっじょーにまずいんじゃ無いかなっ!?翼が壊れちゃうよ!!」

「急げよノウナ!そうこうする間にも、子どもたちの命が…!」


 悟がそう言った瞬間、人外の化け物だと思っていた赤ん坊から『人としての思考』が飛んできたかと思うと。大量の蒸気を放出して急激に小さくなっていった。


「…あれが……化け物の核だとでも言うのか…?まだ子どもじゃないか…」

「みたいだね」

「知っていたなら教えろ、と言いたいが……この事自体が想定外だったのか」

「まぁね」

「…ところで、嫌に落ち着いているな」

「先に言っておくよ。ごめんね?」

「……まて、その先は言うな。聞きたくもない」

「翼こわれちゃった」


 だろうなぁ……何しろ私たちは今、疑う余地もなく…落下しているのだから。


「でも安心してよ。オレっちさっき超ちょうチョーいい事思いついたからサ?」


 ふぅー…っと、ノウナが似合わない顔をしたかと思うと、先程の態度と感情はどこへ消えたのかというように淡々と翼を『再構築』し始めた。


「……伝承、イカロスの翼を真解。太陽神アポロンに近づこうとして、太陽の熱によりロウの翼は溶けて崩壊。真解より曲解。太陽の熱ではなく太陽に近付いた事によって飛行能力を失って墜落。曲解より理解。太陽より遠ければ遠いほど飛行能力は上昇。注釈使用『天動説』により、月と太陽は正反対の位置に座す。現在時刻表示……『夜』」


 ノウナの凄まじい集中力と、まるで初めからそうだったかのような、概念の書き換え行為を目の当たりにして。悟は、ノウナが敵に回らなくて良かったと……心の底から思った。


「…よっし、これで大丈夫。少なくとも夜の間は絶対に墜落しないよ。それともう一つ…保険をかけよう」


 ノウナがぱちりと指を鳴らせば。はるか上空で待機していた魔女のホウキが、悟にめがけてすっ飛んでくる。


「…乗れないぞ」

「乗らなくていいよ。ただぶら下がってれば」


 魔女のホウキはするりと悟の上着に潜りこみ、文字通り吊り上げられる形での搭乗となった。


「今度こそ大丈夫なんだろうな」

「任せて!よっっっっっっっぽど、強い力かエネルギーでも無い限りは、もう墜落する心配はいらないよ」

「…嫌な予感がしてきたぞ……」

「あっはっは!強いエネルギーって言っても核爆弾十個くらいまで余裕だから安心して!」


 そう言いつつ。二人がゆっくりと降下を開始した……直後。


『うぁぁぁあああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!』


 地の果てまで届きそうな絶叫が悟とノウナの耳を痛めたかと思うと。


『………………』


 膨大な熱量と、見えるはずの無いエネルギーを。可視化されるまで色濃く圧縮された何かの塊が。


「悟ッッ!!!!」


 視界を、覆いつくした。

ご愛読ありがとうございます


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