#21 俺の作戦は失敗したらしい
長らくお待たせしました
二ヶ月ぶりの投稿です
今日の事を覚え続けるには。結局のところ、問題はそこにある。俺は思い出した時の反動で忘れたくても忘れられなくなっているけれど。
かと言って、各自でなんとかして下さいと言うのは気の引ける話だ。
「…一番、確かなのは……何かに書き留めておく事かな」
「…それだけ?」
「ああ。そして記憶に深く刻まれるまで、その書き留めた物が目に入るようにしないといけない。施設員に分からないように」
「それが一番難しいんじゃんねぇ…?」
思わぬ難題に頭を悩ませる俺たちを、ただ一人だけが不思議な顔をして首を傾げていた。
「…なんでみんな、そんなに悩んでいるの?」
「ニコ?」
「要するに、バレなきゃいいんでしょ?」
「あ、うん、まぁ、そうだけど」
「書いた紙を教室に置いておけばいいじゃない。この部屋は監視の目から一番遠いんでしょ?先生がいるから」
…………そ。
「「「「「それだぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
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そこから先は早かった。いや、もう、このグダグタ説明展開から早く抜け出したいとか、そういう思惑なんて無いですよ、全然。ええ。ありませんとも。
「マスターキー、確保できました」
「思ったより単純だぜ、この施設」
「セキュリティ頼りでぇ、巡回なんてほとんど無いわよぉ?」
「よし…なら作戦開始は今晩。準備はいいな?」
その晩、俺たちは各部屋からこっそりと抜け出して…教室に集合する。気配を殺し、ゆっくり、慎重に。そして最後に、脱出ルートの確認だ。
「この施設は地下空間にある。つまり上に行けば出られるってわけだ」
「半径1キロにも及ぶ円形構造で、中心には施設員専用の昇降エレベーター」
「全階層六階建て、上に出るには昇降エレベーターを使うか、非常階段でしか出られない」
「現在は地下四階、どう出る?」
「非常階段を上る。昇降エレベーターは見つかった時のリスクが高いからな。そして、もしも捕まりそうになったり、逃げきれないと判断した時は……」
「大人しく捕まる。そうだろ?」
そうだ、何よりも優先すべきは生きる事。生きる事を諦めなければ、必ず何とかなる。次はきっと来る。
「よし…なら、行くぞ……っ!」
夜の時間帯は見回りが無いので、気にするべきは人の目では無く機械の目。
「電撃放出!」
通路に設置されている目や触覚は、電撃を流す事で一時的に無力化して通過する。
「ライト、残量は問題無いか?」
「もち。まだまだ撃てるぜ」
戦闘班支援隊、ライト。電気を蓄電して放出する。蓄電するには静電気でしか溜められない。そのために、夏でもセーターを着ている。暑くないのかな。
「着いた、非常階段だ。優川先生」
「分かっています」
マスターキーを読み込ませて、扉のロックを解除。カメラを破壊しつつ、俺たちはひたすら上を目指した。
「…なぁ、亮太」
「……なんだ」
「簡単すぎないか?」
「………」
それは、少し前から俺も感じていた違和感。いくら下準備がしっかりしているとはいえ、総勢三十名の大移動だ。気づかれないのは少し……変だ。けれど。
「…このまま進む。例え罠だろうと、引き返す理由にはならない」
非常階段を登り続け、いよいよ最後の扉の前までたどり着いた。マスターキーでロックを解除し、扉を開ければ…自由が待っている。
「…ロック解除、出来ました」
「よし…みんな、準備はいいな?」
「「おう!」」「「大丈夫!」」
期待に胸を膨らませて、俺が扉を開け放った瞬間。何かが顔のすぐそばを通り抜けたかと思うと、すぐ後ろでうめき声が聞こえた。続いて、何かが倒れる音も。
「んん?誰かに当たったのかな」
扉を開けたその先には、白衣を着た一人の男が…何かを持って向けたまま、ただ立っていた。
「んーと…倒れてるのは881240番かな?静電気を蓄電放出する子。合ってる?」
「…ライ……ト?」
後ろを振り返ってみれば。額に小さな穴を開け、赤い血を今もなお垂れ流しているライトが倒れている。
「っひ……ぁあっ!!」
「うっ…お、おげぇ、おぼろろろろ……」
突然襲ってきた『死』に耐えきれず、何人かは半狂乱したり、吐いたり。俺はなぜか、その光景を見ても何も思わなかった。
「まったく…ナメられた物だね。まさか脱走されるとは」
「……所長…」
所長?所長だって?この覇気のない奴が施設のトップなのか?
「おや…実験体だけかと思えば、見知った顔じゃないか。ははぁ、読めたぞ?さては優川クン、良心に耐えきれず逃げ出そうって魂胆だね?」
「っ…!」
「今まで散々、実験体の記憶を消しておいて…それは無いんじゃないかな?そこの実験体共も、いいように記憶を消して操っているんだろう?」
……何を、言っているんだ?コイツは今、優川先生と話しているのか?だとすれば、俺たちの記憶を消しているのは…
「あぁ、別に怒ってなんていないよ。実験体の記憶を消してくれるならね」
「おい…おいおいオイオイオイっ!てめぇ、オイオイオイオイオイッッッ!今ァ!なんつったァ!優川先生が記憶を消した犯人だァ!?寝ぼけてんじゃねぇぞゴルァ!!」
「はぁ……礼節も教えていないのか、優川クン。言葉が汚いぞ」
「っ…タツミ君、先生は大丈夫だから……」
「いいや、先生。こーいう奴には一回バシッと言ってやんなきゃ「うるさい」」
タツミの言葉を遮るように言ったかと思うと、けたたましい爆発音が鼓膜を震わせる。
「がああああああああああッッッ!!!!」
「た、タツミ!?タツミぃ!!!」
「ふむ。頭を狙ったつもりだったが、逸れたか。やはり旧時代の兵器は使いにくいな」
タツミの右肩から、赤い液体がじわじわと衣服を染め上げている。腰を抜かして座り込んでいたニコが、悶えるタツミに駆け寄った。
「その音…聞いた事あるぞ。銃だな」
「へぇ、よく知ってるね。ふぅむ……あぁ、実験体372625番か。実験では使っていたんだよね」
構えていた銃を下ろし、ふらふらとこちらに歩み寄ってくる。警戒心が無いのか、それとも絶対的な自信からか。触れられる距離まで歩いてくると、じっと俺の顔を覗き込んだ。
「君はね、合格だよ」
「……あぁ…?」
「優川クン。あとの処理は任せたよ」
「……わかり、ました…」
優川先生が泣き続けるニコに触れると、途端にぴたりと泣き止み。なおも痛みと戦うタツミに触れると、ぱたりと意識を失った。そのほかにも、泣いたり発狂したりしている子ども達に触れると、次々に大人しくなっていく。
「…先生……」
「君はこっちだ」
ほとんど人質を取られたような状態の俺は、所長の言う事に従うほかなく。連れられるままエレベーターに乗せられて、地下最深部まで連れて行かれるのだった。
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