#20 俺は真実を告げたらしい
短期決戦。慎重を機した作戦も良いが、時には大胆すぎる勢いも大事だ。
脱出作戦を上手く進めるため、俺は記憶の消去について、施設の子ども達に知りうる限りの情報を教える。
「な、なん……だって…」
「信じられないかもしれない。けど、事実なんだ」
「あぁ、信じられねぇよ……まさか…」
みんな互いに顔色を伺いながら、聞かされた事実を理解しようとしているようだった。そりゃあそうだ、俺だって何も無しに信じろって言われた所で、信じられるはずが……
「「「「亮太が壊れたなんて」」」」
「おい?」
こいつら俺の事をなんだと思ってんだよ。話を信じるどころか、俺の正気度を疑うと来たか。いい度胸してるぜ本当にな!
「俺は正気だぞ」
「正気なら本当にヤベェって。大体、はぁ?なに?昨日の記憶が無いだ???俺は昨日の昼飯も一昨日の昼飯も、先月の昼飯も思い出せるんだぜ?」
「それはそれで才能だがな?」
「大体、昨日の記憶が無いなんて言われて、ハイソウデスカ。とはなら無いだろ?記憶だけ無くなって、時間が定刻通り進んでいるとするなら、俺たちはもうとっくに大人になってるはずだろう」
「むぐ……」
言動が馬鹿とは言え、察しが悪いのかと聞かれるとそうでも無い。俺が気付いたのは偶然だし、確証を得るのだって優川先生の能力あってこそだ。
仮に記憶消去が七日に一度行われなかったとして、単純に考えれば俺たちは七倍の速度で成長している事になる。理論の穴、というより矛盾点を突かれた気分だ。
「まぁ別にぃ?亮太を疑う〜とかぁ、先生を信じられない〜ってわけでも無いんだけどねぇ?」
「明確な証拠が欲しいよな」
「わかりみ。亮太でも分かんない謎なトコもあるっぽいけど、やっぱ信じるには確証が無いとね」
信じない、と言うよりは…疑わしいって事なんだろう。短期決戦を息巻いたのは間違ってないとは思うが、決行が早すぎたのかも知れないな。
「あ、あの、皆さんっ!亮太君は嘘なんて吐いてません!先生の記憶は絶対なんです!!」
「「「…そう言う事を言ってるんじゃ無いんだけどなぁ……」」」
どうやら優川先生は言葉の裏を読むのが苦手らしい。人を疑うって事を知った方がいいんじゃないかな?
「…まぁ、そう言う事だ亮太。今はただ頭の片隅に置いておく……つっても、亮太の話じゃ明日には忘れてるか、結局覚えていて嘘だと思われるかのどっちかなんだろうけど…」
澄ました顔をイタズラ心に満ちた悪い笑みに変えて、言葉を続ける。
「亮太の事だから、もう手を打ってあるんだろ?」
「…よくわかったな」
「そりゃ、亮太だからな」
「亮太だもんね」
「亮太なのよねぇ」
「動詞亮太」
突然意味わかんねぇよ。なんだよ亮太(動詞)って。広辞苑にでも載ってんのか?
「何にしろ、その仕込んだ確証を出してくれ。全てはそれからだ」
「…出せば、信じて協力してくれるか?」
「もちろんよぉ?なんだって協力するわぁ」
「誰も死にたく無いしな」
「あとなんか楽しそう」
……言ったな?しっかり言ったな?なら、何があっても絶対に協力してもらうからな?
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『何にしろ、その仕込んだ確証を出してくれ。全てはそれからだ』
と、いうのが昨日の話。俺が話し始める所から全てを録画しておき、今日はその録画を再生して見せた。かがくのちからってすげー。
「出したぞ」
「……出したぞ、じゃねぇよ…」
なんだその顔は。俺がもっと、メガネの小学生も顔負けな画期的でスッキリした証拠を出すとでも思ったか。証拠は探すんじゃねぇ、作るもんだ!
「まさかとは思うが、捏造だなんて言わないよな?」
「言わないけどぉ…でもぉ……」
「もっと推理ショーみたいなのを期待してたと思うんだよ、忘れた昨日の俺たちはさ…?」
「ふざけろよ。俺が、真実はいつも一つ!とか、じっちゃんの名にかけて!とか、さぁ…お前の罪を数えろ!とか言うわけないだろ」
「最後絶対違う」
「亮太、それ探偵やない。ライダーや」
「ていうか、やりたかったんだね推理ショー……」
とまぁ、遊ぶのはこの辺りにしてと。覚えの無い事実をしっかりと観てもらったわけだし、嫌が応でも協力してもらうとするか。
「で?俺たちは何をすれば良いんだ?」
「話が早くて助かるってか…楽しんでるよな?」
「まぁな。能力をフルに使って暴れろってんだろ?ワクワクしてるのは間違ってない」
大人になるに連れて、きっと価値観は変わっていくのだと思う。お金を持ってる奴がスゴイ、整った容姿がスゴイ、誰かを従わせる権力がスゴイ。
でも、俺たち子どもにとって『スゴイ奴』ってのは、至ってシンプルだ。すなわち「最強の能力者」この一点に限る。要するに今回の事件は、つまり「最強決定戦」でもある。
もちろん能力の性能が全てでは無く、それらを運用する知力も含めた「個人」全てなので、全員が自分こそ最強だと思っているようだけど。
「やる事は大まかに言って二つ。施設の全容を把握する事。これはこの施設を脱出するためだ。そして、脱出した後の生活。ここにいれば衣食住は保証されているが、外はそうでもないらしい。何をするにも『通貨』という物が必要らしい」
「つう…か……?」
「教科書に書いてあったぞ!たしか、石とか貝だって」
「いや、それは昔の通貨だ。今は特殊な電子機器に仮想通貨を入れておき、使用するらしい」
もう少し前は、紙に価値を持たせて取り引きしていたらしいが、今は廃止になったと聞く。まぁ、紙なんて物に価値があるってのが、本当か疑わしい話ではあるけども。
「とにかく、今は施設の脱出が最優先って事で、出てからの事は出てから考えるで、いいんだよな?」
「あぁ、その通りだ」
「じゃあそのツウカってのは後回しにして、施設の全容を把握ってのはどうやるんだ?まさか、何日もかけて地図を書くなんて事は…しないだろ?」
「そこはもちろん、能力を使う」
「だったら、オレの出番だな!」
そう名乗りを上げたのは『壁耳障目』の能力者だった。
「頼むぞ、ええっと…No.442188」
「いやそれ検体ナンバー!オレは『ショウジ』だ!」
「あぁ、うん、それな」
数えるしかいない子どもの数だ。大体「おい」「なぁ」「お前ら」で会話が成立するんだから、名前なんて適当でいいのに。俺の『亮太』だって、みんなが付けた呼び名なんだから。
「えっと、ショウジ…だけじゃ大変だろうから、他に探知系能力者がいたら何人か手伝ってやってくれないか?」
「探知って…地形限定?」
「いや、施設の大人にバレると脱出計画そのものが白紙になりかねない。対人でも対物でもいいぞ」
「それならぁ、私が適任ねぇ」
「No.313301……」
「私の能力はぁ…『予知予見』……五分先の未来を見る事が出来るのよぉ?それとぉ、私は『サトミ』っていうのぉ」
「じゃあ、サトミとショウジには施設探索をお願いするとして…あと一人くらい、頼みたいんだが……」
「俺が行く」
名乗りを上げてくれたのは、ありがたいが。彼の能力は確か探知系では無かったはず。というか、むしろ「対探知系能力者」の能力だったような?
「相手は何年も前から、俺たちを実験台にしてたんだろ?並の能力者だとは到底思えねぇ。シロートがより集まって調べようモンなら、秒でバレて終いだ」
「うっ……」
「たしかに…」
へぇ……少しは出来そうな奴がいたな。四人一組で動かそうと思ってたけど、これなら能力の組合せ次第で、三人一組を任せられそうだ。
「能力は?」
「『認識消去』。そこに存在する全ての痕跡を、世界から消去する能力だ。物的証拠だろうが誰かの記憶だろうが、関係なく消し去れる」
おお!?そんなに強力な能力なら、二人一組でも全然問題ないぞ!?というか、痕跡を全て消せるなら、全員一塊になって堂々と外に出られるんじゃあ…。
……と、考えた矢先。名乗りを上げた彼の隣に座っていた女の子が、彼の頭を思いっきり引っ叩いた。
「何すンだよ!」
「嘘言ってんじゃないわよ!アンタの能力は『認識阻害』でしょうが!」
「えっと……」
「あ、ごめんなさい。うちの『タツミ』が馬鹿なこと言うから、思わず……」
「嘘じゃねぇ!いずれ俺の能力は最強の隠密能力になるんだ!」
「今はそこまでじゃないんでしょ?まだ自分と、両手で触った人だけ認知されないようにする程度じゃない」
「こ、これから成長すンだよ!!」
…うん、まぁ、未来に期待って事で。とりあえず、彼は……タツミは、二人までなら隠せるって事でいいんだな。
「あ、ウチは探索とか無理だからね?戦うとかも絶対出来ないから。二人に分裂する能力者に、何か求められても何も出来ないから」
「……『ニコ』は俺が守るから別にいいんだよ…」
「なんか言った?」
「何も言ってねぇ!」
ニコはタツミのお母さん的立場なんだろうか。まぁ、俺の知るところでは無いが。
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さて。俺たちの中から厳選して、探索班を作ったわけだが。
そもそも俺たちの能力は「不老不死、死者蘇生になりうる能力」というだけあって、戦闘や探索にはほとんど使えない能力ばかりだ。なので手分けして施設の構造を記録したり、いざという時の戦闘班を作ったとしても、あぶれてしまう「その他大勢」が出てしまうわけで。
「戦えない、調べられない僕たちって、何すればいいの?」
「何もしない」
「……え?」
「いや分かる。分かるぞ?他の子が何かしらの役目を持ってるのに、俺を含めて何もしないのが気の引ける事だっていうのは」
しかし。しかしだ。下手に大人数で行動して、作戦決行までに施設側の連中が俺たちの思惑に気づいたとしたら?とてもじゃ無いがこんな穴だらけの作戦、奇襲でも無ければ成功するなんて思えない。
「何も出来ない俺たちは、出来る奴の邪魔をしない事だ。少しでも成功率を上げるために、いつも通りの生活を送って気付かれないようにする。俺も含めてな」
「え、亮太も?」
「そうだよ」
速度を奪うだけの能力に何が出来るって言うんだよ。能力を解除したって、奪った速度が戻るわけでも無いのに。
「ま、いいんじゃね?苦手な事は得意なやつに任せておけば。探索班とか戦闘班っていっても、戦わないに越した事はないんだし」
「…それはそうだけど……」
「だったらこの話はここで終わりだ。そうだろ亮太?」
「まあ、そうだな。他に聞きたい事が無ければだけど」
作戦そのものはまだ出来ていないから答えられないけれど、それ以外なら答えられる。
そう聞くと、一人だけ手を挙げた。
「あのね、二つほど聞きたいんだけど」
「うん」
「施設のマスターキーが使えなかった場合って、どうするんですか?」
「方法はまだ決めていないけど、力尽くで突破する予定」
「…うん……じゃあそれはそれでいいとして」
二つ目の質問は、誰も予想しなかった質問だった。それも、この話の根底を覆しかねないほとの。
「今日の事を明日も覚えていられなかったら?」
「……あっ」
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