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#17 俺のクラスに留学生がやって来る

「美少女だ…」「金髪美少女がやってきた…っ!」「俺、没能力でよかった…っ!!」


 堂々と遅刻しておきながら、リサは楽しみで仕方ないとばかりに鼻息を粗くしている。

 というか、ざわついてるクラスの男子どもよ。そいつは美少女の皮をかぶった馬鹿だぞ。


「ふんす!ふんす!!むふー!!!」


 ほらもう馬鹿がにじみ出てる。


「……まぁ、登校してきた事は褒めてやろう。先生ならもう仮病使って欠席する時間だからな」

「褒められたデス!リサはすごいデス!!」


 褒めてない、褒めてない。


「…明日は遅刻しないように。んで、自己紹介しておきなさい。席は明日改めて追加させるから」

「バッテンデス!」

「「「????」」」


 ガッテンだろ。それだと意味が逆になるわ。もうクラス中が理解してないだろうが。


「ではでは、アタリメマシテ…Meはリサっていうデス!First nameはながーいのでシンリャクするデス。English(イギリス系) American(アメリカ人) Born(カナダ) in Canada(生まれ) Raised(日本) in Japan(育ち)デス!ユメはシノビ、シュミはシュギョウ!Skill(能力)は……ンと、シュクショ?デス!よろしくデス!!」


 なんというか、設定が盛り盛りに盛られていてお腹いっぱいデス。そして男子どもよ、惜しみなく拍手を送っているが、再度忠告しておこう…そいつは筋金入りの馬鹿だ。バカガールだ。

 ……もうツッコミが追いつかなくてどうでも良くなってきた。早く終われ。もう帰りたい。そしてそのまま俺に気付くなよ?


「ほらほら、お前ら騒ぐな立つな色めくな。時間も押してるから、今日提出日の宿題を置いてさっさと帰れ。先生も帰るからな、遅くまで残ってるなよ。解散」


 面倒は嫌いだとばかりに、先生はさっさと教室を後にする。その瞬間に、リサはクラスメイトにもみくちゃにされながら質問攻めにされていた。


「亮太、いいの?」

「…何が?」

「知り合いだろ?助けなくていいのか?」


 囲まれるリサを放っておいて、さっさと帰る支度を始めた俺を彩里と大吾が呼び止める。


「知り合いには違い無いが、助けるほどでもないだろ。あれくらいなら、一人で切り抜けられる……はずだ。というか今は関わりたく無い」


 触らぬ神に、もとい。触るリサにトラブルが付きもの、だ。わざわざ触れに行って、やらなくていい事をやる必要は無いからな。


「んじゃあ俺は先に帰……」

「アッ!ちょっと待つデスよリョータ!!リョータってば!置いていかないで欲しいデス!!」

「………っ」


 なんでこのタイミングで話しかけるかな、あのバカガールは。クラス中の注意がリサに向かっていたのに、今は全部俺に向けられてるって、なんで気付かないかな。ほらみろ、コソコソと後ろで「え?井堂(せいどう)とリサって知り合い??」「どういう関係で…?」「おいおい没オブ没能力の井堂がリサさんと深い仲???」なんて話しているじゃねぇか。


「……よ、よぉ…」

「どうして逃げるデス?一緒に帰るデス!」


 おいやめろ。腕を組むな。親密な仲だと思われ「一緒に帰る…だと……!?」「えっなになに同棲してるとか…?」「だとしたら種田さんはどうなる…って、あの雰囲気は知り合いっぽいぞ…?」「えぇ…嫁公認の愛人……??」……なんか不吉な予感がしてきた。今のうちに弁明しておこう。夏休みと同じ轍は踏まないぞ。


「お、おいお前ら、俺とリサは別に深い仲とか、そんなんじゃ無いからな!ほら、リサも何か言ってやれ!」

「ソーデス!リサとリョータはそんな関係じゃ無いデス!」


 おっいいぞ、たまにはマトモな事を言うな!!


「……大吾、アタシ嫌な予感がするわ」

「奇遇だな、俺もだ」


 さぁもっと言ってやれ!初対面なんて嘘は通じないんだ。この際、バイト仲間くらいなら納得してくれるだろ。


「リサとリョータは、言ってみれば主とメイド……リサの全てを捧げるご主人様、デェェェェェス!!!!!」

「お前もう黙れよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?!?」


 亮太の悲痛な叫びが、校内に響き渡るのだった……。


 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


 結論から言おう。弁明は叶わなかった。

 リサのやつ、俺の叫びは完全に無視して『サァ帰るデス!リサとリョータの愛の巣ニ!』とか訳の分からない事を口走りながらズルズルと引きずりやがって……っ!


「リサちゃんって、強引な所あるよね…」

「超ポジティブ思考とも言えなくないぞ」

「俺、もう明日から学校行きたくない……」


 明日は絶対に問い詰められる。気かれる。どう言い訳しようとも墓穴を掘る未来しか見えない…っ!

 …そうだ、学校をぶっ壊せば明日から行かなくてもいいんじゃないかな??


「……つーかどこまでついてくる気だ。もうすぐ家に着くぞ」


 結局、腕を組んだままのリサは離れる様子もなく。彩里や大吾と一緒にくっついて来てしまった。


「そういえばそうだな。俺と彩里は亮太と家が近いから分かるけど、リサちゃんはどこに住んでるんだ?留学生なんだろ?」

「順当に考えれば、ホームステイよね?それとも一人暮らし??」

「持ってるデス!」


 ………モッテル????もってる……持ってる!?!?


「あとで建てるデス。そうデス!みんなでTea timeするデス!『善は回れ』デース!」

「善は急げ、な。じゃなくて!?建てるってなんだ!?持ってるってなんだ!?どこでお茶会する気だ!?!?」


 リサはロクな説明もせず、ずんずんと先を歩く。やがて大吾の家に着き、彩里も一度家で着替えると言って帰っていった。


「…で、いつまでついてくる気だ。もう俺の家だぞ」

「リョータの家は、リサの家デス」

「聞いてない」

「今言ったデス」

「お、ま、え、なぁぁぁぁぁ!?!?あれだけ口酸っぱく『報告、連絡、相談』をしろと言ってるだろぉぉ!?」

「今ホーコクしたデス」

「それは事後報告だろっ!俺が言ってるのは事前報告だ!!」

「…ニホンゴ、ワカリマセーンデス」

「都合の悪い時だけ日本人を辞めるなっ!」


 そもそも年頃の男女が同じ屋根の下って、倫理的にマズイだろ!!どうなってるんだよ、大丈夫か!?


「あーもう……とりあえずその、持ってる?っていう家ってなんだよ。出してみろ」

「ハイデス」


 そう言ってリサは、ポケットから小さなキーホルダーを出して。


「……なるほどなぁ…いやまぁ、納得は出来たけど…」


 リサの出したキーホルダーは、手のひらに乗るほどの、豪邸を模していた。つまりコレは、リサの能力によって小さくされた本物の家ということになる。が、しかしだ。


「これ、元の大きさに戻して、どこに置く気だ?見たところ、相当広い作りだが」

「コレは、サテライト特性の『リサちゃんハウス』デス。リサも小さくなって入るデス。家庭用コンセントに挿して使うデス。屋根の中にタンクが入ってるデス。水を入れておけば水道も使えるデス。コップ一杯でone week…一週間使えるデス。ホカにもTV、シアター、バスルーム、トレーニングジム、カラオケ、ボウリング、ドローンコックピットもあるデス」

「…気に入ってる?」

「もちろんデス!」


 後半はほぼ聞き流していたが、つまりはちょっと大きなオモチャの家だ。それも超が付くほど高性能な。そしてリサは自分を小さくして、その中に住むって事なんだろう。それで分かった、リサが『俺の家に住む』という意味が。


「まぁ、そういう事なら設置していいぞ。ひとつ屋根の下ならぬ、ふたつ屋根の下だからな」


 どうでもいい話なのだが。俺の家は部隊の臨時基地としての役割を持っている。そのため、一人暮らしではあるが、一戸建ての一軒家だ。

 自室とリビング以外は、もう何年も使っていないので……どれか一部屋をリサにあてがうとしても、一度掃除をする必要がある。

 まぁ、部屋の中にオモチャの家がぽつんと置いてあるのも、なかなかシュールなんだけどね。


 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


 その後、リサのささやかな歓迎会が執り行われ、俺と彩里と大吾はリサちゃんハウスを訪れた。

 元の大きさで作った料理も、食べる人間が小さくなれば食べきれないほどに余ってしまう。

 とっぷりと日も暮れ、遊び疲れた大吾と彩里は帰路に着き、部屋の掃除は後日するとして、今晩のみリサちゃんハウスを俺の寝室に設置した。


「じゃあ、おやすみ」

G'night(おやすみ)デス…」


 これでも寝付きはいい方だが、今日に限って一向に眠くならない。目を閉じて、深く呼吸をすれば、すぐに眠れるのだが。


「…………」


 久しぶりに騒いだせいなのか、それとも誰かと一緒に眠るのが久しぶりだからなのか。なかなか寝付けないでいた。


「…起きてるデスか、リョータ」

「……寝てる」

「…リサ、ずっと考えてたデス。リョータの…ムカシの事……BOSSに聞いても『本人が言わないなら話さない』って」

「………」

「リサは…リョータよりも、サテライトよりも、他の誰よりも、遅くこの場所に来たデス。だから、リョータの過去は知らないデス。デモ、リサはみんなの事…モット知りたいデス」


 ………そうか、リサはまだ配属されて間も無かったっけ。リサの捕獲は、たしかサテライトの初任務だったから…まだ二年だっけ…??


「…十年前の地盤崩落事故……リサは知ってるか?」

「知ってるデス。地震でとある地区の一つが丸々沈んだ事故デス」

「あれ、本当の原因は地震じゃないんだ」

「…デス?」


 隠すような話でも無いし、何より俺にとっては終わった話で。かと言って、吹聴する気にもならない話だ。

ご愛読ありがとうございます。


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