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#12 俺の敵がまたもや現れる

「意外だな」

「あぁ、まったくもって意外だ」


 大吾に連れられてやってきたのは、廃墟と化した病院だった。とは言え、自家発電システムが生きているおかげなのか、非常灯やナース室には電気が灯っている。点滅しているが。


「こう見事に掛かってくれると、逆にこっちが冷静になれる」

「肝試しって、試す気にもならんなぁ」


 大吾と亮太の前には、先行して歩く彩里とリサの姿が見える。彩里いわく『べ、別に怖く無いし!でもまぁ、主催者の近くだと余計な事されそうだから、アンタたちはアタシの後ろよ!わかったわね!』らしい。その結果。


「ぎゃあああああああ!?!?!?」

「イロリ、イロリ!あそこに何か見えるデス!」

「うわあああああああ!?!?!?!?」

「ト思ったら今度はウシロからデス!」

「いやあああああああ!?!?!?!?!?」


 意味もなく置いた白手袋に悲鳴を上げ、隙間風になびくカーテンに絶叫し、吊るしたハンペンに発狂する。見ていてかわいそうになってくる。


「トッても楽しいデス!」

「アンタ、おかしいんじゃ無いのッ!?」

「というより彩里、前は普通にゾンビ映画観てなかったっけ?ホラーがダメなワケ無いだろ?」

「うっ……うぅ…腐乱死体はいいのよ……燃やせるから…でも幽霊は燃えないじゃない!だからダメなのっ!もう帰るぅ!帰りたいよぉ!!」


 そんな基準かよ。どんな理論だ。そもそも死体が動いたら、普通は能力者を疑うだろ?死体操作とか、念動力者とか。というか、焼いた事あるのか腐乱死体……。


「……大吾、あのさ…」

「うん。なんかやり過ぎた感否めない」

「まぁそういうわけだ、彩里。帰るか」

「…………うん…」


 ぺたりと座り込んだ彩里に話しかけ、ふるふると震える手を握ってやる。さすがにリサも、空気を読んでふざけるのは止めたようだ。


「……あれ?」

「どうしたデスか?」

「…亮太、能力使ってないよな?」


 入ってきた入り口にまで戻り、鍵の壊れた扉を開けようとする大吾は……ふいに、そんな事を聞いてくる。


「あぁ、大吾が禁止だって言うから。まさか、開かないのか?」

「いや…っ……そんな、はず、は……ッ!!」


 押し開く動作に少しずつ力を入れ、ついには全体重をかけたタックルまでし始めた。押してダメなら引いてみろ理論も通用しないうえ、そもそも錆び付いて古くなった扉を、蹴り破れないのはおかしすぎる。


「ちょっと退いてくれ……はぁぁああああっ!!」


 凄まじい轟音を鳴らし、能力の乗った全力の正拳突きですら……その扉は防ぎきってみせた。そんな事、一般的に使われる材質に出来るような芸当じゃない。


「な、何を遊んでるのよ!早くしてっ!」

「……」

「お、おい……大吾…?」

「…閉じ込められた」

「なんデスと!?」


 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


 それから三十分くらいだろうか。大吾の全力攻撃も、リサの縮小も、もちろん俺の固定化も速度付与でも突破出来ず。彩里の連続発火なんて一番凄かった。扉が溶解するんじゃないかってくらい焼いたのに、ビクともしない。


「どうだった?」

「だめだ、窓も他の出入口も、ガチガチに固い」


 大吾の全力だけなら、扉がガタついている可能性もあった。けれどリサの縮小で扉単体が小さくならなかった時点で、最低でもこの扉には俺と同じか、または別の能力が使用されていると考えられる。

 そこで、大吾に他の出入口を探してみてもらったが……その答えが、先ほどの問いかけだ。


「呪いよ……きっとアタシ達、幽霊に呪われたのよ…」

「イロリ、落ち着くデスよ。stay cool(落ち着いて冷静) に、デス。今のジダイ、ユーレイもヨーカイもアヤカシもUndead(死霊)もオンミョージも……ショセンはロマン、なのデス」

「だったらこの状況をなんとかしてみなさいよっ!!出来もしないくせに!!」

「おい、彩里……いくらなんでもその言い方は…」


 ひどいんじゃないかと、言及しようと思った時だった。


「フザケルのも大概にするデス!!!!!!」

「っ!」


 突然、リサは怒号をあげて彩里の胸ぐらを掴み上げる。


「コワイのはわかるデス!足がフルえて立ち上がれナイってのも理解出来るデス!!!ダトしてもッ!ずっとスワり込んでジッとしてれば解決するとホンキで思ってるデスか!ズいぶん頭のナカはお花畑なんデスね!」

「ち、ちが……アタシは、そんなつもりじゃ…」

「だったら、ショーメイしてみるデス!みせるデス!!やらないまま終わっていいハズが無いデス!!」


 ようやくリサが彩里の胸ぐらを離し、ほんの数秒だけ静寂がやってきた。


「……大吾」

「お、おう」

「アタシ、どうすればいい?」

「ん、ん、そう、だな。うん。えっと……?」


 まだ少し混乱気味の大吾は頭をフル回転させて、次の指示を考える。


「二手に分かれよう」

「分かれて……それで?」

「俺と彩里、亮太とリサちゃんの二人に分かれて、俺は上を。亮太達は下を探索するんだ。でもって、脱出口を探そう」

「下……?」

「ああ。さっき辺りを見てきた時に、館内案内図を見つけたんだけど、上は六階と下は業務用と合わせて地下三階まである。とにかく、出れそうな抜け穴を探そう」


 大吾にしては名案だ。けれど、厄介な問題が一つ残っているな……さて。


「なぁ大吾、もしも院内で閉じ込めた奴に鉢合わせたらどうする?交渉してみるか?」

「俺は逃げる。でも彩里は……」

「…もしも、閉じ込めたのが人間なら……炭も灰も残してやるつもりなんて無いわ」


 不憫なり、犯人。まぁ当然の報いというか、なんというか。助けてやらんが冥福を祈ろう、なむ。


「じゃあ、あとは頼んだぞ」

「任せるデス!!」


 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


 まだ少し明るいナース室の前で分かれて俺とリサは地下へ、大吾と彩里は階段で上へと向かって行った。どうやら地下一階と二階は美品庫らしく、使い古された棚や物が置きっぱなしになっている。


「ウッソウとしてるデスね……本当にデそうデス」

「…そうだな」

「……あの、リョータ?」

「なんだ」

「今回の件、デスが…」

「みなまで言うな。どうせ狙いは俺だ」

「気付いていた、デスね……」

「まぁな」


 連日の事件、サテライトからの注意、リサが送り込まれたタイミング。これだけ揃って、まさか何も無いというのも、おかしな話だろう。


「イロリ達、無事だと良いのデスけど……」

「あっちは絶対大丈夫だ。保証する」

「どうしてデス?」

「多分、相手の能力の発動条件だからな」


 そう言うと、リサは目をぱちくりさせて俺を凝視する。


「相手にココロアタリがあるデス!?」

「無い。けど、予測とブラフで、今さっき確信を得た」

「……ドコで、デス?」

「大吾に聞いただろ?閉じ込めた奴に会ったらどうするかって」

「……デス」

「誰も、一言も、この監禁行為が、人為的で、犯人が中にいる、なんて言ってないだろ」


 そう言われてリサは会話の記憶を必死に思い出し、上の方をじっと見つめて何かを読み返すように目を細めると。


「ホントなのデス!」

「二手に分けたのは、戦力の分断っていうのもあるだろうけど……」


 能力の要を、みすみす手放すとは思えない。となれば、少なくとも命の保証はされるだろう。


「さて……この先が地下三階だ。準備はいいか?」

No problem(大丈夫だ、問題ない)デス」

「よし……ッ!」


 階段を下りようとしたその時、踊り場の影から……チラリと、何かが見えた。


「まて、リサッ!なにか……いるッ!」

「了解デス…!」


 重心を落とし、いつでも飛び出せるように構えを取った直後。背後に、嫌な寒気を覚える。


「ッ!!」


 とっさに、隣のリサを蹴り飛ばして横に回避。振り返ればそこには、白い服を着た髪の長い女が立っていた。


「な、ナニが起こったデス!?」

「落ち着けリサ!俺たちはすでに、攻撃されているッ!」


 身を翻し、壁を蹴り付け、その手で速度を奪うべく手を伸ばす。


「ッ!?」

「エッ、エエっ!?」


 触れるはずの手は、まるで空気を掴むかの如くすり抜け、あまつさえ飛び出した亮太の足首を掴むと、その女は全力で投げ飛ばした。


「リョータッ!」

「っぐ……大丈夫だ!」

「リョータに、何するデスかッ!」


 およそ人間には理解できない動きでリサが飛び出すと、空気の弾ける音とともに振り上げた脚を全力で振り下ろす。だがこの行動もすり抜けて、下された足は床を砕き抜いただけに過ぎなかった。

 それどころか、リサは後頭部を掴まれ、床に叩きつけられ……。


「させないデス!」


 一瞬だけ小さくなり、掴まれた手から逃れると、そのまま空中で回し蹴りを叩き込んだ。


「当たった!?」

「どんなもんデスか!」


 美品庫の棚を数列壊しながら吹っ飛び、女はホコリの中に消える。


「反撃が来るぞ、気を付けろ!」

「ガッテン!……デス?」


 だが吹っ飛ばされた跡には女の姿は無く、背中に感じていた嫌な寒気はいつのまにか無くなっていた。


「……消えた?…いや、突然後ろに現れた事を考えると…初めからデコイのような物だった?」

「……」

「…どうした、リサ」

「……なんデ、最初のAttack(攻撃)Miss(失敗)して…次のは当たったデスかね?」

「…まだ、わからん。それが能力の弱点なのか、それとも能力者の意図なのか……どちらにせよ」


 俺は下へと続く階段を見つめて。


「間違いなく、能力者はこの先にいる」

「……デース」

ご愛読ありがとうございます


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