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#10 俺たちの目的地に到着したらしい

 先ほどまで、うるさいくらいに鳴り響いていたサイレンは止まり、今はどこかと通信する無線の雑音が聞こえている。

 消防や警察といった国家機関は、科学終期よりある程度衰退したものの、やはり人命救助のスペシャリストなわけで。こういう災害救助には、いち早く対応してくれる。


「……つまり君たち三人は、たまたま近くにいて、この事件をどうにかしたいと思い、能力を行使した…というわけだね?」

「「は、はい……」」

「はぁ……全く、能力を行使するには資格が必要だと習わなかったのか?」

「「…………」」


 因みに、大吾と彩里は警官にしこたま怒られている最中だ。

 能力を公的に使用するには、最低でも三級の資格がいる。昔で言う所の、原付免許みたいなものだ。その上に二級と一級があり、制限が違う。

 三級だと、二級以上の責任者からの許可書、もしくは立ち合い。二級だと無許可での単独行使。一級ともなれば、無資格者に行使の許可を許される。


「今回は能力の相性が良く、なんとかなったかもしれない。だが、一歩間違えれば大事故に繋がりかねないと……」

「あの、お巡りさん。もうその辺で……二人には良く言って聞かせますから…」

「む……仕方ない、では今回だけだぞ。二級保持者の彼に感謝するんだね」


 一時間以上に渡るお説教は、結果はどうあれ事件を収束させた事実と二級保持者の俺が居たということ。後日改めて事情を伺うという条件の下に終わりを迎えたのだった


「ズルいわよ!一人だけお説教免除なんて!」

「ズルくねーだろ。俺は資格取得してたんだから」

「まぁ、実質的には筆記試験だけだし、受講年齢制限も無いし……取ろうと思えば子どもでも取れるからなぁ…諦めろ、彩里」

「大吾は黙ってなさいよ!そりゃ、あんたの言うことは正論かもしれないけどっ!」


 ぐうの音も出ないほど正論だよ。


「一番ムカつくのは持ってる事を黙ってた事よ!」

「んな理不尽な……」


 一級取得は難しいかもしれないが、二級までなら日本人口の九割は持ってるぞ?就職後に取得を義務付ける企業もあるくらいだ。


「とりあえずなんか負けた気がするーーー!!!」


 その後もプリプリ怒りながら、彩里と大吾は先に帰路へと着いた。

 一方俺は、固定したビルを元に戻さなくてはならないので、消防や警察と連携しながら事後処理に当たる事になっている。心底、面倒な事に首を突っ込んだものだ。


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 それにしても、国家機関の対応が迅速だ。流石に訓練されているだけある。俺の出番はかなり後の方なので、今は現場待機だな。


「……いや、早すぎるな」


 時計を見ても、事件発生から三時間程度しか経過していない。だと言うのに、もうビルに取り残された人はほぼおらず、二次災害も発生していなかった。


「……と、すれば」


 端末を手に持った瞬間、電話が入る。相手は、俺が今連絡しようと思っていた人物だった。


「やっぱりお前か」

『おいおい、その言い方はやめたまえよ。まるでこちらが、意図的に放置したみたいじゃないか』


 電話の主は男とも、女とも取れるような中性的な声で話す。こちらも科学終期に発達した音声のみのAI、ボイスロイドというものらしい。性別を明かさないため、一人称も語る事はないそうだ。


『まぁ、事件の事を君に話すのが遅れた事は、詫びようじゃないか。全てを知り得たいサテライトとて、調子の悪い時もあるのさ』

「……どうだか」


 おおかた、現場近くに俺がいる事を突き止め、あえて誰にも報告しなかったのだろう。国家機関に連絡したのは、おそらくサテライト自身だ。


『終わった事さ。過去は振り返らず、未来を見て行こうじゃないか、若人よ』

「…そういう事にしておいてやるよ。それで?わざわざ電話して来たのは、まさかそれを言うためじゃないだろうな?」

『無論だとも。時にダウナー、今回の件……事故か事件か、どちらだと思うかね?』

「事件だな。明らかに人の手が入っている」


 大気が震えたという大吾の言葉に、例の爆発音。確かに火薬や燃焼による爆発音と似てはいたが、近づいた時に焦げた匂いはしなかった。

 それに、一番の証拠はビルの倒れ方だ。普通、爆発によってビルが中折れするのなら、倒れるのは爆発した側に倒れる。ところが、今回はその逆……中折れしていたのは、爆発で吹き飛んだ被害箇所と、反対方向だ。


『事件か。それで、どう見るかな?』

「犯人の能力は、空気の圧力を操作する能力だな。青木が使っていた能力より、断然強力な……その能力で、ビルの中と外で気圧差を作り、切り離した。ビル本体はその衝撃で吹き飛ばされたと見るべきだろう」

『ふむ……半分はこちらと同じか』

「違うのか?」

『犯人は単独ではなく、複数犯だと思われるね。中折れしたビルの質量を、気圧差だけで持ち上げるのは難しい』

「うーん……」

『ともあれ、今は証拠不足だ。また新しい情報が出たら連絡しよう』

「まて。この件、隊長に報告するのか?」

『いや、まだしないとも。警察の手に負えないと判断するまではね』

「……分かった」

『それでは失礼するよ。君に、良き休暇を』


 そこで、電話はプツリと切れる。折り返しても、もう繋がる事はない。


「…変な事件の始まりじゃ無ければ、良いんだけどなぁ……」


 翌日、事件の犯人があっさりと捕まった。近くの監視カメラにばっちり映っていたらしい。

 サテライトの言う通り犯人は二人組で、一人は予想通り気圧操作の能力者。もう一人はなんの変哲もない念動力者だった。トリックも何も無い力技でビルを半壊させたそうだ。だが、犯行に及んだ犯人二人は面識などなく、犯行時の記憶も曖昧で容疑を否認していると報じられている。


「ますます意味のわからない事件だな……」


 その後も、ちょくちょく小さな事件を解決しつつも、普段よりは至って平穏な夏休みを過ごしていた。

 …何故か、その事件は全て俺が解決していたのだけれど……サテライトめ、わざと俺に解決させてるんじゃあ無いだろうな?


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 週に一度の報告会議も済ませた、八月中旬。


「準備は出来たか?」

「大丈夫だ、問題無い」


 そう大吾が言ったそばから、忘れ物に気付いて取りに走った。財布を忘れたそうだ、何も大丈夫じゃ無いだろうが。一番忘れちゃダメなものじゃねぇか。


「水着は……持った。食材は…途中で買うの?」

「あぁ、そう聞いてる」


 夏休み前から企画していた、海でのキャンプが今日から始まる。まだ日が昇って涼しい時間帯に、移動してしてしまおうという魂胆だ。


「彩里、気を付けて行ってこいよ?変なやつについて行ったら駄目だからな?車に気を付けて、信号を渡るときはしっかり左右を確認するんだぞ?それからオヤツは三時に食べて、毎食後にきちんと歯磨きをするんだぞ?夏でも夜は冷えるから暖かい格好をして……」

「パパ、うるさい」

「うぐっ……亮太くん…」

「そんな目で見ないでくださいよ……」


 むろん、隊長の……おじさんの見送り付きで。年端もいかない愛娘が泊まりがけでキャンプだ、心配もするだろうさ。うっとうしいけど。


「おーい!待たせたな、早速行こうぜ?」

「じゃあ、行ってきます」

「……行ってきます」

「うむ……もしもの時は亮太くんを頼るんだぞぉ!」

「うっさい!」


 最後の最後まで怒りっぱなしの彩里だが、心なしか喜んでいる風にも見える。


「……ツンデレファザコンめ」

「大吾?何か言った?ケシズミになりたい?」

「彩里さんは美人ですね!!!」


 こんな時だけ美人になる彩里……いや、彩里はいつも美人で可愛いだろ。

 今回のキャンプ地は、地下モノレールと電車(ローカル線)を乗り継いで行く。この時期は区画整備されたエリアの外側に旅行へ行く人達で混み合うのがお決まりだ。今はもう生産していない、ガソリン自動車で出かけるというのも、最近は流行している。


「いや実際、どうなんだろうな」

「何が?」

「昔の自動車だよ。ガソリンで動くやつ」

「……あぁ、ドライブトラベルの話か。ロマンがあって良いんじゃないの?」

「アタシはちょっと分かんないわよ。本物を見た事ないし…聞いた話だと、すごく煙くさいらしいわね」


 そんな感じで道中の話題にも尽きる事なく、モノレールを乗り継ぎ商業区へ。買い物を済ませて、さらに区画外まで一時間、無人の旧市街地を電車で二時間かけて、目的地に到着した。


「……なぁ大吾、本当にここで合ってるのか?」

「…そのはずだぜ?」

「その割には、人が全然いないじゃないの」

「…ま、まだ早い時間だからな!これから混み合うんじゃないか!?」

「だといいけどな……」


 旧市街地は、今の地図には道の一つも記されていない。そのため、旅行会社や古い地図を頼りに目的地まで移動する。ごく稀に、旧市街地でも栄えている所があるが、そんなものは余程の有名な観光地くらいだ。


「ねぇまだなの?歩くの疲れたんだけど」

「もうちょっとだ。波の音と潮の香りがするから、間違いなく海辺はすぐそこにある」

「へぇ……亮太は海に来たことがあるのか」

「…まぁな」


 危ない危ない、今は区画整理されたエリアから出る必要の無い時代だ。余程の物好きでも無ければ海や山に行く人はいない。それこそ、極秘の任務でも言い渡されなければ。


「あっ!あったぞ、この先だ!」


 そう言って大吾が指をさしたのは、錆びて取れかかった海水浴場への案内板。


「……亮太、アタシもう嫌な予感しかしないんだけど」

「奇遇だな、俺もだ」

「さぁ着いたぞ!ビキニのお姉ちゃんたちはどこかなーっと……?」


 うん、まぁ、おおむね予想通り。大吾の持つ古い地図に載っている写真という物には、さんさんと降り注ぐ太陽光に、眩しいくらい照らされた美女たちの姿が。そして目の前には、眩しいくらいに光り輝く青い海だけが。


「……ビキニのお姉ちゃんが…いない…………」

「お、でも見てみろよ。あそこの廃墟みたいな建物…写真にあるこの建物と瓜二つだぞ」

「何か書いてあるわ…ええっと……海の…家?よく分かんないけど、場所は合ってるみたいね」

「騙された……」


 誰も騙して無いと思うぞ。昔はよく流行った観光地だっただろうし。事実、途中に何軒か民宿跡地がちらほら建ててあったし。


「んじゃまぁ、タープ とテントの設置するぞ」

「あ、アタシも手伝うわ」


 一人で傷心している大吾は放っておいて、俺と彩里は手際良く設営を開始する。大吾の言うビキニのお姉ちゃんたちは見れなかったが…写真より綺麗な海と太陽には、確かに足を運んだ甲斐があった。何よりお腹が空いて仕方がないので、さっさとご飯にしよう。

ご愛読ありがとうございます


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