忙しい1日
「あの、何故精霊王からのお返事が聞けないのですか?」
「それは、あいつが神殿に居ないからだろう。」
あいつ?!え?それって神様のことですか?
確かにこの人は大魔法使いですが、仮にも神様を精霊王をあいつ呼ばわりして罰が当たらないのでしょうか!!
思わず涙目になるのが自分でもわかった。
「リリアナ、リリアナ。君が何を心配しているのかは分かるけど、うち(魔法省)では大魔法使い様はいつものこんな感じだから大丈夫。」
リカルドがフォローに入ってくれる。
いつものことって、魔法省ってどんなところなんですか?!
「とにかく、祭りまでまだ1か月以上ある。それまでには帰ってこれるだろう。心配ない。」
シエルがもういいだろうと話を打ちきった。
「それより着いたぞ。王妃の下へ行くんだろう?」
馬車がお城の車止めにちょうど、着いたところだった。
「…はい。」
「帰りは我が家の馬車を呼んであげるから、何時くらいになる?」
こんな時は魔法って便利だなと思ってしまう。
「お昼は自宅で取りますので、その前には帰るつもりです。」
「そうか、分かった。」
お礼を言うと、私は王妃様の元へ、シエルとリカルドは魔法省がある方向へと別れた。
結局、お父様の再婚について王妃様にお願いしようかと考えていたのが、精霊王の不在の話しで頭が一杯になってしまったのと、王妃様が私の社交デビューの舞踏会について、鼻息荒く最後の打ち合わせと称して色々と話されたので、時間がなくなりそれどころでは無くなってしまった。
「いいこと?リリアナ?」
「はい。」
「まず、大魔法使いがエスコートするなら大丈夫だとは思うけど、もしひとりになることがあったら必ず私か陛下のところに来るのよ?」
「え?!陛下たちのところにですか?」
それはちょっと…。
「ええ!そうでもしないと、ぜっーたい色々な虫が群がってくるのは分かりますからね!貴方のお婿さんは私がきちんと良い人を見つけてあげますから!まだ、変な男に引っ掛かっては駄目よ?」
王妃様は私の手を両手で握りしめて良く分からない内容の話を真剣に訴えている。
「はぁ?」
思わず王妃様に対して気の抜けた返事をしてしまい、王妃様にため息をつかれてしまう。
「ああっ!もう!全然分かってないわねこの子は!」
えーと、すいません。何がでしょうか?
「分かってはいたけど、自分の地位と見た目にこれほど無頓田着な令嬢が私の娘だなんて!」
「いえ、私は王妃様の娘ではないと…」
「それは例えです!私は娘のように思っていると言う意味です!」
美しいお顔は怒るとなかなか迫力がある。
「すいません…」可愛がっていただいて本当に感謝しています。
「良いこと?貴方はこんなに可愛らしくてきっと注目のまとになる上に、あの大魔法使いの息女なのよ?野心も下心もある貴族の子息達にとっては最高の結婚相手と見なされても何の不思議もありません!」
王妃様はテンション高めに滔々と語りあげた。
え~、大魔法使いの息女と言うところは否定できないですけど。実の娘ではないというのは世間的にも知られているはずですし、可愛らしい令嬢なんて山ほど居ると思いますけれど。
現に、目の前の王妃様の美しさといったら他国に知れ渡っているほど有名じゃないですか。と口には出さなかったけど、不満げな気持ちが顔に出てしまったのか、王妃様がきっ!とこちらを睨み付ける。怖い!美しい眉がつり上がっています!
「舞踏会でひとりになっては駄目よ?分かったわね?」
もう一度念を押されて仕方なく頷いた。
もちろん、私だって一応現世では初めての社交の場でひとりにはなりたくない。
できれば、恐らく注目を浴びるであろうシエルの後ろに隠れているつもりだった。
その後、お子様達に遊んでとせがまれてお昼ギリギリまで離してもらえなかった。
王子様は御年10歳、王女様が8歳と5歳。さすがに上のお二人はもうしっかりされていて大人びた事を言ってくることもあるけど、私と一緒の時はまだまだ子供の顔を見せてくださってとても愛らしい。一緒に遊ぶのはとても楽しみなのだけど、子供3人の相手はなかなか体力的に厳しい。
「ふ~、疲れたぁ。」
やっと、王宮から帰ってきて遅い昼食を自宅でひとり済ますと、自室のお気に入りのソファーに深く腰かけた。
マティがにゃ~んと鳴いて足元にすり寄ってきたので抱き上げて膝に乗せてあげる。
「全く王妃様といい、乳母といい、心配しすぎよね?」
マティに話し掛ける振りをして独り言を言う。
「それより、精霊祭は大丈夫なのかしら。お父様は問題ないと仰っていたけど、精霊王が不在なんて、そんなことあるのかしら?」
撫でろと頭を擦り付けてきたので、耳と耳の間の小さな額をグリグリ撫でてあげると、気持ち良さそうに目を閉じる。
「そういえば、お前はいったいいつからこの家にいるの?私が子供の時にはもう居たから猫にしては結構な年よね?私が死んでからシエルが飼い始めたのよね。きっと。」
前世と現世の間にそれほどの年数は空いていないとは思うけど、前世では猫は飼っていなかった。
恐らく前世で私が死んだ後か、現世でこの家に拾われた頃に飼われ始めたのかもしれない。
気持ち良さそうに閉じていた大きなブルーの目を開いて、私の顔をじーっと見つめるので、今度はお腹をグリグリと撫でてあげた。
「お前の目はサファイアのような豪華なブルーね。まるで、ミルディア神殿の祈りの間に描かれている天井画の精霊の目みたいでとても綺麗ね。」
マティはまるで興味ないといった感じに私の膝から降りると、ソファの上で丸くなって目を閉じてしまった。
「あら、猫が気紛れだと言うのは本当ね。さっきまで撫でろ撫でろとせがんでいたのに。」
あ~、この後ドレスと髪型の打ち合わせなんて、眠くなってしまいそう。
思わず溜め息をついた。