まずは採寸から!
旅行の出発はシエルの仕事の調整と私の支度の準備の時間を考えて1か月後と決まった。
シエルのお仕事の調整に時間がかかるのは仕方がないけど、私の身支度の準備にそんなに時間は要らないのではと言ったらマリーとサンドラに憤慨された...。
「まあ!とんでもない!1カ月なんてギリギリですよ!」
朝の支度の時間、私付きの侍女であるマリーが私が今日着る予定の服を腕に抱えて心底驚いたように答えた。赤毛で小柄なマリーはいつもコマネズミの様に動き回っていて良く働く。何でも実家は下町の小間物屋で、小さい頃からとにかく美しい物に目がなくて、綺麗な衣装や装飾品に毎日触れられるこの仕事は天職だと思っているらしい。
同じく私付きの侍女であるサンドラが、私の髪の毛を漉きながらマリーの言葉に鏡越しに強く頷いているのが見えた。サンドラはマリーよりも背が高く細身で中性的な体形をしている。自分の仕事にこだわって突き詰めるタイプで、最近は私の髪に艶を出すことと、私の肌の手入れに力を入れているようだ。落ち着いて見えるのでマリーより年上に見られるけど、二人とも私より少し年上の18歳だ。
まあ、中身の年齢は一度生まれ変わっている私の方がだいぶ上だけれど...。
「そうかしら...?」
荷造りをするのにそんなには掛からないのではと不思議に思う。
「そうですよ!旅行用の衣装を仕立てるのに1カ月しかないなんて!マダムの溜息が聞こえるようです。」
マリーがまるでマダムローズ本人に成り代わったように溜息をついた。
マダムというのは、このアムズベルフ王国の王都に店を構えている服飾デザイナーのマダムローズのことだ。王妃様のお気に入りでいま王都で一番人気があると言われている。なかなか個性的な女性なのだけれど、なぜか私の事をとても気に入ってくれているらしく、最近の私の服はマダムにお願いすることが多い。でも本当のところは、マリーとサンドラがマダムを含めてあの工房の人達と気が合っているからこそわたしの服を喜んで引き受けているのではと、私はちょっと、いやだいぶ思っているのだけど。
「そうよね。でもマダムならきっと他の注文を放り出しても嬉々としてお嬢様の衣装を間に合わせてくれると思いますわ。」
サンドラが不穏なことをサラッと言った。
というか、旅行用の衣装?
「わざわざ新しいものを作らなくても、先日仕立てたものから選べば良いんじゃない?」
先日、お茶会用に昼間用のドレスと普段着を新調したばかりではないか。旅行に行くならシンプルな服が良いから、普段屋敷で着ているもので構わないと思うけど。
「いいえ!仮にも旦那様との婚約記念のご旅行なんですからきちんと新しく仕立てたものでないと。それに旅行用ですから皺になりにくい材質の物や、きっと旅先の街を散策される時のお忍び用の衣装だって必要です。どんなに簡素なデザインの物でも、貴族のお嬢様がお召しになっている物と町娘が着ている品は違うんですよ?それに、どちらかで地方貴族様のお屋敷の晩餐にお招きされることもあるかもしれません。盛装用のドレスとそれに合わせた宝飾品も用意しなくては!」
マリー?ちょっと怖いわよ?手に持っている今から着る予定の私の服を握りしめているけど大丈夫かしら...。だいたい、婚約記念旅行って何?いつの間にそんな名目が付いたの?
「そ、そうなの?」
マリーの剣幕に押されて私の顔はちょっと引きつっていたかもしれない。
そんな訳で楽しみな旅行の準備はまず苦痛な採寸と、マダムとマリー、サンドラ達の作戦会議から始まった。




