ハルとヴィル
「ヴィル?」
ヴィルは窓辺で、どこからかの報告書らしきものを読んでいた。
俺の声に顔を上げると満面の笑顔で返事をする。
「何だい?ハル。」
「それ、例の国からの報告書?」
「…」
俺の問いには無言の笑顔で答える。
きっと、俺が不満気な声をしていたからに違いない。
でも、俺は構わず続けた。
「まだ、気になっているの?あの女。」
つい、詰問口調になってしまう。いつも、特定の女を作ったことがないヴィルが珍しく気にしているから。
昔からの知り合いのマティウスの消息がここ数年途絶えていたので、ヴィルの旅のついでに寄ってもらった国。そこで会った大魔法使いの娘だか、嫁だか知らないけど。一度、夜会で会っただけの女をヴィルはまだ気にしていて、向こうの国の情報を集めている。
「…なんだ、ハル。やきもちか。」
「ち、違うし!」
ただ、ヴィルが珍しく気にしているから、何でかと思っただけだし。
「ハルは、無表情だと思われがちだけど、良く見るとそんなことないよね。」
そう言って、ポンポンと頭を叩かれた。
くそ!俺の方が何百歳も年上なのに!
だいたいあの女、マティウスにも好かれていて気に入らない。
「君のお友達の精霊王にも好かれているんだろ?」
まさに今思っていたことを言われて、ぐっ言葉に詰まる。
「…それは、俺たちの本能というか、好き嫌いとは関係なくって、誰だって綺麗な空気は気持ちいいだろ?」
そうだ、あの女の周りの空気が気持ちいいだけで別に本人が良いわけではない。
「へ~、本能に働き掛けるほど強力なんだ。彼女って。」
何かその言い方は気に入らない。
「大体、あの大魔法使いの嫁なんだって言ったろ?もう、結婚したんじゃないの?」再婚か?一応。
「いや、婚約はしたらしいけど結婚は2年後の予定らしい。」
「へ~、そうなんだ。ってまさか何か考えている?!」
ヴィルの笑顔がいつもの笑顔から策略を巡らすときの楽しげな笑顔に変わったのに俺は気が付いた。
「まあまあ、別に今すぐどうこうってわけじゃないよ。せっかく久しぶりに帰国したばかりだし。しばらくは、ゆっくりするさ。」
今すぐじゃなくてもいずれは考えているってことか?
俺はあの女が、俺のことを恐がりながらも必至になって眠っている二人の人間を背中に庇っていたところを何故か思い出していた。あの時、あの女は泣いてはいなかったけれど、涙を流したらもっと良かったのにと想像してしまった。
「おやおや、ハルも人の事言えないね。悪い顔をしているよ。」
ヴィルに言われてハッとする。
「……俺、お前が女たちと交わるのは何がいいのか理解できないけど。お前があのリリアナっていう女を押し倒して泣かせているところは見てみたいかも。」
「…」
ヴィルが俺が見たこともないような唖然とした表情をした後、突然笑いだした。
「ハハハハハハっ…!ハハハハハハ!」
終いには笑いすぎて目に涙を浮かべている。
俺、そんなに可笑しいこといったかな?
「おい、いい加減笑うの止めろよ。」
余りにも止まらないので、いい加減飽きてきた。
「ハハハ、ごめんごめん。」そう言いつつもまだクスクスと笑っている。
「いや~、ハルがそんなこと言うのなんて初めてだから、俄然やる気が出てきたよ。」
げっ!どうやら俺はヴィルのやる気を後押ししてしまったらしい。そんなつもりは全くなかったんだが。
あの女がヴィルのものになったら、大魔法使いを可愛がっているマティウスは嫌がりそうだな。でも、俺たち精霊は自分の本能に忠実だから分かってくれるかな。まあ、しょうがないか。
お読み頂きありがとうございます。
ここで、一旦終了です。
でも、ヴィル&ハルの話からも分かると思いますが、いずれ続編を書きたいと思っています。
その時はまたよろしくお願いいたします。




