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シエルの暴走

さっきまでニヤニヤ笑っていた男が怒りの表情で顔を赤くして倒れた私を上から覗き込んでいた。

殺されないとは思うけど、ちょっとさすがに不味いかも…と思ったところであれほど重かった扉が勢い良く開く音がしてシエルの声が聞こえた。


「リリアナ!」


夜空と怒り顔の男を見上げたまま地面に転がった私の視界を光の玉が勢い良く掠める。私の髪を引っ張った男の顔が、ぎゃっという声と共に視界から消え去っていた。

シエルが光の魔法で放った攻撃が、命中したのだろう。

そろそろと起き上がったけど、ちょっと、恐くて後ろを見ることはできない。


「もう一匹捕まえましたよ。何か物騒な仕掛けを神殿の周りに這わせていて…」リカルドがそう言いながら神殿の外壁の影から出てくる。


頬に傷のある若い男が背中に手を回されてリカルドに捕まっていた。それを見てシエルの周りにバチバチと火花が散る。空には稲妻らしき物が光りシエルが怒り狂っているのが空気を通じてヒリヒリと伝わってくる。


ピシャッと音がして、リカルドが連れてきた男に稲妻が落ちた。

今度は悲鳴もなく男が前に倒れ込む。


「うわ!危ないじゃないですか!」


リカルドが慌てて飛び退いて文句を言う。いつもの飄々とした感じはなく本気で焦っている様子を見ると、あの稲妻に当たると命の保証はないとか?少なくとも、転んだくらいの怪我ではすまなそうに見える。


「シエル様?!」

後から追い付いてきたアデリーナ様が真っ青な顔をして神殿の扉の所に立ち、シエルを見つめていた。


まだ、シエルの怒りは収まらないらしく、怒りの形相で庭を見つめる。ひ~、なまじ顔が整っていると怖いよ~。眉が吊り上げって何か目が据わっているし。


シエルが王宮の庭園へと一歩踏み出すと次の瞬間、私たちが通ってきた王宮の庭にバリバリッというものすごい音と共に稲妻が無数に堕ちてきた。


悲鳴を上げてアデリーナ様が頭を抱えて神殿の入口にしゃがみこんでいるのが見えた。

私も回廊の屋根の下に慌てて避難する。


暗闇でぎゃっという声がいくつか聞こえ、庭の闇の中に誰か潜んでいたことが分かる。まだ、男達の仲間が潜んでいたのだろうか?門の外で待っていた男達の仲間にも落ちたかも。


どうか、罪のない王宮の兵士に落ちてませんように!


「リリアナ!どうにかしてくださいよ!その人!」

どうにかって言われても、こんな状態のシエルは私も初めてで...。


「リリアナが無視し続けるから、イライラが頂点に達していたんですよ!」

リカルドが足元に倒れていた意識のない男を、回廊の屋根の下に一生懸命引きずり込んでいた。

一応助けているとこを見ると、まだ生きてはいるのだろう。良かった...。


それにしても、私のせいなの?!リカルドだってシエルが凹んでいるのを面白がっていたじゃない。


「シエル、落ち着いて!」

とにかく私も回廊の屋根の下から庭に立っているシエルに声を掛ける。

でも、稲妻の音にかき消されてか、シエルが正気じゃないからか全く反応がなかった。




「いったい何事だ!?」


声がして振り替えると、王宮の方から回廊を駆けてくる人が二人。


ドルトン侯爵と「パトリック?!」


ドルトン侯爵はおそらく娘のアデリーナ様を追って来たのは分かるけど、何で我が家の家令が?!

二人は私の横まで来ると、この雷を落としているのがシエルだと理解したらしく唖然と立ち尽くす。


「これは大魔法使い様の仕業か?」


ドルトン侯爵が震える声で呟いた。

その直後、ひときわ大きな稲妻がものすごい音を立てて空を走った。


「きゃ~!!」


神殿の入口にしゃがみこんで放心していたアデリーナ様がたまらず悲鳴を上げて頭を抱える。


「アデリーナ!!」パトリックがそれに気付いてアデリーナ様の元に駆け寄ると神殿の入口に飛び込み、しゃがみこんでいるアデリーナ様を抱きしめた。

え?ええっ?!どういうこと?


「パトリック!アデリーナを神殿の中へ連れていけ!」

私の隣でドルトン侯爵が叫ぶ。

え~と?これって??




「リリアナ!もう、不味いですよ!さすがに死人が出ますって!」

周りのやり取りについていけてない私に、焦れた様にリカルドが叫ぶ。と、とりあえずパトリックのことは後回しにしよう。


どうしよう。シエルの姿は庭園の中、すぐそこに見えるけど。シエルを止めるにしても、この落雷では危なくて回廊から出ることも出来ない。

でもいったい誰がシエルを止めることができるというの?

誰が?あ、ひとりいた!

「マティは?もう、精霊王は戻ってきたのよね?!」

「精霊王マティウスですか!?」


落雷がうるさくて私もリカルドも叫ぶように話す。

「神殿にいるんじゃないの?!」


「姿は見ていませんが確かに戻って来たとは聞いています!呼んでみてください!」


え!私が呼ぶの?

家出をする時に窓から私を眺めていた猫の姿のマティを思い出す。


「僕なんかが呼んでも精霊王が出てくるわけないじゃないですか!早く!」

仕方がない。果たしてこの近くにいるのかどうかも分からないけど他に助けてもらえそうな相手は思い付かなかった。


「マティ?マティウス様?近くに居るのですか!?お願いですから出てきて下さい!」


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