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再婚のススメ

「リリアナ。リリィ?」


はっと気が付くとお父様、ではなく大魔法使いシエル様が目の前に立っていて心配そうに私の顔を上から覗き込んでいた。


「...はい。」


うっかり考え込んでしまっていた私は慌てて返事を返す。


「大丈夫かい?朝食にしよう。」


そう言うと、私の腰に手を回し食事の席へと歩いていく。


「はい、大丈夫です。夢見が良くなくて。」


大人しくいつもの自分の席に案内されてシエルが引いてくれた椅子に私が収まると、私の斜め前、二人で使うには大きな長テーブルの端にシエルは腰掛けた。

それと同時に温かいスープがさっと給仕される。


「夢?どんな夢を見たの?」


食事を始めながらシエルが心配そうに聞いてくる。


「さあ、目が覚めた時には忘れてしまっていたので…」


私はとぼけて答える。

そう、シエルには前世の記憶を覚えていることは一言も言っていないし、今後も言うつもりはない。


「ふ~ん?」


納得いっていない顔で相槌を打たれる。


でも、私は絶対前世の轍は踏まない。

もし、前世の記憶があると分かったらまた、束縛されるような気がしてならない。


「それよりお父様、また妃殿下から結婚を勧められていると伺いましたが?」 

話を逸らすために先日、王妃様に聞いた話を振ってみる。


「もちろん断った。」

シエルは表情を変えずに即決で答える。


「まあ、何故ですの?」

その答えに予想はついたが一応驚いた顔をしてみる。


「興味ない。だいたい、私がリリアナを一人にするわけ無いだろう?」


「お父様。」


敢えて呼び方を強調するとシエルは嫌そうな顔をした。

それを無視して続ける。


「私もいずれはお嫁に行きます。亡くなられた奥様を大切に思う気持ちも分かりますが、お父様もいい加減再婚されるべきではないでしょうか。」


「どこへ嫁に行くというんだ!」


「別にどこと具体的に決まっているわけではありませんが、いずれは。」

一応、私も年頃の娘としてお嫁には行きたいと思っている。


「まさか、妃殿下が縁談話を君に持ち込んだわけじゃないだろうね?」


気のせいではなくシエルからひんやりとした冷気が感じられた。

不味い!本気で怒っている。


「まあ、お父様!まだ私は15歳です。そんな話はあるわけないではないですかっ!」

慌てて否定する。これは嘘ではない。


王妃様にはとても良くしてもらっていて、王宮でのお茶会には頻繁に呼んでいただくけど、まだそんな話は出たことはない。だいたい、私が呼ばれるのは幼いお子様方の遊び相手として呼ばれているようなものだ。

王妃様からしたら、母親の居ない私も庇護すべき子供のようなものなのだろう。


「それよりお父様の再婚話ですわっ!」

私はひっしに話を逸らすことにした。


「くどい!再婚するつもりはない!それより、今日の予定は?」

今度こそバッサリと話を断ち切られてしまう。


「...今日は特に予定は入っていませんので、乳母の嫁ぎ先に差し入れを持って行こうかと。」


乳母というのは私を育ててくれた元侍女で3年ほど前に丘を一つ越えた村へと嫁いでいた。

結婚する年齢的には少し遅い方だったが、もともとこの屋敷に出入りをしていた5歳も年下の葡萄農家の後継ぎ息子に見初められて、口説かれて、屋敷の皆にも後押しされてやっとお嫁に行くことを了承した。


嫁いで直ぐに子宝に恵まれて、今は二人目の子供がお腹にいる。


乳母がお嫁に行く時は私も号泣したけど、もう会えないほど遠くへお嫁に行ったわけではなく、馬で行けば余裕で日帰りできる距離だ。


「そうか、私も一緒に行きたいところだが仕事がある。よろしく言っておいてくれ。まだ、上の子供も小さいし何かと入り用だろう。何か食材など持って行って...。」


「お父様、大丈夫ですわ。乳母が喜びそうなものを見繕って差し入れてきます。だいたい、お父様が行かれたら村中大騒ぎになってしまいます。」

天下の大魔法使い様が訪ねて行ったら、のどかな村が大変なことになってしまう。


「...。そうか、ではリリアナに任せる。ハインツも連れて行くんだぞ。」

お父様を連発したが、自分が行ったら大騒ぎになると言われたことを否定できなかったからか、今回は反論されなかった。

「はい、もちろんです。色々と持って行ってあげたいので、ハインツと荷物持ちにジェラトーニも連れて行きます。」


「そうか、分かった。では、仕方がないが私は城に仕事に行ってくる。」


仕方がないって...。お父様本音が駄々洩れしていらっしゃいます。


若干、私が呆れた顔をしたのに気が付いたのか、気まずそうに先に席を立つと出かける準備をするためにそそくさと部屋を出て行く。

食後に私が窓際のソファでお茶を飲んでいると、シエルの乗る馬車が屋敷の門を出ていくのがガラス越しに見えた。


もともと、人付き合いが大嫌いなシエルのことだから、人の多いお城に登城するのも嫌なんだろうなぁとは推測できる。


「まあ、でもこのアムズベルフ王国の一員として義務は果たして頂かないと。」


私は前世も侯爵令嬢として父と母に躾けられたので、国民としての義務は果たすべきとの考えが根底にあるけれど、今も昔もシエルからその辺りはあまり感じられない。

確か前世では王都からも人里からも遠く離れたお屋敷に住んでいたし...。


普通の人の何倍も生きてしまうと人間嫌いになってしまうのかしら?



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