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噛み合わない会話

「駄目だ。」

あ、やっぱり。帰りの馬車の中シエルはバッサリと切り捨てた。


結局、2曲続けて踊ってヴィルと別れた後、シエルと王妃様が待っていらっしゃるところまで戻ると、二人して仏頂面を隠すつもりもなく待っていた。

さすがに、これだけ不機嫌さを撒き散らしていては、誰も近づいて来ることができない。

早々に夜会を切り上げると、王妃様を送るためにまず王宮に向かった。


ヴィルを精霊祭に案内することをシエルに話すと仏頂面が氷の面になって一言で却下された。


「大体、何であんたが付いているのにリリアナが他の男と踊っているんだ。」


なぜか王妃様に当たるシエル。


「しょうがないでしょう!ドルトンも一緒にいたんだから、下手に話して私だとばれたら事でしょう?!」


なぜか王妃様も真面目に答える。


う~ん、何で夜会で年頃の娘が誰かと踊ったからって、父親と(自称)母親が言い合いになるのかしら?!


普通、喜ぶべきことじゃないの?

大体、貴族の娘は結婚相手を探しにこういった場所に来るものだと思うし。まあ、私の場合はお父様の再婚が一番の目的だけど、もし我が家のお茶会で知り合った方々が来ていたら、ぜひお話をしたかった。王妃様が一緒ではそんな機会も作れなかったけど。


「分かりました。では、お父様からドルトン侯爵に今回の件はお断りしますとお伝えしていただけますか?」


ヴィルには申し訳ないけどお祭りを案内するのは別に私ではなくても構わないと思うし、ドルトン侯爵のお客様なのだからきっと他の案内役を見つけてくださるでしょう。


「分かった、明日ドルトンも登城すると言っていたから、直接伝えておく。」




この件はこれで終わったかと思ったのに、次の日思わぬ展開が待ち受けていた。

シエルがいつものようにお城に出勤した後、自宅にいた私はアデリーナ様の来訪を受けたのだった。



「突然押し掛けて申し訳ございません、リリアナ様。」

昨晩は町娘の仮装で可愛らしい印象だったアデリーナ様も、今日は大人びた印象に見える華やかな赤いドレス姿だった。しかも、一緒に付き添っているのは恐らく昨日見かけたヴィルの後ろに付き従っていた男のように見える。



「いいえ、昨夜はご招待頂いてありがとうございました。」


とにかく、居間に案内してお茶を出す。マティは私の部屋で丸くなって寝ていたので、パトリックに言いつけて部屋から出さないようしておいた。先日の件もあるしアデリーナ様が怖がるといけないと思ったのだ。


それにしても一体、昨日の今日でどうしたのだろうか?

ヴィルに対してのお断りの話しはまだ侯爵邸まで伝わっていないと思うし、だいたいアデリーナ様が来る理由にはならない。



「父は仕事で登城していて留守ですが。」

アデリーナ様がシエルに会いに来たなら申し訳ないけど、お茶会以降の彼は真面目に出勤しているので昼間は屋敷には居ない。


「いいえ、今日はこちらのヴィル·カリ様の従者の付き添いですわ。」


そう言ってアデリーナ様がにっこり微笑むと彼女が座るソファの後ろに、先程から無言で控えていた例の従者が軽く頭を下げる。やっぱり昨日見掛けた男と同じ人物だったらしい。

昨日はチラッと見ただけだったので気が付かなかったけど、意外と若く20代前半かもしかしたらまだ10代かも?

ヴィルと同じ様な褐色の肌に短く刈り上げた金髪で、彼と違うのはかなり無表情なところだった。

シエルだってもう少し表情がある。



「ハルイッツです。大抵、ハルと呼ばれます。」

ギリギリ失礼にならない程度に端的に自己紹介をした。


「リリアナです。」

もちろん、ここがどこか分かって来たのだろうから堅苦しくフルネームを名乗らなくて良いだろうと思いこちらも簡単に答える。


「あの、それで今日はどう言ったご用件でしょう?」

この二人の組み合わせで我が家に来る理由が全く想像がつかない。


「リリアナ様、そちらに行ってもよろしくて?」

アデリーナ様が可愛らしい顔を傾けて私の隣に移動しても良いか聞いてくる。


私は三人は座れる横長のソファに座っていたので、隣に来ても全然余裕がある。どうぞと頷くと、アデリーナ様が隣にちょこんと座って微笑んできた。本当にお人形みたいに可愛らしい。きっと、ドルトン侯爵も相当可愛がっているのではないだろうか。お子様はアデリーナ様だけだと伺った気がするし。


「昨日はこちらのハルの主人であるヴィル·カリ様と踊っていらっしゃいましたでしょう?」


「はい、お誘い頂きましたので。」


「精霊の姫と盗賊のお二人。とってもお似合いでしたわ。」

アデリーナ様が両手を胸の前で握りしめてまるで夢見る乙女のように言う。


「...そうですか?ありがとうございます。アデリーナ様の町娘姿もとても愛らしくて素敵でしたわ。」

なんだろう話が見えない。


「まあ、ありがとうございます!私も、魔法使いに攫われる町娘という設定もなかなか良かったと思いますの!」

それはシエルと自分の事だろうか?


ハルが咳ばらいをして、アデリーナ様がはっとする。

「すいません。話が脱線してしまいました。」

いえいえ脱線も何も全く先が見えてきません。


「え~と、つまりヴィル・カリ様はとても素敵だったでしょう?」


はい?


まあ確かに、お話も踊りも上手で、私がミスをしたのをフォローしてくださったりと女性の扱いに慣れている感じはしたけれど。


「はあ、まあそうですね。」良く分からないのでとりあえず、肯定しておく。


「ですよね。ご自分では言われなかったかもしれませんが、南方の貴族のご子息で、お母様は王族のご出身とのことですから、侯爵家と比べても引けは取らないと思われますわ。しかも、あの若さで既にご自分のお屋敷をお持ちだそうで、父がヴィル・カリ様のお国でご招待を受けたそうなんですけど、それは素晴らしく大きくてまるでお城の様だったとおっしゃっていました。」


「まあ、そうなんですか。」

ドルトン侯爵が外交であちこちの国に行っているのは前にも言ったけど、その時に知り合ったらしい。


「ですから、リリアナ様のご結婚相手として申し分はないと思いますの。」

ええ!?お祭りを案内する話を飛び越えてどうしてそんな話になっているの!?


「え?あの、どこをどうしたらそんな話になるんですか?!」

驚き過ぎて思わず大きな声を出してしまう。


「まあ、だってリリアナ様も私と一緒で社交界デビューをしたのですから、そろそろ婚約者を決める年頃でしょう?」


「それはそうかもしれませんけど、その、私はまずお父様に再婚して頂きたいと考えておりますので。自分の結婚はその後でも良いかと...。」って言うか、でないと嫁がせてもらえない気がする。


「まあっ!でしたら私ぜひシエル様と結婚できるように頑張りますわ!」

アデリーナ様が無邪気に答える。


う~ん、何て言うかこんなことを言うとまた乳母に老けているって言われそうだけど、アデリーナ様って一見大人びて見えるけど、中身はまだまだ純粋なお子様というか、世間知らずというか。


「でも、アデリーナ様まだお若いのにうちの父となんてよろしいのですか?」


「もちろんです!私、大魔法使い様にずっと憧れていて、子供の頃からいつかお嫁さんになりたいと思っておりました。それで、何とかお近づきになれないかと私の父にお願いしていましたの。」


うん?ドルトン侯爵にお願い?でも、私がお茶会にお呼びしたのがシエルに会ったきっかけじゃないのかしら?誰をお呼びするのか決めたのはパトリックだし。ドルトン侯爵が夜会に誘う前にたまたま先にお茶会で出会ったということかしら?


「それで、わたし...。絵本の...。」?ふと気が付くとアデリーナ様の様子がおかしい。

「アデリーナ様?」


今までテンション高めに話していたのに目がトロンとしたかとおもうと、隣に座っていた私の方にこてんと寄りかかって来たので慌てて支える。

え?寝てしまったの?

気を失ったと言うよりは眠さに耐えきれず寝落ちしてしまったようにスヤスヤと眠っている。


「アデリーナ様?」


いくら何でも貴族のご令嬢が他所の家のソファでしゃべっている途中で寝てしまうなんて普通じゃない。

でも、アデリーナ様は軽く揺さぶっても起きる気配がなかった。

とりあえずソファに寝かせて、ふとハルの存在を思い出す。

この状況で何も言ってこないなんてまさかハルまで寝ている訳では、と思ったけど先ほど立っていた場所と同じ場所にしっかりと立っていた。ただし、こちらではなく廊下への扉をじっと見ている。


その視線で、扉の外で控えているはずのパトリックを思いだして、慌てて彼を呼ぶ。



「どうかされましたか?」


大きな声を出したせいかパトリックが直ぐに扉を開けて入って来ると、ソファに横たわったアデリーナ様を見て慌てて駆け寄ってきた。


「どうされたんですか?!」


「それが、ついさっきまで普通に話をされていたんだけど、いきなり私の方に寄りかかってきたと思ったらどうも眠っているみたい。でも、声を掛けても起きる気配がないし。」

実際、健やかな寝息が聞こえてきて、具合が悪いようには全く見えない。


「アデリーナ様!お嬢様!」

パトリックがソファの横に跪いてアデリーナ様に声を掛けるが、目を覚ます気配はなかった。

あれ?なんかこんな光景を前も見たなと思って、アデリーナ様がマティに襲われた時だと分かる。

珍しくパトリックが慌てていてアデリーナ様をお嬢様と呼んでいたような。


「とりあえず、ドルトン侯爵に連絡をして、旦那様へも連絡を...。して...。」

「パトリック?」


パトリックの声が小さくなっていきそのままアデリーナ様の横になっているソファに突っ伏してしまう。


ええっ?パトリックまで寝てしまったの?どういうこと?

とりあえず、誰か呼んでシエルに連絡をしないと。


「あの、私は、誰か呼んで来ますので、ドルトン侯爵にご連絡をしていただけますか。」


反対側のソファの後ろに立っていたハルにお願いする。


だいたいこの人、こんな状況なのにさっきからピクリとも動かない。いくら、自分の主人じゃないからってどうかと思うけど。


「必要ない。」


「え?」


何か言った?


「少し眠らせただけだ。直ぐに目を覚ます。」


ギクッとする。確かにさっきから違和感があったこの態度。ハル本人が原因なら説明がつく。


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