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仮装舞踏会

「こちらのご婦人は?」

ドルトン侯爵が尋ねる。


「私の遠縁にあたります。ちょうど遠方から王都に来ていまして、こちらの夜会の噂を聞いてぜひ参加したいとも申すものですから。」

答えるシエルの隣で、男装の騎士の仮装をした女性が仮面越しににっこり微笑む。


「大魔法使い様のご親戚ですか?!それはもちろん大歓迎です。

いや~、仮面の上からでも美しさが分かりますなぁ。ぜひ、楽しんでいってください!」

ドルトン侯爵は鼻の下を伸ばして二つ返事で了承すると、他の招待客に呼ばれて慌ただしく行ってしまった。


「シエル様ぜひ私と踊ってくださいな。」

アデリーナ様が、かわいらしい町娘の恰好でスカートの裾を広げてお辞儀をする。対するシエルは、縁取りに細かい刺繍を施した光沢のある布でできた黒いフード付マントを羽織ったスタイルで、つまり魔法使いの格好だった。

シエルも腕を胸に持って行って会釈を返してそれに答えると、二人してホールの中央へと出て行った。


「あら、意外とお似合いじゃないくて?でもあれは仮装とは言えないんじゃないかしら?実際、本物の魔法使いなんだし。」


男装の騎士の格好をした王妃様がシエルとアデリーナ様が踊るのを見てちらりと私を振り返る。もちろん、王妃様は仮装だけではなく目元が隠れる仮面を付けていて、いつもはきっちりとアップにしている豊かな髪は下ろして羽飾りの付いたつばの広い帽子を被っているので、話さえしなければドルトン侯爵でも王妃様とは気づかないに違いない。



二人が踊るのを壁際から遠目で見ているせいで、周りで見ているギャラリーが二人を見てため息をついているのが良く見えた。


「そうですね。それにしてもお二人が親戚だなんて知りませんでした。」


もちろん、それは王妃様が今回の夜会に正体を隠して参加するための口実だとは分かっていたけれど、嫌みの一つも言いたい気分だったのだ。


ところが、それに対して王妃様はこともなげに答えた。


「あら、知らなかったの?」


「え?」

本当に?シエルの血縁なんて会ったことも聞いたこともなかったから、てっきり天涯孤独だと思っていたけど。


「まあ、親戚って言ってもどこまで遡るか分からないくらいの繋がりだけど、どこかでつながっているのは確かよ。王族の家系図を見れば載っていると思うわ。」

え?王族?


わたしが、あまりにも呆けた顔をしていたからか王妃様が呆れたように続けた。


「あらやだ、この子ったら本当に何にも知らなかったのね。一応、あなたのお父様にも公爵の称号が付いているじゃない。私がもともと王家の血縁だっていうことは知っているでしょ?」

「はい、それはもちろん。」

現国王と王妃様はいとこ同士で幼いころからの婚約者だったと習った。


確かに、公爵という称号は国王のご兄弟などが賜ることが多いけど、まさかシエルが王族出身だとは思ってもみなかった。


でも、それを聞いてちょっと納得した。

「だから、王妃様とお父様は何となく似ている気がしたんですね。」


「まあっ!この子ったらなんてことを言うの!全然似てなどいないでしょう?!あんな、冷血漢と一緒にしないで頂戴!」

王妃様は仮面越しにも分かるほど眉を吊り上げ心外だと言う顔をする。


でも王妃様、一応そんな冷血漢でも私の義理の父親なんですが...。

というか、その毒舌なところかそっくりです。


「だいたい、今夜だってリリアナ、貴方のことを心配してわざわざこんな仮装までして夜会に来たのに。こんなに貴方のことを心配して見守っているのはきっと私が一番よ?」

ええ、だからその束縛というか、娘に対する過保護さがそっくりと思うのは私だけでしょうか...。

ここにお父様が居なくて良かった。絶対張り合って、言い合いになりそう。


「はあ、ありがとうございます。」

とりあえずここは、お礼を言っておく。


「それで?私の可愛い娘は何をイライラしているのかしら?」

今までの口調とは違って王妃様がいきなり真面目に聞いてい来たのでギクッとする。


「イライラなんてしていません!」

そうは言ったけど、さすが自称母親。痛いところを突かれたのは自分でも分かっていた。


「ふ~ん。まあいいわ。私としてはこのままドルトン侯爵の令嬢と貴方のお父様が上手くいって、結婚すればいいと思うけど?」

「ええ、私もお父様には早くご結婚して頂きたいと思っています。」

そう、再婚して頂ければ私も安心してお嫁に行けるというものだ。


「でも、一緒に踊っているご令嬢は気に入らないのかしら?」


「そんなことはありません!アデリーナ様はとても可愛らしい方ですし。ただ、その、娘である自分と同い年というのがちょっと気にかかるだけで...。」

そう、私の考えではもう少し年上の方のほうがお似合いかと思っていただけで...。


「あら?もちろん、普通だったらそうかもしれないけど、シエルに関していえば年齢なんて関係ないんじゃないかしら?」


「そうかもしれませんが...。」

確かに、何年生きているのか分からないシエルにとって歳なんて関係ない。

少なくとも見た目の年齢は二人とも十分お似合いに見える。お似合いに見えるから、ギャラリーからため息が漏れるわけで。


「アデリーナでしたっけ?ぜひ、今度王宮へ招待してみましょう。」 



壁際でそんなやり取りを二人でしていると、さっき他の招待客に呼ばれて行ってしまったアデリーナ様のお父様、ドルトン侯爵が背の高い男を伴って戻って来た。




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