精霊達に好かれる理由
大広間には戻らずに、バルコニーから通じている回廊を通って神殿の方へ向かってブラブラと歩いていく。
回廊にあるベンチで休んでいる着飾った人達も、神殿に近付くにつれ誰も居なくなって、大広間の音楽が微かに聞こえるだけになる。
「お父様は、神殿の中かしら?リカルドは中まで入れるの?」
一般の人は手前のところまでなので、もしシエルが奥の神殿に居たらわざわざ行っても声は掛けれない。
「大丈夫ですよ。僕は中まで入れますから。」
「そうなの。良かった。」
では、呼んで来てもらえる。
「ねぇ、リカルドは精霊を見たことはあるの?」
「そうですね。もともと僕が魔法省に推薦されたのは、特にその力が強かったせいもあるからね。」
「精霊を見ることができる力?」
「そう、なぜか子供の頃から精霊に好かれるというか構われるというか。」
それは凄い。普通、精霊たちは人間を好きじゃないし信用していないから姿を現すこともない。
リカルドはよほど精霊達に好かれているらしい。
「リリアナは?大魔法使い様と一緒に暮らしていたら、見ることもあるんじゃないの?」
「ううん、私はそっち方面の才能は全く無いみたい。」
前世も同じで魔力もないし、精霊も見たことはなかった。
あ、そう言えば先日シエルが誰かと話しているような気がすることがあったから、もしかしたらあれは精霊と話していたのかもしれない。だったら、誰もいなかったのも納得いく。
「ふ~ん、だからかな?」
「何が?」
「大魔法使い様が君を離したがらない理由。」
「?」それは娘だからじゃなくて?
「何て言うか、魔力が大きい僕ら魔法使いは、人の感情の起伏が何となく分かってしまうところがあって、その辺は人間より精霊に近いって言われている。」
「いわゆる霊気とか言われているもの?」
確かにシエルは私の機嫌に直ぐ気づいてしまうところはある。
「そうそう、周りの空気の色が違って見えるって言うやつ。例えば、悪いことを考えている人間はどす黒くみえるとかね。」
「へ~、便利。」
「う~ん、便利ではあるんだけど…。」
リカルドは珍しく複雑そうな苦笑いをする。
「便利なだけじゃない?」
その顔を見て何となく分かってしまった。
特に、シエルなんてその力も強すぎるから、人間不振になるよね。
私だって他人の気持ちの本当のところは知りたくないもの。
でも、それと私に対する束縛の何が繋がっているんだろ?
疑問が顔に出たのかリカルドか続ける。
「そう、だから周りの空気が、この場合霊気っていった方が分かりやすいかな、綺麗で澄んでいる人間に惹かれる。」
「うん?」
だから?
「言われたことない?リリアナの回りの空気は物凄く澄んでいる。だから、精霊にも好かれるし、大魔法使い様も側から離したくないんだと思う。」
確かに、出合った時にそんなようなことを言われたような気もしないでもないけど。
「う~ん、精霊が見えるわけでもないし実感沸かないですね。精霊たちは近くにいるの?」
「そうだね、特に今は神殿に近づいてきたから精霊達も多いしかなりの数がリリアナの回りを飛び回って居るよ。」
そうなの?!
思わず見えもしないのにキョロキョロしてしまい、リカルドに笑われる。神殿の壁画に描かれている通りだとしたら、それはそれは綺麗でしょうに。
「でも、そんなに精霊達に好かれているのに全く見えないなんて不思議だねぇ。」
そう言われても見えないものは見えない。
実は前世でも10代の頃は見えたのだけれど、大人になって見えなくなってしまった。なので、もう記憶も定かではない。もしかしたら、幼い頃の夢だったのかもと思える程度の記憶しかない。
「ちなみに、僕も大魔法使い様には全然及ばないけど、魔力が多い魔法使いの端くれだって分かっている?」
「?ええ、もちろん。」
何といっても大魔法使い様の一番弟子だし。
既に神殿の入口にたどり着いていたが、リカルドがふと立ち止まる。
「リカルド?中に入らないの?」
返事がないので、不思議に思って顔を見上げると、いつも飄々としているリカルドとは思えないほど眉間に皺がよって眉が下がった、何とも言えない表情をしていた?
いったいどうしたのだろう?
「リカルド?お腹でも痛いの?」
そう聞くと、ふぅ~というとても大きな溜め息をつく。
「いいえ、お腹は痛くないですよ。まあ、大魔法使い様の気持ちも分かるので何とも複雑な気持ちですよ。」
リカルドは良く分からないことを言うと、神殿の大扉に手をかけた。
ギギギーと音がしてゆっくりと扉が開いていく。
二人が通れる程度の隙間が空いたので、中にそーと滑り込んだ。