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第6話 奇妙な関係

モテる男はつらいらしいです。


モテた事無いんでわかりませんが(笑)

 シスターを見送った後、勇児達は王宮まで戻ると商店街へと繰り出した。

 昼時だったので、買い物の前に馴染みの蕎麦屋に行き、みんなで蕎麦を食べたのだが、子供達には好評だったようだ。


 大人は揃ってざるそばを頼み、子供達には海老の天ぷらそばを頼んだのだが、特にガボラとモチラとアイラはそばがいたく気に入ったむらしく、天ぷらそばを一杯平らげたあと。


 「そばだけでもおいしい。そばだけ食べてみたい。」


 と言ってかけそばを頼み、七味を振って食べ始めると


 「こっちの方が好き。」と言って平らげた。


 それを見ていた勇児と源助は「通だな。」と言って感心した。


 商店街に繰り出したのは、源助が合流したことで男手が増え、荷物持ちが増えたので、ここぞとばかりにお幸が子供達の生活必需品の買い出しを強行したのだが、帰国したばかりの源助からすれば、とんだ災難であろう。


 当の本人は別段気にもせず、お幸に言われるがままに荷物を持ち商店街を右往左往しているが、お幸と同じようにご近所さんから頻繁に声をかけられ頭を下げまくっている。


 瞳は瞳で勇児と二人で買い物をしたいのだが、子供達がいるので右に左にと振り回されている。

 勇児もそれに巻き込まれているのだから、この買い出しの勝者はお幸だ。


 結局、買い出しの荷物が膨れ上がり持ちきれなくなったので、着物屋から大八車を借り大量の荷物と子供達を乗せ、引き手を勇児、押し手を源助が担って帰路に着いたのは3時頃であった。


 家に着き全員で荷物を運び込むと、源助が大八車を返しに行くと言うので勇児が、


 「俺が返しに行くから、源ちゃんはゆっくり休みなよ。」


 と言って勇児が返しに行く事になった。


 瞳はそのやり取りの最中、お幸の顔を懇願の眼差しで見ていた。


 「しょうがないわね。一緒に行ってもいいわよ。」

 

 お幸がそう言うと、瞳は


 「お母さんありがとう!」


 と言ってそそくさと、勇児を追いかけて行った。


 「おばちゃん。おふとんはまだ干すの?」


 アイラがお幸に尋ねた。


 「そろそろいいかしらね。源助。悪いけどお布団を取り込んでくれない?」


 「はいはい。」 源助はそう言うと庭に向かった。


 庭に着き、源助が布団を取り込むと、縁側で子供達が待っていた。


 「ん?どうした?」


 「おふとんの匂いを嗅ぐんだ。」


 「お布団の匂い?あぁ!お日様の匂いか!よしよし!」


 源助はそう言うと布団を縁側に置いた。


 子供達は一斉に布団に頬を当てると、匂いを嗅ぎ始めた。


 「いいにおーい!」 アイラが声をあげる。


 「このにおいすき。」 メルルも嬉しそうに言った。


 「フカフカであったか~い。」 ガボラも嬉しそうだ。


 「やわらか~い。」 タルルは気持ちよさそうだ。


 「気持ちいーなー。」 モチラはご満悦だ。


 「お日様の匂いは勇ちゃんから聞いたのか?」


 「何でわかったんだ?」 モチラは驚いた。


 「勇ちゃんとは長い付き合いだからな。」


 源助は布団を取り込みながらそう言って笑った。


 「どれくらい長いの?」 タルルが興味深そうに聞いた。


 「ちっちゃい頃からだな。今のみんなよりも前だな。」 


 「じゃあ、おいら達といっしょだ!」 


 ガボラは布団から飛び上がり叫んだ。


 「一緒だな。」 


 源助は最後の布団を取り込み終わると、縁側に腰掛けながら言った。


 「にいちゃん達は仲良しなのか?」


 ガボラは源助に尋ねた。


 「どうだろうな?色々あったけど仲良しかな?」


 「いろいろ?」


 「あぁ。色々あったな…。色々あったから今があるんだろうな。」


 「おいら達もあるのかな?いろいろ。」


 「きっとあるさ。色々あると、もっと仲良しになれるんだ。」


 そう言うと、源助は庭を見つめながら子供の頃に思いを馳せた。


 

 しばらくして、お幸が縁側を覗くと、源助は縁側で大の字になり、子供達は布団にしがみついて眠っていた。


 「あらあら。みんな良く眠っているわね。」


 お幸はそう言うと部屋に布団を並べ、子供達を寝かせていく。


 そこに勇児と瞳が帰ってきた。


 「みんな眠ってるの?」 


 「手伝います。」 


 勇児と瞳はお幸と一緒に子供達を布団に寝かせた。

 源助は気持ちよさそうに寝ているので、そのまま寝かせる事にした。


 子供達を寝かせ付けた後、三人は居間でお茶を飲みながら話をした。


 「今日は疲れちゃったかしら。源助も子供達も。」


 お幸はお茶を飲みながらつぶやく。


 「子供達は少しでも緊張が取れたかな?お兄ちゃんは帰ってきたらいつもあんな感じだしね。」

 

 瞳がそう言うと勇児は言った。


 「発掘から帰ってくればみんなそうさ。今回は何もなかったからよかったけど、事故なんかがあると帰ってきても気が休まらない。ゆっくり眠れるってのは良い事なんだよ。」


 「そうねぇ。源ちゃんも八雲さんもあんな感じだったわねぇ。何かあった時は何日も塞ぎ込んだり、喋らなくなったり…。

 喋らなくなるのは源ちゃんだけね。

 八雲さんは無口だったから。」


 「話は変わるけど、お母さんはお父さんとルーン王国で出会ったの?」


 瞳は目を輝かせながらお幸に聞いた。


 「そうよ。私がルーン王国で料理の勉強をしている時に、お父さんが五家の皆さんと一緒にルーン王国に来たの。」


 「それでそれで!」 瞳は身を乗り出して聞いてくる。


 「それでって、お父さんと結婚して大和に戻ってきたのよ。」


 「肝心な部分が飛んでる~。」 


 「肝心な部分?」


 お幸は明らかにとぼけている。


 「だから、どっちが先に好きになったとか、どっちが求婚したとか。」


 「忘れちゃったわ。」


 そう言ってお幸は笑った。


 「おーしーえーてーよー。」 瞳は駄々をこねる。


 「あなたが結婚したら教えてあげますよ。」


 お幸はそう言って笑うと、お茶を飲んだ。


 「勉強したかったのに。」

 

 「男と女の色恋に勉強なんてあるもんですか!出会いは人それぞれです。

 私から見ればあなた達の関係は充分、不思議ですよ。」


 「私は一途なの!ね?勇ちゃん?」


 「勇ちゃんだって不思議だと思ってますよ。ねぇ?勇ちゃん?」


 「なんで不思議なの?」


 「親の私から見ても、あなたのどこに魅力があるかわからないんだもの。

 どこに魅力があるのか教えていただきたいわ。」


 「勇ちゃんもそんな風に思っているの?」 


 瞳の刺さるような視線が痛い。

   

 「瞳…。家事全般でおばさんと勝負しても勝てないのはわかってるだろ?」


 勇児は半ば呆れ顔で言った。


 「じゃあ私の魅力ってなに?ひょっとして私って魅力ない?」


 そう言って瞳は着物の上から両手で自分の胸を掴み、じっと胸をみた。


 勇児とお幸はハァと大きなため息を一つついた。


 「色仕掛けで引っかかるような男に、五家の嫡男が務まるか。」

 

 「だって男の人はおっぱいの大きい女の人が好きじゃない。

 勇ちゃんもそうなんでしょう?」


 瞳はそう言って泣きそうな顔をしている。


 勇児はお幸に耳うちをした。


 「どうしたんでしょう?いつもと違い過ぎですね。」


 「そうねぇ。どうしたのかしら?」


 勇児は腕を組み考え込んだ。

 瞳のアタックに駆け引きも色仕掛けもない。

 ただひたすら自分の思いを勇児にぶつけてくるだけだ。


 気分屋の瞳が勇児への思いに関しては全くブレないし、他人の目などお構いなしなのだ。

 そんな瞳が体型だの魅力だのと言い出したのはなぜだ?

 その時、勇児の頭の中に赤毛でグラマーな女性の姿が浮かんだ。


 「レイラか…。」


 勇児がそう呟くと、瞳は体をビクッとさせた。


 「レイラちゃんね…。」


 お幸もそう言って納得した。


 レイラ・クロケット 


 アルザール王国の王宮騎士にして、遺跡発掘員の獣人種であり、王宮騎士長 ソニー・クロケットの一人娘だ。

 トップクラスの実力を持ち、神に愛された体を持つと言われるプロポーションを持つ美人である。

 

 しかし瞳からすればそんな事はどうでもいい。

 問題なのはレイラが瞳と同じように、子供の頃から勇児にベタ惚れで、猛烈なアタックをかけている事だ。 


 瞳とレイラは初めて出会った瞬間、言葉もかわさず取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 その時、レイラは獣化までしたと言うのだから驚きだ。

 

 その場にいた、篠崎夫妻とクロケット夫妻が急いで止めに入り、その時は納まったが横で見ていた勇児は呆然とした。


 互いの夫妻は喧嘩のきっかけを2人に尋ねたが、2人して笑いながら「わかんない。」と答えた。


 それからすぐに2人は勇児そっちのけで手を繋ぎ仲良く遊び始めたので、両夫妻が狐につままれたような顔をしていたのを勇児は覚えている。


 それから2人は仲が良くなり、今ではお互いに無二の親友であると認め合っている。


  

 「どうした?何かあったのか?いつもの瞳じゃないぞ?」


 勇児は心配そうに言った。


 「わかんない…。いつもなら全然気にならないのに、今日は朝からなんだか変なの…。」 


 瞳は今にも泣きだしそうだ。


 勇児は瞳と正式に付き合っているわけではない。

 もちろん、レイラともである。

 勇児はどちらとも、チューすらしていないのだ。


 これには理由がある。

 まず一つは瞳とレイラが篠崎夫妻とクロケット夫妻に「勇ちゃんとしか結婚しない!」と公言しているのだ。


 嫡男がいる篠崎家はともかく、クロケット家としてはたまったものではない。レイラが婿を貰わなければ家は跡絶えてしまうのだ。たとえ婿を迎えられなくても、血統が跡絶えてしまうのだけは阻止しなければならない。


 そんな親の思いをよそに、2人して「勇ちゃんと結婚出来なければ、俗世を捨てて尼になる。」とまで言い切ったものだから、両家は頭を抱えてしまった。


 困った両家は嘉納小太郎に間に入ってもらい、八雲に伺いを立てた。「娘を勇児の許嫁にして欲しい。」と。

 話を聞いた八雲は、勇児に直接話を聞いた。勇児は「どちらかなんて選べないよ。」と答えた。

 これが勇児が12歳。瞳とレイラ10歳の時なのだから驚かされる。


 話を聞いた八雲は「10年も経てば人の心も変わるやもしれません。今すぐ決める話ではないでしょう。しばらく様子を見ようではありませんか。」と答えた。

 小太郎も八雲の意見に賛同し、「年頃になったら本人達に決めさせる。」事になり許嫁の話は流れたのだか、問題はここからだった。

 次の問題が出てきたのだ。


 次の問題。それは国だった。

 剣崎家は先祖代々、大和王国に仕える兵法の達人である。

剣崎家の持つ力を目の当たりにしてきたアルザール王国としては、その血をアルザールに持ち込みたいと考えたのだ。

 最悪、本人がアルザールに来なくても血を残してくれればそれでもいい。

 しかし、大和王国としては剣崎家の血をアルザールに渡したくないだろうと考えたアルザールは、レイラに剣崎の血を受け継いで貰えるよう、レイラを全面的にバックアップする事にした。

 事あるごとに勇児にアルザール王国に足を向けて貰えるよう画策し、遺跡発掘も勇児とレイラをマッチングするように動いた。


 それを察知したクロケット夫妻は篠崎夫妻と話し合い、両家の親としては関与しないと取り決めをした。

 両夫妻としては国の意向より娘の幸せをとったのだ。

 クロケット夫妻に関しては、家が跡絶えてもかまわないと決断したのだから、よほどの決心だったのだろう。


 お幸が言った「不思議な関係」とはこの事なのである。


 それから時が過ぎ、3人が結婚出来る年齢になって先送りにしてきた問題も解決しなければならなくなってきた。

 その不安が瞳の言動に出たのだろう。お幸は何も言えなかった。

  

 お幸と源造から見ても、瞳は今日まで一切ぶれる事無く、勇児を思い続けてきたし、レイラもまた、レイラの表現方法で勇児を思い続けてきたのがわかるからだ。


 問題は当事者である勇児だ。この問題が起こった当初は、何が何やらわからない状態であり、他人事のように思っていた。

 それは当然であろう、勇児はまだ思春期すら迎えていなかったのだ。


 月日が経ち、勇児は自分が異常な状況に置かれていると理解した時にはすでに遅かった。


 2人のアタックは過熱しており、どうにも止まらない状況になっていた。

 学校で女の子と話をしていただけで、瞳はどこからかやって来て勇児にベタベタするわ、遺跡発掘に行けば行ったでレイラがいると、仕事をしていない時はベタベタしてくる。


 最初はおかしいと思っていたのだが、慣れとは恐ろしいもので、「こんなものなのかな?」と勇児は思うようになっていく。


 そうなると学校では、自然と女の子との会話は最低限のものになり、遺跡発掘では周りに茶化されても気にならなくなる。


 何しろ学校でも遺跡発掘でも、周りの人達は嫌な顔をするどころか、微笑ましく見てくれるのだ。気にならなくなるのも当然だろう。

 

 では勇児はどちらが好きなのかというと、どちらも好きなのである。

 なぜなら瞳とレイラは勇児にアタックしてくるが、ライバルが何をしてきているかを勇児に聞くこともなければ、「私の方がいいでしょ?」などと、相手と自分を比べるような事を勇児に言わない。


 あくまで、「ライバルが何をしているかなんて興味ありません。私は私のやり方でアタックします。」と言うスタンスだから、勇児にストレスがかからない。


 それともう一つ。瞳とレイラにはルールがあった。

レイラが大和王国を訪れた時は、勇児がどちらかと二人きりになる事はない、必ず3人かレイラと瞳だけになる。

 レイラの滞在中、瞳とレイラは二人で行動するので、勇児へのアタックがピタリと止まるのだ。


 勇児からすれば2人はライバルではあるが、ドロドロとした醜い争いではなく、お互いが正々堂々と戦っている感じを受けるのだ。


 「そうだな…。そろそろ決めなきゃいけないんだな…。」


 勇児はそう言うと深いため息をついた。


 しかし、この日瞳が感じた不安は見事に的中することになる。

 それも間もなくのことだった。



 夕方になり、お幸と瞳が夕飯の支度をしていると、源造が帰ってきた。

 源造は空の弁当箱を手に、台所に行くと


 「ただいま~。お幸ちゃん。今日も旨かったよ。」


 と言って、弁当箱をお幸に渡す。


 「お帰りなさい。源ちゃん。卵焼き固くなかった?」


 「固くなかったよ?全部旨かった。」


 「おかえりなさーい!」


 台所でお手伝いをしていた子供達が声を揃えて源造に言った。


 「ただいま~。」 源造は笑顔で答えた。


 「勇ちゃんは居間にいるかい?」


 源造が尋ねると瞳が答える。


 「お兄ちゃんと居間にいるわよ。」


 「そうか。」 源造はそう言うと居間に向かった。


 居間では勇児と源助が話をしていたが、源造の顔を見ると口々に「お帰りなさい。」と言った。


 「ただいま~。源助、ご苦労であったな。勇ちゃん、さやかさんから預かり物だ。」


 源造はそう言うと、包みを勇児に渡した。


 「ありがとうおじさん。」


 そう言って勇児は源造から包みを貰うと、包みを開け書類の束を取り出し、目を通し出した。


 「げ!」 勇児が奇妙な声をあげた。


 「まさか仕事か?」 源助が心配そうに声をかける。


 「うん…。どうやら、ザールで遺跡が見つかったらしい…。」


 「それにしても次の仕事まで早くないか?3日しか休んどらんのに?」


 源造が不思議そうに言った。通常、一度遺跡発掘を終えると2週間はインターバルがある。

 どう考えても3日は短すぎる。


 「どうやら、ザールで大きな地震があったようですね…。幸い死者は確認されていませんが、地震の影響で遺跡の入口が見つかったみたいで…。」


 書類に目を通しながら勇児は言った。


 「しかも墓荒らしが出たようです。4人も。」


 「砂漠で墓荒らしか。面倒くさいな。」 源助は顔をしかめた。


 墓荒らしとは隠語であり、遺跡に入り金目の物を盗む泥棒の事を指す。


 発掘員より先に遺跡に入り、金目の物を奪っていくのだが、遺跡は素人が入って無事に済むほど甘くはない。

 そんな事が出来るなら、遺跡発掘員など必要ないのだ。

 少し考えればわかる事なのだが、一攫千金に欲に目のくらんだ輩の頭からはすぐに飛んでいくようだ。


 歴史的に貴重な遺跡を荒らすだけ荒らし、最後には迷子になって助けてくれと言うのだから、始末に負えない。


 それでも生きていればまだましのだが、大抵は残念な結果に終わる。


 「明日には出ないと間に合わないな…。ん?タコが骨折?あいつ骨があったんだ。」


 「蛸が骨折?」 源造と源助が驚いて声をあげた。


 「タコだよタコ。多湖(たご)宗光。」


 勇児が笑いながらそう言うと、源造と源助も笑い出した。


 「ワハハハハ!」 源造は大笑いしている。


 「そっちのタコか。あいつ骨あったんだな。」


 源助も大笑いしながら言った。


 多湖宗光は大和王国の遺跡発掘員だ。

 柔軟な体を持ち、遺跡の小さな隙間をスルスルと入り込むのが得意な男で、ユーモアのある面白い男である。あだ名はタコ。


 「あいつ、休暇中に落馬して骨折したって。代わりに俺かよ!帰ってきたら飯驕らせてやる…。ん?」


 勇児が書類を見ながら固まった。

 最後から二枚目の書類に墨で大きく書かれていたのは


 「ごめんなさい。宗光」


 ご丁寧に花押(かおう)まである。


 「あの野郎…。」


 勇児は笑いながら最後の書類を見た。


 「よろしく! さやか」


 これもまた、墨で大きく書かれたうえに花押まである。


 「さやかさん…。」


 宗光の紙を見たさやかが、悪ノリで書いたのは間違いなかった。


 勇児は全身の力が抜けていくのを感じた。 


 「どうした?勇ちゃん?」


 源助が心配そうに勇児に声をかけると、勇児は黙って紙を渡した。


 源造と源助は紙を見る。二枚目を見た途端


 「ワッハッハッハ!」


 2人して大笑いしたがさすが親子。見事にハモっていた。



 *花押(かおう)とは、署名代わりに使われていた、記号や符号。

 書き判、判とも呼ばれ、日本では平安時代から江戸時代まで使用されていた。

 判子のようなものだが、現在では判子と比較すると効力はない。

全国の多湖さん。ごめんなさい。


どうか、同姓同名の方がおられませんように…。

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