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第5話 バイバイシスター。

 次の日も朝から忙しかった。


 お幸と瞳は朝から朝食と弁当の支度に追われ、源造も朝早くから弁当を携えて、職場である軍学校へと向かった。


 勇児とシスターケイトが、5人の子供達の面倒を見ながら布団を干していると、モチラが布団を指差し声をかけてきた。


 「あんちゃん。そのフカフカしたのはなんだ?」


 「これか?これはお布団だ。」


 「おふとんて言うのか。フカフカで気持ちいいな!」


 モチラが嬉しそうに言うと、アイラが


 「フカフカ~。フカフカ~。」


 と、言ってはしゃぐ。


 「フカフカで気持ちいいだろ?こうやってお日様に干すとな、もっとフカフカになってお日様の匂いがするんだぞ?」


 勇児がそう言いながら布団を干していると、メルルが


 「お日様のにおい?」 と、不思議そうに尋ねた。


 「干し終わったお布団はな、こうやって匂いを嗅ぐとフカフカでお日様の匂いがするんだ。」


 勇児はそう言うと布団に顔を近づけ、頬で布団をすりすりと撫でた。


 「いい匂い?」 メルルは興味津々だ。


 「おいしそうな匂い?」 アイラも興味津々?なのかな?


 「お布団が干し終わったら、自分で確かめてごらん。」

 

 そう言って勇児は笑う。


 ルーン王国ではベッドが使われており、布団は流通していない。だから子供達は初めて布団で寝たのだが、どうやらフカフカで気に入ったようだ。


 勇児達が布団を干し終えると、瞳が縁側に現れ


 「朝ごはんが出来たわよ~。」 と声をかけた。


 「お腹すいた~。」


 子供達はそう言うと駆けだした。


 朝食のメニューはごはんと豆腐とワカメの味噌汁。鯵の開きに納豆と香の物。それに野菜の煮付け。


 「いただきまーす。」


 子供達は手を合わせてそう言うと食事を始めた。


 「そういえば、ルーン王国ではどんな朝ごはんを食べるの?」


 瞳の質問にシスターケイトが答えた。

 

 「一般的には様々ですが、教会ではパンとスープが基本です。」


 「お肉も入ってるんだぞ!」 モチラは大威張りだ。


 「ちっちゃいけどね~。」 


 アイラはせっせと箸を動かしながら答えた。


 「お肉は取り合いだな。」 ガボラも頬を動かしながら言う。


 「だな。おいもいっぱい、お肉はちょっぴり。」 


 モチラも同意した。


 「でも聖者の生誕祭の日はニワトリを食べるよ。おいしいよ。」


 珍しくタルルが口を開いた。


 「昨日のお肉…。おいしかったねぇ…。」


 アイラはうっとりとした顔で言った。


 「パリパリしてて柔らかくて…。」


 モチラもうっとりしている。


 「甘くて塩味で…。」


 ガボラもよだれを垂らしそうな顔だ。


 大和王国の文化は、当然ではあるが和の色が濃い。

 それに対してルーン王国の文化は和と洋が調和されている文化だ。

 食文化で言えば、大和王国にハンバーガーもフライドチキンもないが、ルーン王国では人気のメニューだ。


 ルーン王国は食に関して幅広く精通しており、「ルーン王国で食べられない料理はない。」と言われている。

 また、優秀な料理人も多く輩出しており、政治的貢献もしている。


 その昔、獣人種の国である「アルザール王国」のリク王は、ルーン王国との同盟締結のためにルーン王国を訪れ、宮廷晩餐会の際、料理を全て平らげた後、心底羨ましそうにルーン女王こう言った。


 「私はルーン女王陛下がとても羨ましい。陛下は広大な国土だけでなく、これほどまでに人を感動させる素晴らしい料理人という宝を持っているのだから。」


 それを聞いたルーン女王はこう答えた。

 

 「お褒めのお言葉を頂き、我が事のように嬉しく存じます。

 つきましてはこの度の同盟締結の証として、我が国の料理人をアルザール王国に派遣したいと思っております。」


 「それは願ってもない事。しかしわが国は高度2000m以上の山々に囲まれた高山地帯ゆえ、育つ作物も限られております。」


 「我が国は同盟国である大和王国と提携して、農産物の品種改良と栽培を行っております。その中には高山地帯でも育つ物もありますので、まずはそれらの栽培から始めたら如何でしょう?」


 ルーン女王の申し出を受け、リク王はすぐにでも飛びつきたい衝動にかれた。


 アルザール王国は高山地帯にある大きなカルデラ湖を中心にした小さな国である。

 国民も数千人しかおらず、高地ゆえに育つ作物も小麦、大麦、ジャガイモ、トウモロコシ等で、牛や羊やヤギ、ニワトリなどの畜産が主に行われているが、ルーン王国に比べると経済的には弱くて小さな国だ。


 食文化が発達すると人口の増加し、それが労働力強化、王国の発展につながる。

 それを考えると、ルーン女王の申し出は余りに魅力的だ。


 「わが国と大和王国から技術指導員を貴国に派遣しましょう。

これは貴国の同盟国である、大和王国女王陛下の御意志でもあります。」


 「それはありがたいお話です。しかし、わが国には…。」


 リク王は言葉に詰まった。申し出は飛び上がるほど嬉しいのだが、両国に対して代償が払えないからだ。


 いくら同盟を結んだとはいえ、なんの代償もなしに甘えるわけにはいかない。国の立場も低くなるし、発言力も弱くなる。

 何よりこれでは施しを受ける事になる。同盟とは対等の立場でないと成立しないのだ。

 外交であれば当然の考えである。


 「お気持ちはお察しいたします…。大和王国から同様のお話を受けた時、わが国も最初は同じ思いだったそうです。

 しかし、同盟国の間で優劣などありましょうか?

 同盟を結ぶ意味がありましょうか?

 奇麗事をと笑われるやもしれません。いえ、きっと奇麗事なのでしょう。

 それでもわが国はその奇麗事に酔いしれてみたいと思います。

 ご存じの通り、大和王国の女王陛下は不思議な方です。

 常にこの世界の先を見つめておられ、まるで夢物語のような理想を平気で口にし、それに向かってに実行されます。」


 「確かにそうですな。あのお方にとって、極めて高度な外交のやり取りなど、児戯に等しい。」 そう言って王は笑った。


 「全くです。それから、わが国からアルザール王国にお願いがあるのですが…。」


 「お願いですと?」 リク王は不思議そうに尋ねた。


 「アルザール王国の革製品は大変質がよく、丈夫で長持ちすると聞き及んでおります。

 残念ながら、ルーン王国にはそのような技術がありません。可能であれば、貴国の革製品を我が国に輸入させて貰えないでしょうか?」


 「ハッハッハッ!」 リク王はさもおかしそうに笑った。


 「ルーン女王陛下。輸入などと寂しい事を申されるな。輸出はもとより、わが国は喜んで優秀な皮職人を貴国に派遣させていただきますぞ。

 しかしなぜだろう?私はあのお方が好きなのかもしれませんなぁ。あの目で見つめられ、夢物語のようなお話に耳を傾けていると、ついつい引き込まれてしまう。

 私はあのお方に酔っておるのでしょうなぁ。」


 「全くです。ですが私はこうも思うのです。理想とはそもそも夢物語であり、夢物語であるからこそ叶えたいと強く願うのではないかと。

 そしてその強い願いのみが、夢物語を現実に変える方法ではないかと…。」


 「確かに…。」 リク王はそう言うと眉をしかめた。


 どれくらいの時間が経ったであろう。

 しばしの沈黙の後、リク王はワイングラスを掲げると


 「どうなるかはわかりませんが、今は共にあのお方の夢物語に酔いしれましょう。いつまでもこの夢が続きますように…。」


 「共に素晴らしい夢を…。」


 そう言うと、ルーン女王もグラスを掲げた。



 朝食を終えると、勇児達はシスターケイトを見送るため、出かける準備に入った。


 シスターと子供達の荷物は、昨日のうちに篠崎家に届いていたため、運ぶのはシスターの荷物だけだ。


 王宮から迎えの馬車が来ると、全員で乗り込み王宮へとむかった。

 王宮から北に延びる大通りは、近くの大きな湖に続いており、そこには大小様々な飛空艇が着艇している。


 この時代、飛行機や飛空艇は数少なく、ホバリングの出来ないタイプの飛行機は、水面に着艇出来るように改造されている。


 そもそも飛行場がないのだ。

 飛行場を作ると莫大な資源と人件費を費やすことになり、メンテナンスにもお金がかかる。


 海や湖を滑走路にすれば、それらの費用は一切かからないため、外国と交易のある国はどこも飛行艇をメインに運用している。


 飛行機や飛行艇は極端に数が少ない。

 現在、それらを作る技術は完全には解析されていないし、作る資源もないのだ。


 そうなると、過去の文明で作られた「遺産」を運用するしかない。遺産と言っても飛行機はかなり希少な物であり、見つかっても化石燃料を使うタイプは運用出来ない。

 飛ばせる燃料がないのだ。


 現存運用されている飛行機の燃料の主成分は水だ。

 水9に対してある液体を1の割合で調合すると、燃料が出来上がるのだが成分は勇児もわからない。


 正式には「水性イオンエネルギー発生システム」と言う。


 簡単にいえば「イオニウムΓ(ガンマ)」という液体が水と混ざると化学反応を起こし、大量のバクテリアを発生させる事により燃料の元になるのだが、この液体は熱では発火しない。

 飛行機の中にある、「水性イオンエネルギー発生システム」を通して初めて燃料になる。

 「イオニウムγ」自体はかなり燃費が良く低コストで生産出来るし、可燃性でもなければ長期間の保存が効く優れ物だ。


 しかし問題は「水性イオンエネルギー発生システム」である。


 「水性イオンエネルギー発生システム」は恐ろし緻密で繊細な造りになっており、人間の手では製造出来ない。

 さらに素材自体が現在では入手出来ない「幻の金属」の為、新造することは不可能なのである。


 「イオニウムγ」は飛行機に常備されており、水を入れてから液体を入れても問題はない。

 時間はかかるが、飛行機の中で攪拌されるようになっている。


 大和王国は世界一の「飛行機保持国」であるが、それでも公式保有数は30機に満たない。

 ルーン王国が20機、アルザール王国が18機なので、世界に現存する運用可能な飛行機は200機もないだろう。


 勇児はそのうちの1機を持つのだから、特別といえば特別であるが、勇児の持つ「八咫烏(やたがらす)」は、五家の面々も利用する事があり、実質は共同運用している。


 王宮に着いた勇児達は、湖への立ち入り許可証の申請をするのだが、勇児は職業柄、顔パスである。


 許可証を貰うと、馬車を乗り換え湖に向かい、今度は湖で先ほど貰った「立ち入り許可証」を提出し、「空港利用許可証」を申請する。これで晴れて空港に入る事が出来る。


 人の多い空港のロビーで出発の時間を待ちながら、お幸と瞳は子供達を連れ、教会へのお土産を物色していた。


 勇児とシスターは長椅子に座り話をしている。


 「教会はルーン王宮から遠いのですか?」


 「馬車で30分から40分ほどでしょうか。王都の南西の外れにあります。」


 「あぁ。ジョセフさんの農場の辺りかな?」


 「ジョセフさんをご存じですの?」


 「父の知り合いでしてね。幼い頃、何度かお伺いしたことがあります。」


 「教会はジョセフさんの土地にあります。教会自体は古いのですが、昔、手放さなくてはならない事がありまして、その時にジョセフさんが教会の土地を買い取って、無償でお借りしているのです。

 それだけではありません。ジョセフさんは子供達が農作業の手伝いをすると、賃金として作物をくれます。」


 「あの子達も手伝いを?」


 「はい。私達と一緒に朝早くから牛乳配達をしたり、農作業をしたりしていました。」


 勇児は人間と言う生き物は、他の動物と同じく環境によって育てられるものだと思っている。

 その考えは足掛け7年ほどやって来た、遺跡発掘員の仕事を通じて育まれたものだ。

 シスターの話を通じて、勇児は子供達があれだけ動き、あれだけ食べる理由がわかったような気がした。


 「しかし、ルーン王国に教会はあまり見かけなかったような。」


 「教会はたくさんありますが、うちの宗派はルーン王国にうちしかありません。外国にはあるそうなのですが教徒も少ないし、布教活動もほとんどしていません。

 孤児院がメインのようなものです…。」


 『変わった宗派だな。』


 勇児が初めての国に行くと、大抵は分厚い本を持った人達が訪れ、神様の偉大さを雄弁に語っていく。

 無宗教とは言わないが、宗教に興味がない勇児は分厚い本を見ただけで頭が痛くなる。そう言う場合、勇児は


 「ご先祖様に僧侶がおりまして…。」


 と言って断りをいれる。これは嘘ではない。剣崎家の四代目は跡目を息子に継がせるとすぐに、寺の門を叩き僧侶となった。

 

 人が神様を奉ったり、すがるのは間違いではないと勇児は思う。ただ、勇児の中で神様とは敬うべきものであっても、救いを求めるものではないだけなのだ。


 「そういえば子供達は、食事の前に祈りを捧げませんね。」


 「わが宗派が神様に祈りを捧げるのは、眠る前だけなんです。その日一日を振り返り、今日も一日無事に過ごせましたと。」


 「なるほど。」


 勇児がそう答えると、遠くから声が聞こえた。


 「シスター!あんちゃん!」


 勇児とシスターが声のするほうを見ると、そこには子供達とお幸、瞳の他に一人の男がいた。


 「源ちゃん。」 勇児は声を上げた。


 源ちゃんと呼ばれた男は勇児に手を振りながら近づいてくる。


 「勇ちゃん!」


 「お帰り。今回はどうだった?」


 「はずれ。なーんもなかった。」 そう言って男は笑った。


 男の名前は篠崎源助。源造とお幸の長男であり、瞳の兄である。

 身長は180cm手前。体は中肉中背。

 お幸とよく似た細い目で、顔は面長た。髪は短く揃えられており、頭頂部の髪は立っている。

 清潔感のある好青年だ。


 「さっき出口で母さんに会ってさ。子供達がいるから隠し子か?って驚いたよ。」


 源助はそう言って笑った。


 「あんちゃん見て見て!これ兄ちゃんに買って貰った!」


 そう言ってモチラは右手に握った棒付の飴を掲げ、勇児に見せた。

 他の子供達も嬉しそうに手に持った飴を掲げる。 

 

 「ありがとうございます。どうもすみません。」


 シスターはそう言って、長椅子から立ち上がると頭を下げた。


 「いえいえ。この子達はうちに住むんだから、僕や勇ちゃんからすれば弟妹みたいなもんだ。気にしないで下さい。なぁ、勇ちゃん?」


 源助がそう言うと、勇児も答えた。


 「そうだそうだ。」


 「源助様。子供達の事をよろしくお願いいたします。」


 シスターはそう言うと、再び頭を下げた。


 「こちらこそ。色々と至らぬ点もございましょうが、精一杯やらせていただきます。何かありましたらご助力のほう、よろしくお願いいたします。」


 と言って源助は頭を下げる。


 「シスター。これ、お土産です。」


 そう言って瞳がシスターにお土産を差し出す。


 「お心遣いありがとうございます。」


 「それとこれは私から。シスターアリサの大好物が入っています。お渡しください。」


 そう言って、お幸は風呂敷包みをシスターに渡した。


 「そろそろ時間ですね…。」


 勇児はロビーの時計を見ながら言った。


 シスターはモチラの前で屈むと、モチラと目線を合わせ


 「モチちゃん。あなたは頑張り屋さんの良い子でシスターはモチちゃんが大好き。でもモチちゃんは物事を軽く見る所があります。私はそれが心配です。皆さんの言う事をよく聞いて、頑張るんですよ。」


 「うん。わかった!」


 「アイラちゃん。」


 「あい!」


 モチラと入れ替わりでアイラがシスターの前に立つ。


 「好奇心がいっぱいで、何事も恐れないアイラちゃん。そんな優しいアイラちゃんが私は大好き。でもね、アイラちゃん。甘えたい時は甘えればいいのよ。大人に気を使わなくっていいからね。無理しないでね。」


 「あい!」


 「メルちゃん。」


 「ハイ…。」


 「メルちゃんは優しくて周りに気が使えて、お手伝いもたくさんしてくれて私はメルちゃんが大好き。でもね、メルちゃん。思った事は口にしていいのよ。言わなきゃわからないこともあるのよ。みんなと仲良く頑張ってね。」


 「ハイ…。」 メルルは泣きそうだ。


 「タルちゃん。」


 「はい。」


 「タルちゃんは頭が良くて、上手にみんなをまとめてくれて、私はタルちゃんが大好き。でもね、タルちゃん。タルちゃんは一人で考えこんでしまう事が多いから私は心配。そんな時は誰かに相談するの。他の人の意見を聞くのはとても大切な事なのよ。みんなと仲良く頑張ってね。」


 「はい。」 タルルも泣きそうだ。


 「ガボちゃん。」


 「はい!」


 「ガボちゃんは正義感が強くて、仲間思いの良い子だから私はガボちゃんが大好き。でもね、ガボちゃん。あなたは喧嘩っ早い所があるから私は心配。もう少し我慢を覚えなさい。みんなで助けあって頑張ってね。」


 「はい!」


 シスターは子供達との話を終えると、お幸の顔を見た。

 

 「皆様。子供達の事をよろしくお願いします。叱る時はきつく叱ってください。褒める時は褒めてあげてください。よろしくお願いいたします。」


 そう言って深々と頭を下げた。


 お幸達も深々と頭を下げる。


 「じゃあみんな。元気でね。」


 シスターはそう言うと、もう一度お幸達に頭を下げてから出国ゲートへと向かった。


 「シスター!」


 「シスター!」


 「シスター!」


 「シスター!」


 「シスター!」



 ガボラを筆頭に子供達の声が聞こえた。


 シスターは歩みを止める。


 「おいら達頑張るよ!」 ガボラだ。


 「頑張る!」 モチラだ。


 「頑張る!」 アイラだ。


 「シスター元気でね。」 タルルだ。


 「シスターまたね!」 メルルだ。


 シスターは振り向きもせず、歩き出した。


 シスターの両肩が小刻みに震えている。


 それで充分だった。


 シスターの両目からは涙が溢れている。それでもシスターは涙を拭いもせず歩き続ける。

 振り向くことなど出来なかった。


 子供達に話をした時、本当は最後に一人づつ抱きしめたかったが出来なかった。いや、出来るはずがなかった。


 今までだってそうだ。


 5人は自分達が甘えたいのに、それを我慢して小さい子供達の面倒を見てきたし、年上のいじめっ子にも決して屈さず抗い続けてきた。本当に強い子供達だと思う。


 もっとしてあげたい事があった。

 もっと出来る事があったはずだ。

 もっと抱きしめてあげたかった。


 思い起こせば後悔しかない。


 抱きしめてしまえば気持ちが残ってしまう。そうなれば子供達も泣き出すだろう。


 『これは私の罪……。』


 そう思って抱きしめたい気持ちを抑えてきたが、もう無理だった。


 シスターが飛空艇に乗り込み席に座る。他に客はいない。

 相変わらず涙は止まらない。

 飛空艇が回転数を上げ、湖面から離れていく。

 室内にエンジンの音が大きく響く。

 

 シスターは両手で顔を覆い、肩を震わせながら声をあげて泣いた。

 

 離陸していく飛空艇を見送るため、子供達は見えなくなるまでロビーのガラスに貼り付いていた。


 全員、口を固く結び泣かないように必死で我慢していた。

小説の結合が出来ていませんでした(笑)


直しました(笑)

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