第18話 招かれざる客
読みやすいように1話を分割して書いていますがどうなんでしょう?
もっと長い方がいいのだろうか?
しばらくこのスタイルでいきます。
食事が終わり、男達が食器洗いを済ませると、隊員達はしばしの団欒を楽しんだ後、明日に備えてベッドルームへと向かった。
隊員達が寝静まった夜更け。
キャサリンと勇児はキャビンのテーブルを挟んで、コーヒーを飲みながら話しをしていた。
「今回の遺跡はどんな感じ?」
キャサリンの問いかけを受け、勇児は手にしたコーヒーカップを口元に運ぶと、一口飲んでからテーブルに置くと話だした。
「規模は大きくはないが、ちーっとばっかり面倒くさい感じがするな。」
「現時点での情報だと、施設の特定が難しいわね。
研究施設は研究施設だろうけど、何の研究施設なのか…。」
神妙な声でそう語るキャサリンの顔は真剣そのものだ。
「結局、1階の半分は住居スペースで、残りの半分は研究スペースのようだが、なんにも残ってないからなあ…。」
そう言いながら勇児は頭を掻いた。
住居スペースを探索した後、勇児達は残りのブロックと通路沿いの各部屋をくまなく探索したが、結局何も見つからなかった。
「それにしても見事なくらい、何も出てこないわね?
何かあったのかしら?」
キャサリンが不思議そうに言った。
「根こそぎ持って行ったか、持って行かれたか?
しかしガードマシンは生きていた・・・。意味がわからん。」
「ガードマシンが稼働している事から、動力源は生きているのだし、他にも何か配備されている可能性は高いわね。」
「だろうな・・・。」
「ガードマシンの型式は本部に照合中だけど多分、ゴードン社のPX-5000シリーズだと思うわ。」
「動きが遅かった。あれならいつもの作戦でいけるよ。」
勇児はコーヒーカップを口に運びながら言った。
「建物の構造から見て何か気になることはないか?」
勇児がキャサリンに問いかけた。
「研究施設に住居スペースがあるのもおかしいわよね?
簡単な仮眠室なら、遺跡にいくらでもあるけど、食堂まで完備となると・・・。」
「そこも引っかかるんだよなぁ・・・。
食堂なんてわざわざ地下に作るかな?単純な地下のみの施設だと理解出来るんだが、そんな感じもしないしな・・・。」
「確かにね。構造が地下のみの施設の造りじゃないし、どう考えても遺跡の上に建物が建っていたのは間違いないでしょうね。」
キャサリンがスプーンでコーヒーをかき回しながら言った。
「なら、住居スペース自体を地下に作る理由がないよね。
敷地内の別の場所に作るほうが楽だし、その分研究施設を増やせるだろ?」
「ひょっとしたら、人目につかないように研究をしていたのかも・・・。」
キャサリンは瞳に眉を寄せながら言う。
「あいたぁ〜!やっぱりそうなるよな〜!」
勇児はそう言うとゆっくり項垂れた。
勇児とキャサリンが『何の遺跡なのか?』にこだわるのかには理由がある。
勇児とキャサリンは遺跡発掘中の事故を恐れているのだ。
勇児が初めて遺跡発掘隊の仕事をしたのは15の時である。
ローとキャサリンが初めて遺跡発掘に参加したのも同じ日だから、すでに7年間も行動を共にしている。
勇児が18の時、隊員から異例の早さで隊長に昇格。
遺跡発掘隊の最高現場責任者「ギルバート・ハミルトン」から直接、隊長就任の要請を受けたが、勇児はこれを拒否。
ギルバートから再三の要請を受けた勇児は、ギルバートに2つの条件を出した。
1。 ローとキャサリンに異存がなければ、2人を勇児の隊の専属メンバーとすること。
2。 ローとキャサリンは、隊内において全ての面で勇児と対等の扱いにする事。
要するに2人に隊長資格を与えろと言ったのだ。
この条件だけを聞けば、勇児が偉そうに言っているように聞こえるが、勇児がこの条件を出した理由はたった一つ。
勇児は自分だけの働きで高評価を得たわけではない。
ローとキャサリンがいてくれてこその評価であると言いたいのだ。
他の幹部達が訝しがる中、ギルバートは即座に勇児の真意を汲み取り、一つ返事でこれを快諾。
直接、ローとキャサリンに確認を取ると2人ともこれを快諾。
それから4年が経ち、現在に至っている。
3人は7年間の間に様々な遺跡発掘をしてきたが、不幸なことに何度か悲しい事故を目にしてきている。
幸いな事に勇児が隊長になってから今まで大きな事故はないが、遺跡発掘という仕事は熟練のプロでさえ、簡単に命を落とすほど危険な仕事なのだ。
危険予知や危険防止が全く通用しない遺跡などたくさんある。
特に注意しなければならない遺跡が「軍事施設」「研究施設」などだ。
遺跡発掘をする勇児達からすれば、一日でも早く遺跡の正体を暴き、さっさと対策をうちたいのは、それが隊員達の身の安全につながるからだ。
今回の遺跡のようなガードマシンが出る遺跡などは珍しくもないが、軍事施設や生物研究施設などはセキュリティーが格段に上がり、トラップなども多数出てくる。
しかもそういった施設は動力源が生きている場合が多い。
文明が滅んでから数百年は経つというのに、今でも稼働しているのは驚きだが、実生活ではなんら恩恵を受けていない一般人には、興味こそあれ手に入るものでは無いため関心は薄い。
勇児達を含む遺跡発掘員にしても、遺産はしょっちゅう使うが便利だなぁと思うだけで、欲しいと思う物は少ない。
ちなみに遺跡発掘員に人気がある遺産は「冷蔵庫」である。
特に飲ん兵衛の獣人種は、アルザール王国特産の麦酒を冷やして飲むのが好きだ。
「参ったなぁ・・・。研究施設でも厄介なやつかもしれないなぁ。」
勇児は天を仰いだ。
「可能性は高いわね。場合によっては応援が必要かも……、」
遺跡が軍事施設の場合、1隊での発掘作業は禁止されている。
最低でも3隊での発掘作業が義務付けられており、過去には10隊で発掘作業をした記録がある。
キャサリンはその事を示唆したのだ。
しばらく沈黙が続いた。
「ま、もうしばらく様子を見ようか。」
勇児がそう言うと、キャサリンは笑った。
「発掘はまだ始まったばかりだしね。心配しすぎかしら?」
「いや。うちの隊はそれでいい。他所の隊は知らん。」
勇児がそう言って笑うと、キャサリンも笑った。
「なぁ。後悔してないか?」
勇児は真剣な顔でキャサリンに尋ねた。
「何が?」
「うちの隊の専属になった事さ。」
キャサリンは驚いた顔で言った。
「なぜ後悔しなければならないの?」
「いつも迷惑かけてるからさ。食事一つにしたって一生懸命作ってくれてるのもわかるし、仕事の方だってそうだ。
俺とローが好き勝手出来るのはキャサリンのおかげだしな。
でもポールの事を考えるとな・・・。
遺跡発掘するより、ハートランドで働いた方がキャサリンにもポールにも良いんじゃないかなと・・・。」
「あははははは!」
勇児の言葉を聞き、キャサリンは笑いだした。
「私に毎日研究所に通ってハートランドから出るなって言うの?そんなの息が詰まっちゃうわ。
確かに研究所に籠もるのも悪くはないのだろうけど、私には性に合わないわ。
私は私なりにこの仕事が好きだし、やりがいもある。
ポールには申し訳ない所もあるけど、可能な限り同行させて貰ってるしね。ポールもそれを望んでいるんだし問題はないわ。」
「だが安全面を考えるとなぁ。」
「あら?ユウが私とポールを守ってくれるんでしょう?」
「お、おう!任せとけ!」
勇児は言葉に詰まりながら言った。
「それとも私じゃ嫌?」
キャサリンは悪戯っぽく笑いながら言った。
「キャサリンじゃなきゃ嫌だ。」
勇児は間髪入れず即答した。
男は普通、こういうセリフを吐かない。
相手に勘違いさせたいのなら別だが、それでも間髪入れずに言うセリフではない。
少し焦らしながら相手の手を取り、目を見つめながら言えば完全に相手を落としにかかっているだろう。
しかし、勇児はそんな事は一切せず、間髪入れずに歯の浮くようなセリフを堂々と言う。
それが勇児の本心であり、嘘偽りのない言葉なのだが普通の相手なら大きく心を揺さぶられる。
簡単に言えば勇児は朴念仁なのである。
それは瞳とレイラのせいでもある。
2人のストレートな愛情表現を受け止め続けた結果、勇児は男と女の駆け引きというものを知らずに成長してしまったのだ。
だから駆け引き無しに自然と思った事を口にする。
それが相手に誤解を生ませる原因になったとしても。
キャサリンが勇児の言葉をどう受け止めたのかはわからないが、勇児に向かって笑顔で答えた。
「ありがとう。」
「マリアの方はどうだい?最初に一発かましたから心配でね。」
「あの子なら大丈夫よ。あのあと随分謝ってたわ。」
「アランの時は苦労したからな。あれに比べればましか。」
「そうね。あの時は酷かったわね。」
キャサリンは当時の事を思い出しながら笑った。
「それが今ではアレだもんな。人間、変われば変わるもんだ。」
「今は他の隊にいる時も評判いいみたいよ。」
「うちに来るのは、若くてクセのある奴ばっかりだ。
ギルバートのおっさん、俺に怨みでもあるのか?」
勇児はブスっとした顔で言った。
「わかってるクセに。」
キャサリンはそう言うとコーヒーカップを手に微笑んだ。
突然、勇児がコーヒーカップを持ち上げる動きを止めた。
「お客さんだな・・・。」
勇児がそう言うと、キャサリンは隣の椅子の上に置いてあるイヤフォンをすかさず勇児に渡した。
「説得は無駄だったようだな・・・。」
勇児はそう言いながらイヤフォンを装着して立ち上がると、出入り口の扉へと向かった。
「刀はいらないの?」
キャサリンが後ろから声をかけた。
「いらない。明かりを消してくれるか?」
勇児がそう言うとキャビンの明かりが消えた。
勇児は扉をあけてトレーラーから出る。
勇児は後ろ手で扉を閉めると歩き出した。
「いるんだろ?出てこいよ。」
月明かりの下、勇児はなおも前へと進む。
暗闇の中から11人の男達が現れ勇児を取り囲んだ。
男達は全員、頭に布をぐるぐると巻き、上半身は裸で腰には粗末な布が巻いてある。
全員が手に棍棒を持ち、やたらとギラついた目で勇児を見ている。
「一人足りないな。頭は誰だ?」
勇児がそう言うと、男達の輪の外から一人の老人が現れた。
「話のわかりそうな爺さんじゃないか。何が目的だ?」
勇児がそう言うと、老人が言った。
「食料を少し分けてはもらえんか?」
「断る。」 勇児は間髪入れずに答えた。
「何もわしら全員の食料を出せと言うわけではない。せめて村にいる乳飲み子の母親の分だけでも分けて貰えないだろうか?」
「無理だな。」 勇児は冷たく答える。
「そうか・・・。残念じゃ・・・。わしらも、もう後がない。こうなれば死ぬ気でかからせてもらう。」
「無駄死にしようが俺には関係ない。
もしも俺を倒せても仲間は他にもいるんだぜ?成功するとでも思ってるのか?獣人がいる事もわかってるんだろ?無駄死にになるぜ?」
「わしらにはもう後がないんじゃ。このままでは赤子達が死んでしまう。」
「だからといってこんな夜更けに大勢で押し掛けて強盗か?
それじゃあスジが通らねぇぜ?
俺達はこの国に慈善事業をしに来たんじゃない。遺跡発掘に来たんだ。爺さんなら俺の言ってる事がわかるだろう?」
耳の穴を小指でほじりながら勇児が言う。
「わかっておる。わかっておるが時間がないのだ。
わしらはいい。わしらはいいが母親達には食わせたい。
この気持ちがわかってもらえんだろうか?」
老人の悲痛な顔が勇児の瞳に映る。
「わからんな。俺の国にそんな生活をしている人は一人もいない。他の隊員達もそうだ。
あんたらのお国事情を俺達に押し付けられても正直な話、迷惑でしかない。」
「人でなし!」 「鬼!」 「悪魔!」
回りの男達から声が上がった。
「自分達の都合で強盗の真似をするお前らはなんだ?
人でなしでも鬼でも悪魔でもないのか?じゃあ俺はあんたらをなんて呼べばいい?」
男達は黙りこんでしまった。
勇児はイヤフォンに向かって、なにやらボソボソと話だしたが男達には聞こえない。
「どうしても駄目か?」
老人は悲しげな声で言った。
「食料を分ける事は出来ない。」
勇児はスッパリと言い切った。
突然、男達が声を殺して泣き始めた。老人も同じように泣いている。
勇児が『辛気臭ぇなぁ。』と思っていると、トレーラーの扉が開き、積み重なった2つの箱を持ったキャサリンが現れた。
「そこ、どきなさい。」
キャサリンはそう言いながら男達の間をすり抜けると2つの箱を勇児の足元に置くと。
「隊長。これ捨てておいてもらえます?」
と言うと、トレーラーへと戻って行った。
勇児は箱を開けて中を見ると回りに聞こえるように言った。
「あ〜これか。こんなに余っても今更食い切れねぇなぁ。あんまり旨くないしなぁ。
爺さん。悪いんだがこいつをどっかで処分してくれねぇかい?」
勇児の言葉を聞き、男達はざわめき始めた。
老人は慌てて勇児の元へと走る。
「こ、これは・・・。」
老人は箱の前にひざまずき、箱の中身を見たあと、勇児の顔を見た。
勇児をイヤフォンを外すと懐の中にいれ、
「いいか爺さん。一回しか言わないからよく聞けよ。おまえらもこっちに来い。」
勇児はそう言うと回りの男達に手招きし、爺さんの前で屈んだ。俺達は一斉に勇児の元に集まる。
勇児は箱を開けると、中にぎっしりと詰まった細長いスティック状の包みを一本取り出した。
「こいつは小さくて細長いだろ?だがな、味はイマイチだが栄養があってな。これ一本で一日の栄養が補えるんだ。」
勇児はそう言うと包みを破いた。
中から細長くて黄色い物体が出てきた。
「おぉ!」 男達が声を上げた。
「よくみな爺さん。ここに2本の線が入ってるだろ?この線までか一食分だ。爺さん口開けな。」
勇児はそう言うと黄色い物体を線の所で折ると、折れた物体を爺さんの口に放り込む。
爺さんは何度か咀嚼し、飲み込んでしばらくすると目を見開いた。
味はイマイチだと言っていたが全然うまいし、量の割に満腹感もある。
「なんだこれは!」
老人は驚いて声をあげた。
「もう少し経つともっと腹が膨らむぜ。こいつは俺達用の非常食なんだが賞味期限がなくてな。
全部で1000本はあるから食い切れねぇし間に合わねぇ。
捨てるしかねぇんだが、どこに捨てていいかもわかんねぇんでな。悪いが爺さん処分しといてくれねぇか?」
勇児の言葉を聞いた老人はカッと目を見開くと、勇児の心意を悟り、地面に手をつき頭を下げた。回りの男達も次々に続いていく。
「食いでがなかったら水につけると膨らむからな。
水を調節すれば粥みたいにして赤ん坊にも食べさせられるぜ。
それとな、あんたらの村人が4人死体で見つかった。
明日の朝、取りにきてくれ。」
勇児はそう言って立ち上がると、懐からイヤフォンを取り出して装着する。
「てことで、あんたらに分ける食料はねぇ!用事が済んだらさっさと村に帰んな!」
言葉を荒げながらそう言った勇児は老人にウィンクすると踵を返し、さっさとトレーラーに戻っていった。
トレーラーに戻った勇児がイヤフォンを外すと、キャサリンが声をかけた。
「撮影は完了よ。問題なし。」
「そうか。」
「隊長に報告があるんだけどいいかしら?非常食全部渡しちゃった。」
「問題ないだろ?」
「まーったくないわ。」
、
キャサリンはそう言うと笑った。
遺跡発掘隊は現地民からの食料の供与と、現地民への配布がきつく禁止されている。
毒などを盛られる可能性があるのと、配布による貰えなかった他の現地民の暴動や混乱を防ぐためだ。
勇児がイヤフォンを通してキャサリンに言った言葉は
「捨てる物はないか?」 であり、キャサリンの返事は
「すぐに持ってくるわ。」 であった。
キャサリンはすぐにキッチンに向かうと、キッチンの隅に置かれた非常食を全て運びだして勇児の元に持って行ったのだ。
しかも非常食の賞味期限がまだまだあったのは、勇児もキャサリンも知ってのうえだ。
翌朝、隊員達が朝食を終えるとへサーム達が数人の村人達を引き連れてやってきた。
「村長から聞きました……。ありがとうございます。」
遺跡への道すがら、ヘサームは小声でそう言って勇児に頭を下げた。
「処分に困ってただけです。こちらこそ助かりました。」
勇児がそう言うとヘサームは深く頭を下げた。
勇児はヘサーム達への遺体の引き渡しを終えると、隊員達に言った。
「今日はミーティング通り2階の探索から始める。怪我なんかするなよ。」
「了解です!」
勇児の言葉を聞き、マリアとアランは大きな声で返事をした。
次は地下二階です。
何階まであるのかな?