第17話 「楽しい夕食」
少し間が空きましたが書けました。
今まで昼の12時配信でしたが、都合により18時配信になります。
ご了承下さい。
3日以内に更新出来るように頑張ります。
探索を終えた勇児達が荷物を抱えトレーラーに戻ると、キャサリンとエリーが夕食の準備をしていた。
「お疲れ様。今から夕食を作るから、先にシャワーでも浴びてて。」
キャサリンは勇児の顔を見ると、赤い何かが入った瓶に水を注ぎながら言った。
エリーは頭に頭巾を巻きエプロン姿でトレーラーに備え付けのキッチンの前に立ち、20人分はある大きな鍋の中をかき回しながら奮闘している。
「携帯食料を使うのか?」
勇児はキャサリンが手に持つ瓶を見ながら言った。
「携帯食が貯まり過ぎちゃって困ってたのよ。さすがにここでは現地調達は無理でしょ?」
キャサリンがそう言うと瓶の中身に変化が現れた。
赤い何かはみるみるうちに膨らみ始め、あっという間に瓶の中身が、赤くて丸い物体で埋め尽くされていく。
それは真っ赤に熟したイチゴだった。
水中を漂っている真っ赤なイチゴは、赤い宝石の様に美しくさえある。
この時代の国際連合の使う携帯食料は、全てフリーズドライである。
高度文明の遺跡で発見されたフリーズドライ製造装置は、遺跡発掘隊にとって大いなる恩恵をもたらした。
食料事情の改善だ。
それまでの遺跡発掘隊の携帯食料は惨めなものであった。
缶詰や干し肉がメインであり、生肉や魚などは現地調達でしか手にはいらず、デザートなどは夢のまた夢であった。
当時のメニューと今のメニューを比べてみよう。
当時の代表的なメニューは、ビスケット。クラッカー。乾パン。缶詰。干し肉。キャンディー。金平糖。羊羹。インスタントコーヒー。ティーバッグ。等である。
これらは味もイマイチで、何より携帯するには重くて運びにくい。
必死で働いた遺跡発掘員からすれば、あまりと言えばあまりな話である。
それに対して、現在使用されているフリーズドライは、食材だけではなく、料理ですらフリーズドライにする事が可能であり、活用すれば発掘地でフルコースですら堪能出来る。
ただし、携帯食料と言っても非常食に関しては、栄養価が高い代わりに味はかなり落としてある。
非常食が美味ければ、さっさと食い尽くされて無くなってしまうからだ。
しかも料理の監修にはルーン王国の料理人が携わっており、料理下手な発掘員が調理するより遥かにうまいし、軽くて持ち運びも楽だし、発掘地に運べる量も遥かに多い。
ただし、フリーズドライは世の中には出回ってはいない。
何せ装置が5台しかないので、国際連合しか持っていない。
勇児の隊はキャサリンが料理上手なため、料理の携帯食は使っていない。
勇児とローは狩りや釣りが上手なため、肉や魚は現地調達する事が多く、料理よりも食材のフリーズドライを頼むことが多い。
ただし、勇児の隊は大食らいのくせに、味にうるさいのが多いので、支給品では足りないと言う大前提があるからであり、一般的な発掘隊とは少し違う。
何せ勇児とローが二人で八羽のウサギを捕まえてきても、一回の食事で食べ切るのだから、その食欲たるや推して知るべしであろう。
各隊の食料の支給は食費で支給されており、各隊毎に好きな物を購入出来る。
食費には金額が定められており、キャサリンは高い料理のフリーズドライを買わず、安い食材のフリーズドライを定額まで買い込み、いざと言う時のためにプールしておくのだ。
まさにやりくり上手な主婦だ。
実際、キャサリンの役割は隊にとって、とてつもなく大きい。
現場の指揮と判断は勇児に任されてはいるが、最終判断をするのはキャサリンであり、食事の準備はもちろん、隊の会計監査、備品や食料の管理もキャサリンが行なっている。
数字を見るのも嫌な勇児に任せたらいつまでたっても終わらないだろうし、そもそも勇児は言葉が話せても全ての文字の読み書きが出来ない。
ならば他の隊員達は何もしないのかと言うとそうではない。
食器洗い、掃除、洗濯は全て自分でやるし、キャサリンの分も分担でやっている。
そうでもしないとキャサリンには寝る暇もないのだ。
食事を終えると全体ミーティングがあり、それが終わると隊員達はそれぞれに憩いの時間を楽しんでから明日の為に眠りにつくが、キャサリンはそこから今日一日の業務報告書を書かなければならない。
業務日誌を書く時には勇児とすり合わせをしなければならないので大抵は夜にキャビンで2人、コーヒーなどを飲みながら話し合いをする事になるので、眠りにつくのも遅くなる。
明日の朝食と隊員達の昼の弁当の仕込みは、エリーがしてくれるのだが、事ある毎にエリーはキャサリンの所にやってくるので、いちいち相手をしていると仕事は進まない。
結局、キャサリンは夜遅くまで仕事をする羽目になるのだ。
勇児、ロー、アランの3人は、トレーラーの中でパンツ一丁になると、タオルを手に外に出てトレーラーが牽引しているタンクの前に集まる。
タンクの真ん中くらいにある、四角い箱の鍵穴に勇児が鍵を差し込むとフタが開き、勇児が何かを引っ張りだす。
それはシャワーヘッドのついたホースだった。
勇児は丸まったホースをほどきながらパンツを脱ぐと、シャワーヘッドのボタンを押した。
ヘッドから水が流れ出すと、勇児は頭から水を被る。
全身くまなくシャワーを浴びた勇児は、シャワーをローに手渡した。
ローもシャワーを頭から浴びると、今度は全身に浴びる。
その間に勇児はタオルで全身を拭きあげ、タンクに乗せていたパンツを履いた。
シャワー時間1分。体を拭くのに1分の短時間だった。
アランはシャワーを浴び終わると、シャワーヘッドを勇児に渡す。
勇児はホースをくるくると巻くと箱の中にしまい、フタをすると鍵をかけた。
ローは全身毛だらけなので体を拭くのに時間がかかったが、アランがパンツを履いた時には、ローもパンツを履き終えていた。
短いシャワータイムと思われるだろうが、これも水の消費を抑える為と、不意打ちに対する対応策でもあるのだ。
ちなみにマリアはトレーラー内にある女性専用のシャワーを使っている。
シャワーを終えた3人はトレーラーに戻ると、ユニフォームを洗濯機に放り込み、それぞれの私服に着替える。
勇児は着流し、ローとアランはジーンズに半袖シャツであった。
着替え終えた3人はキッチンに向かうと、食器をデッキに運びテーブルの上にスタンバイしていく。
通路を挟んだ2つのテーブルには白いテーブルクロスが敷かれ、各自の席にナプキンにフォーク、ナイフ、スプーンが手際良く綺麗に並べられていく。
ちょっとしたレストランのような趣きである。
次にアランがテーブルの中央に空いたスペースにデニッシュや黑パン、白パンなど様々なパンが山盛りになったバスケットと、並々と水の入った大きな水差しを置くと、勇児がこれまた鮮やかに彩られた山盛りのサラダボウルを並べた。
ローは食器のセッティングされていないテーブルの上に、☓の形をした台を置くと、肩に乗せた小ぶりな樽を横にして台の上に乗せた。
アランはキッチンから人数分の皿とグラスを持って来ると、勇児が皿を受取りサラダを盛り付けていく。
盛り付けられたサラダをローが各自のテーブルに置いていくと、アランが水差しの水をグラスに注ぎ、各自のテーブルに置いていく。
ローは樽の側面についたコルクの栓を抜くと、かわりに小さな金属の蛇口を付ける。
ローが蛇口の下にグラスを置き、蛇口をひねると蛇口から赤い液体がグラスに向かって流れだした。
アルコールと葡萄の豊潤な香りがする。
赤ワインだ。
ローがワインの注がれたグラスを各自のテーブルに置いていくと、勇児は同じように白いパン皿を並べていく。
テーブル2つ分のセッティングが終わり、これで食事の準備は整った。
あとはメインディッシュを待つのみだ。
そこに、それぞれ重そうな鍋を持ったエリーとマリアが現れると、2つのテーブルの上に敷かれた鍋敷きの上に鍋をドン!と置いた。
すかさずローとアランが深皿を手に2テーブルを挟んで、2人の対面に立つ。
アランがエリーに深皿を手渡すと、エリーは鍋の中からおたまで中身をすくうと、皿の中に注ぎ込む。
トロリとした深いブラウンの液体は、トロットロに煮込まれた大きくブツ切りにされた牛肉の塊と、人参、じゃがいも、玉ねぎが入った「キャサリン特製ビーフシチュー」だ。
アランはエリーからビーフシチューを受け取ると、すかさず次の皿を手渡す。
エリーは再び鍋の中におたまを突っ込みすくいあげる。
アランはビーフシチューをテーブルに置き、すでに次のビーフシチューを受け取る準備に入っている。
マリアとローも同じ作業をしていたが、ローから最後に渡された皿を持ってギョッとした。
『洗面器?』
マリアがそう思うほどでっかい皿だ。
「ちまちましたのは嫌いでな。」
ローはそう言うと右手をマリアに差し出し、マリアの持っているおたまを渡せとジェスチャーをした。
マリアからおたまを受取ったローは、洗面器、いや、大きめの皿にどんどんビーフシチューを入れていく。
鍋からどんどん減っていくビーフシチューを見ながら、マリアは目を丸くする。
鍋の中身はあっという間に半分以下になった。
ローはビーフシチューを皿に入れ終わると、そのまま椅子に座り込んだ、
そこに両手に持った容器をシェイクしながらキャサリンがやってきた。
テーブルの前にいたエリーは通路に出る。
「はい。ドレッシング。みんなお待たせ。さぁ、食事にしましょうか。」
キャサリンはそう言うと左手に持った容器をアランに手渡し、右側の窓際に座る勇児の前に座り、容器を勇児に渡した。
勇児はサラダの上で容器を振ると、キャサリンに容器を返す。
キャサリンもサラダの上で容器を振ると、今度は隣に座ったエリーに容器を渡した。
反対側のテーブルに座るローの前にはマリアとアランが座り、同じように順番にサラダにドレッシングを振っている。
2つのドレッシングの容器がテーブルに置かれると、勇児が話を始めた。
「今日も一日お疲れ様。今からお楽しみの夕食の時間だ。
食事の前のお祈りってやつをやるならやってくれ、ただし、お祈りやってる間におかわりが無くなっても自己責任でな。
今日は見ての通りビーフシチューだ。この中にめっぽうビーフシチューに目がないやつがいてな。ボサっとしてると全部食われるかもな。それじゃあキャサリン。乾杯よろしく。」
勇児がそう言うと、全員がワイングラスを手に持った。
「それじゃあ今日も一日ご苦労さま。明日も一日頑張りましょう。お疲れ様でした。」
キャサリンがそう言うと、全員がワイングラスを掲げ
「お疲れ様でした!」
そう言ってワインに口をつけた。
楽しい夕食の始まりである。
マリアはお祈りを済ませると、スープをスプーンですくい口元に運んだ。
「おいしい・・・。」
牛肉から出た重厚な肉汁が、長時間煮込んで抽出された野菜の旨味と溶け合い、マリアの口の中で濃厚かつ豊潤なハーモニーを奏で出す。
「口に合うかしら?」
隣のテーブルからキャサリンがマリアに声をかけた。
「とってもおいしいです。疲れがとれます。」
「それは良かった。じゃんじゃん食べてね。」
キャサリンはそう言うと勇児と会話を始めた。
マリアはビーフシチューの皿を見た。
肉も野菜もかなり大きくカットされており、とてもじゃないが一口では食べられない。
マリアは左手にフォークを持ち、肉に刺して持ち上げた。
重い。でかい。柔らかい。
どう見ても10cmはある肉の塊がフォークの上でプルプルと震えている。
マリアは回りを見回した。
左に座るアランと、前に座るローは肉も野菜もフォークを突き刺しバクバクと食べている。ローに関しては肉も野菜も一口だ。 しかもワインをまるで水のようにガブガブと飲んでいる
隣のテーブルに座る勇児とキャサリンとエリーは、フォークとナイフで肉を切りながら食べている。
マリアは肉を皿に戻すと右手にナイフを持ち、肉にナイフを差し込んだ。
『まるでステーキを食べてるみたい。』
そう思いながら肉を切っているが、肉が非常に柔らかい。
引っ張るだけで簡単にほぐれそうだ。
肉を口に入れてマリアはびっくりした。
あれだけスープに出汁が出ているのに、肉が柔らかくて濃厚な味がするのだ。
『おいしい・・・。』
マリアは思いを言葉にしないで黙々と肉を平らげた。
次に野菜を食べたが、どれもこれもおいしい。
気がつけばマリアは一心不乱でビーフシチューを食べていた。
中には大きな肉の塊が2つあったが、気がつけば全部綺麗に食べていた。
綺麗に一皿平らげたマリアは、もう少しおかわりを貰おうと立ち上がり鍋の中を見た。
「え?」
マリアは思わず大声をあげた。
あれだけあった鍋の中身が空っぽになっていたのだ。
「マリアちゃん。お皿。」
エリーがそう言うとマリアに手を伸ばした。
「もうなくなったのか?」
勇児がそう言って笑うと、ローとアランは窓の外に目をやった。とぼけている。
エリーはマリアからお皿を受け取ると、鍋からビーフシチューをすくいなみなみと注いだ。
「マリアちゃん。これくらいでいい?不足?」
エリーは笑顔でマリアに言った。
「は、はい。これで充分です・・。。」
マリアは顔を真っ赤にして答える。
エリーはお皿をマリアに渡すと、勇児とキャサリンに目配せをする。
勇児とキャサリンは軽く手をあげた。2人ともおかわりは済んでいる。
エリーは鍋からビーフシチューをすくい、自分のお皿にに入れると立ち上がり、マリアのテーブルにある空の鍋を自分の椅子に乗せた。
それからビーフシチューの入った方の鍋をマリアのテーブルの上に置いた。
「これでお終いですからね?通告。」
エリーはそう言うと、空の鍋を持ってキッチンに向かった。
アランとローは鍋の中を覗き込むと、互いに顔を合わせ頷いた。
アランは自分のお皿にビーフシチューを注ぎ終えると、今度はローが残ったビーフシチューを自分の皿に入れ、空いた鍋を持ってキッチンに向かう。
「悪いなマリア。うちは大食らいばっかりでな。明日からこっちのテーブルに座るといい。」
勇児はそう言って笑った。
「明日からそうさせてもらいます……。」
マリアは顔を真っ赤にしながら答えた。
『わたしってこんなに食いしん坊だったかしら?でもローさんの洗面器の意味が良くわかるわ・・・。』
顔から火が出るほど恥ずかしいとはこの事だ。
しばらく食事をしていると、エリーとローが一緒に帰ってきた。
「ついでにデザートも持って来ました〰。至福?」
エリーはそう言うと持って来たデザートをテーブルに置く。
それは生クリームとイチゴがたくさん乗ったプルプルのカスタードプリンだった。
一つだけ他の4倍くらいある大きなプリンがあるが、もう何も言うまい。
マリアはそれからゆっくりと食事を楽しんだ。
実においしい夕食であった。
最後には隊員全員が、お皿に残ったビーフシチューをパンでこそぐようにしてまで食べたのだ。
デザートのプリンもよく冷えており、イチゴも新鮮で生クリームと絡んでとても美味しかった。
遺跡発掘でもこんなに素晴らしい食事が出来て、マリアはとても驚き、また、嬉しいとも思った。
遺跡発掘の仕事は思ったより悪くないなと嬉しくなったが、数カ月後、他の隊に行ってそれはマリアの勘違いだと気付かされる事になる。
食後のティータイム中に明日のミーティングが行われたのだが、明日は地下2階の探索がメインになるそうだ。
それに伴い、アランとマリアは「窒素装備」をする事になった。
窒素装備がどんなもので何に使う物かもわからないが、背中に背負わなければならないらしい。
あと、隊長からは探索中にガードマシンが出たら絶対に応戦せず、連絡を入れろと言われた。
勿論、今の自分では太刀打ち出来ない事はわかっているが、このまま戦わなければ、何時まで経っても戦えないままにならないのではないか?と心配になる。
多少の疑問は残るが、あの隊長の事だからちゃんと説明してくれるだろう。
だって、あの方の息子さんなのだから…。
マリアはそう思って納得する事にした。
これはグルメ小説か?
書きながらそう思いました・・・。




