第16話 「もぬけの殻」
遺跡の図面を紛失してしまい、一から書き直していました。
更新が遅れて申し訳ありません。
少しでも早くと思い、いつもと違う更新時間になりましたが、ご容赦くださいませ。
図面の書き直し・・・。
寸法の再計算・・・。
文章書くより疲れました(笑)
勇児を先頭に遺跡発掘隊は広間の先へと進む。
「マリア。歩きながら遺跡の広さを感覚で掴めるようにしろよ。」
勇児は周りを見回しながらマリアに声をかける。
「はい。」 マリアも周りを警戒しながら答えた。
勇児が地下2階でのガードマシンとの戦闘時の体感では、広間の面積は縦16m✕横120mほどだ。
通路の長さは60mほどだから、階段の通路を足すと65m程度。残りが倍あると考えても縦150m✕横120mはあると勇児は予想している。
あとでローの体感と照らし合わせてみるが、ズレはないはずだ。長年の経験でこういった感覚は培ってきた。
剣術や体術においてもこういう感覚が大切である。
相手の攻撃をギリギリでかわす「見切り」という技だ。
この技は距離感を的確に掴んでいないと使いこなせない技で、勇児は今の段階で2cmくらいの見切りが出来るが、八雲や小太郎、源造のレベルになると㍉単位での見切りが出来る。
一見、真逆の感覚だと思うが、実はこの両者は密接な関係にある。
数㍉単位の見切りが出来る人間は、間違いなく遺跡の広さを数㍉から数cmの誤差で掴めるのだ。
逆に言うと遺跡の広さがわからないと、数㍉単位の見切りなど、夢のまた夢の話だ。
勇児は周りを見回しながらそんな事を考えていると、一瞬、ガボラ達の顔が頭に浮かび、次に八雲の顔が浮かんだ。
剣術八雲は才能溢れる天才だと評される。
確かに八雲と自分の才能を比べると、勇児は間違いなく八雲より遥かに下だろう。
現在、勇児が修得している剣術流兵法にしても、勇児より三年以上早く修得しているのだから間違いない。
勇児が12歳の時、八雲と才能の話をした事がある。
八雲は鼻で笑うとこう言った。
「才能、才能と言うが才能とはなんだ?人より早く修得する事が才能か?人より多くの技を修得する事が才能か?修得したいと強く思い、日々、懸命に鍛錬していれば、技などいつか出来るようになる。
それを努力というのだ。
才能と言う言葉にだまされるな。
お前は才能という小難しい言葉に惑わされているだけだ。
才能とは簡単に言えば、ただの得手不得手なのだよ。」
「得手不得手…。」
勇児は考えたがわからない。
「得意な物は伸びやすいから早く覚えるし、次の事を早く覚えられる。
不得手な物ほど伸びにくいから、覚えるのに時間がかかるが、時間をかける分、深く丁寧に覚えられる。
一つの技を覚えるのに時間をかけたほうが、ゆっくりと深い所まで学べると思わないか?
そもそも早く覚える事も大事だが、覚える内容によるのだ。
名工は、素晴らしい作品を短時間で作る事が出来るが、それは時間を短縮出来る所をちゃんと理解しているからだ。
名工は絶対に手の抜けない所は、絶対に抜かない。
かわりに時間短縮出来る所は徹底的に短縮する。
勇児よ。剣術の基本動作はなんだ?」
「『切る』『突く』『捌く』『受ける』『流す』です。」
勇ちゃんは即座に答えた。
「お前なら剣を持った事のない子供に、その5つの基本動作を教えるのにどれくらいかかる?」
「説明だけなら1時間もあれば。」
「そうだな。私もそれくらいあれば教えられるだろう。では、それらを子供が使えるようになるまで、どれくらい時間がかかる?」
「半年もあれば立ち会い稽古が出来るようになるかと。」
「そうだな。身に付くまでに半年はかかるな。ではお前が今、覚えている『一ノ太刀赤 啄』は覚えるのにどれくらいかかりそうだ?」
「わかりません…。」
「なぜわからない?」
「僕には難しいからです。」
「そうだな。お前が基礎を覚え、剣崎流兵法に足をふみいれてから半年。
未だ光明は見えずといった所だろう。
でも、ひょっとしたら明日には出来るようになっているかも知れないし、三年経っても出来ていないかも知れない。
それを決めるのはお前自身なのだよ。
それは基礎を覚えている子供も同じだ。」
「僕自身…。」
「周りの人間は私の事を天才だと言うが、私からすれば馬鹿げた話だ。人を小馬鹿にしているようにしか思えん。
天才と呼ばれて呆けている奴の気が知れん。」
「馬鹿げた話…。」
「私はただ、覚えたのが早かっただけで才能などないのだ。
私は私なりに技を覚えようと精進してきただけだ。
その結果、人よりたくさん剣を握ったから早く覚えた。
別に人より早く覚えたいと思った事もないし、他人の強さなど気にした事もない。
ただひたすら剣を振り、一歩でも技に近付こうとしただけだ。
そんな事を考える余裕もないほど、剣にのめり込んだのだ。」
「まさかそんな…。」
勇児は驚いた。
天才と謳われた父親が天才という言葉を否定したのだ。
周りの大人達から散々、父親の名声を聞かされて育ってきた勇児からすれば、ショックが大きかったのは言うまでもない。
「私は純粋に剣の道を進みたかった。
所帯も持たず、ただただ一人、剣の道を貫き野垂れ死にしてもよいとすら考えた。
お前の母さんに会うまではな…。」
勇児は押し黙ってしまった。言葉がでない。
「そんな私を人間らしくしてくれたのはお前の母さんだ。
母さんがいなければ、お前も生まれてはおらず、私は今も修羅の道を歩んでいただろう。
勇児よ。私は今でも剣の道の求道者なのだよ。
そんな私を天才という薄っぺらい言葉で表現されるのは腹が立つのだ。
今のお前のように、何事も今いる先を求めようとすると、なんらかの代償を払わなければならない。
その時は勇児よ。お前の持つ物は全てくれてやれ。
そこまでやっても、辿り着けない場所はあるのだがな。
それと自分を追い詰めるな。
自分を追い詰めると焦りが出る。焦りは誤りの源になる。
追い詰められた時こそ冷静になれ。冷静になっても判断がつかなかったら足掻くんだ。最後の最後までな。」
普段、無口な八雲が感情を込めて勇児に話をしたのは、これが最初で最後であった。
この時の話がきっかけとなり、勇児は背中に背負わされていた大きな荷物が無くなったような気がして嬉しくなったが、一月ほど経ってから『一ノ太刀赤 啄』を覚えた時、それが間違いではないと勇児は確信した。
勇児達が遺跡の探索をしていると、左側の壁がガラス張りに変わった。
詳しくはわからないが、見た感じだとガラスにはヒビも入っていなければ、割れた形跡もない。
勇児はかなり先までライトを照らしたが、ガラス張りはかなり先まで続いているようだ。
勇児達はガラス越しに部屋の中を覗いてみたが、何もないガランとした、だだっ広い空間が広がっているだけだ。
「何にもないな…。」 アランが呟いた。
「見事なもぬけの殻だな。」 ローも呟く。
「廃棄された研究所か何かなのかしら…。」
キャサリンがそう言うと勇児が言った。
「何か荒らされたという感じはしないな。どちらかと言えば退去したって感じが強くなっていくな。」
「ハズレってことですかね?」 アランが勇児に尋ねる。
「に、しては2階のガードマシンが引っかかるんだよなぁ。
軍事施設ならもっと強固なセキュリティーを張ってるだろうしなぁ。
とはいえ研究施設にしてはセキュリティーがきつい気が…。
経験から言うと、この遺跡全体が中途半端なんだよなぁ…。」
「確かにな…。なんとも言えない違和感があるな。」
ローもどこかに引っかかりを感じているようだ。
「まぁ、今ここで話をしても仕方ないか。帰ってからミーティングだな。気は抜かないでくれよ。
ここで二手に別れよう。ローとアランはガラス沿いにそっちのブロックを探索してくれ。
俺とマリアは右側の壁沿いに、こっちのブロックを探索する。」
勇児達は二手に別れて探索を再開した。
勇児とマリアは壁に沿って一番奥まで辿り着いたが、壁には大小合わせて3つの入り口があった。
壁の中心に巨大なシャッターがあり、その左右15mほど離れた所に人が4人並んで入れるくらいの入り口があったのだ。
入り口にはドアはついていなかった。
勇児とマリアが広間の突き当りにあるエレベーターの前にいくと、すでにローとアランが待っていた。
エレベーターは2基あり、階段側のエレベーターは荷物用なのかかなり大きい。その隣には小さい人用のエレベーターが並んでいる。
「こっちは入り口が3つあった。一つは荷物運搬用のシャッターらしくて閉まっている。
残りの入り口はドアのない入り口だ。そっちはどうだった?」
勇児の報告を聞き、ローが話だした。
「こっちの壁には入り口はない。ガラス張りの壁が続いているだけだ。
ガラスのほうは叩いてみたが、かなりの厚みがあるな。5cm以上は間違いないだろう。
多分、あれはガラスじゃない。透明な樹脂で出来たやつのほうだ。」
「なるほど。それじゃあ右側の部屋から探索するか?」
「そうだな。あっちの部屋はあと回しのほうが良さそうだな。広いが中には何もなかったからな。」
「じゃあそうするか。」
勇児がそう言うと、全員右側の部屋に向かった。
勇児は右側の部屋の奥の入り口から中に入ると、天井に向かって照明弾を撃った。
「なんだ?」 勇児がおかしな声をあげた。
ローが慌てて天井を見上げると、天井全面が何やら青っぽく塗られている。
湿気でカビが発生して変色でもしたのかと思ったが、それならばこの階全体がカビ臭くなるはずだし、当然、2階もカビ臭くなるはずだ。
これは勇児、ロー、キャサリンの3人は理解している。
今日のミーティングでも話題にあがるはずだが、この遺跡は何らかの方法で空気が循環されているのだ。
しかも地下である以上、室温は外に比べて低い。温度が低いと当然湿気が上がり、カビが発生しやすくなる。
にも関わらず壁にも床にもカビは生えていない。
と言う事は何らかの方法で湿気も除去しているはずだ。
「青く塗られているんだな。」
勇児は天井を見上げながら言った。
明るい照明に照らされた部屋の中には、壁に沿っていくつもの部屋が上下2段に並び、角部屋の横には階段が設置されている。
「キャサリン。これも全部寮だと思うか?」 勇児が尋ねる。
「大きさから推測して一人用の居住スペースみたいね。というより、このブロック全体が生活スペースなんじゃないかしら?」
キャサリンは自信なさげだ。
部屋の前には3mほどの幅がある通路があり、部屋の中心から通路の前まではフリースペースになっている。
床には埃が積もってわかりにくいが、緑色の芝のようなものが敷きつめられており、入り口側には10セットほどのベンチと長いテーブルが綺麗に並んでいる。
勇児達は部屋の真ん中に向かうと、ぐるりと周りを見回す。
広間側の壁にある大きなシャッターの左右に大きな建物があり、なんだろうと思った勇児が右側の建物をよく見ると、建物の前面に遠目でもわかるほど大きくて長いカウンターのようなものが見えた。
どうやら長椅子とベンチのセットは、カウンターの前辺りを中心に置いてあるようだ。
「ロー。右側の建物。あれはカウンターか?」
勇児に言われたローが目を細めて建物を見る。
勇児も視力はいいが、獣人種であるローも視力は良い。
「カウンターだな。」
ローの返事を聞き、勇児が言った。
「あの右側の建物は調理場じゃないか?」
「調理場?」 アランが素っ頓狂な声をあげる。
「あそこのカウンターで食事を受取って、テーブルに座って食ってたんじゃないか?」
「なぜそう思う?」 ローが勇児に尋ねる。
「地下で生活してたんなら、せめて飯くらい開放感のある所で食いたくないか?」
勇児はそう言うと話を続けた。
「あのシャッターを開けて、エレベーターで運んできた食材を搬入していたとしたらどうだ?
ここの片方のエレベーターはでかいから、あのシャッターの幅くらいはあるぜ。」
「じゃあ、左側の建物は何でしょう?」
マリアが質問する。
「なんだろうな?まぁ、今のはあくまで推測だ。
蓋を開けなきゃ中身はわからんしな。
探索のほうだが、エレベーター側の部屋から始めよう。
Aチームは壁沿いの下の部屋を。Bチームは上の部屋を端から探索開始だ。」
勇児とマリアは2階の部屋へ行くために階段へと向かった。
ローとアランは1階の部屋へと向かう。
勇児は階段に足をかけると、一歩づつゆっくりと上がっていく。マリアがその後をゆっくりとついていく。
階段を登りきると勇児はマリアに言った。
「マリア。俺が合図をだしたらかドアを開けてくれ。開ける時はドアの陰に隠れたまま開けるんだ。空いたら俺が突貫する。」
「わかりました。」
マリアはそう言うとドアの前に立ち、ドアノブに手をかけた。
勇児がスッと右手をあげると、マリアが体ごとドアを引いた。
勇児はすかさず部屋の中に飛び込む。
しばらくすると勇児の声がした。
「入っていいぞ。」
マリアが部屋の中に入ると、部屋の中は照明に照らされていて鮮明に見えた。
部屋の中は二間に別れており、手前の部屋にはテーブルとボロボロになったソファーの残骸が2つ、部屋の隅に追いやられている。
埃の積もった床には家具が置いてあった痕がいくつか見えたが、床には埃と勇児の足跡以外、何も落ちてはいない。
マリアは奥の部屋に進んだ。
このフロアの入り口に並んでいた部屋は1部屋しか無かったが、この部屋は2部屋あるようだ。
奥の部屋の中心辺りで勇児が部屋の中を見回している。
この部屋は寝室らしく、備え付けのベッドに机と椅子。壁には備え付けのクローゼットと棚があるが、全て空っぽだ。
「トイレとキッチンがないな。」
勇児がマイクに向かって話すと返事がきた。
「こっちも同じだ。」 ローの声であった。
「とりあえず全部の部屋を見て回るか。終わったらシャッターの前に集合だ。」
「わかった。」 ローが短く返事をする。
勇児とマリア45分もかからないうちに、全ての2階のへの探索を終えるとシャッター前に向かった。
2人で40部屋近く捜索したがどの部屋も同じ状態で、何一つ出てこなかったので早く終わったのだ。
勇児達がシャッターの前に着くと、ローとアランは先に着いていた。
「何か見つかったか?」
勇児はローに近づきながら話かけた。
ローは静かに首を振る。
「Aチームは左側の建物を、Bチームは右側の建物を頼む。」
「わかった。」
ローはそう言うと、アランと2人で左側の建物に向かう。
勇児とマリアは右側の建物に向かった。
建物の前面には長いカウンターが付いており、まるでルーン王国によくある、オープンカフェのような佇まいだ。
勇児は建物の回りをぐるりと回ると、右側の壁にドアを見つけた。
勇児がドアノブを回すと、ドアノブはゆっくりと回った。
勇児はそのまま部屋の中にはいると天井に照明弾を撃つ。
明るく照らされた部屋の中心には、金属の台がいくつか置かれており、銀色の鈍い光沢を放っている。
壁際には水回りの設備やいくつかの棚が並んでいるが、こちらも同じく銀色の光沢を放っていた。
埃をかぶった大きなコンロがいくつも並んでいる所を見ると、どうやら調理場であることは間違いなさそうだ。
部屋の奥の壁には両開きの大きなドアが見える。
「どうやら調理場だな。」
勇児がそう言うとキャサリンの声がイヤフォンから聞こえた。
「そうね。」
「こっちはトイレとシャワー室だな。」
ローの声がイヤフォンから飛び込んできた。
「キャサリンの言う通り、ここは生活スペースのようだな。
とりあえず捜索を続けてくれ。終わったらシャッター前に集合だ。」
勇児はそう言って通信を切ると、部屋の奥にある扉の前に立つと扉を開けた。
扉の向こうは小部屋になっており、勇児の正面には大きなシャッターがある。荷物の搬入口だろう。
小部屋の中には何枚かの運搬用のパレットが積まれているが、みんなボロボロだ。
壁際に階段を見つけた勇児は、躊躇なく階段を上がり始めた。
慌ててマリアが付いていく。
階段を上がるとドアをあけて中に入る。
中には机や椅子、棚などが散乱しているが、紙切れ1枚見当たらない。
勇児とマリアは散乱した椅子や机を動かしてみたが、何一つ出てこなかった。
勇児とマリアは建物を出て、集合場所に向かった。
集合場所で待っていると、10分ほどしてローとアランがやって来た。
「どうだった?」 勇児がローに声をかけた。
「何にもない。」 ローが答える。
「こっちもだ。」 勇児も短く答えた。
「とりあえず反対側の手前のブロックを探索するか?」
ローの言葉に勇児も同意する。
「そうだな。奥の2ブロックはあとで二手に別れたほうが早く済みそうだしな。キャサリンはどう思う?」
「そうね。その方が効率は良さそうね。」
「決まりだ。行くぞ。」
勇児はそう言うと広間に向かって歩き出した。
ロー達も勇児の後をついていく。
勇児達は隣のブロックに辿り着くと驚いた。
さっきまでいたブロックと同じ光景がそこにあったからだ。
2ブロック目の探索を終えた勇児達は、軽い休憩をとった後、二手に分かれて奥の2ブロックの探索に当ったが、結果は同じだった。紙切れ1枚ですら見つからなかったのだ。
時計を見ると時間は17:35。
勇児達は荷物をまとめると、遺跡から出て外の空気を吸った。
新鮮な空気が肺の隅々にまで浸透していく。
心地よい呼吸をしながらながら勇児は思った。
『今日の夕食はなんだろうな?』
調理場を見たせいだろうか。
妙にお腹が空いているのが自覚出来た。
我ながら凄い食い気だなと思った。
今まで投稿した話を読み返すと、おかしな文章や説明不足が目に余るほどありました。
ですので改ざんをしました。(笑)
素人のよくあるミスとお笑いください。
改ざんが無くなったら、私が私の書き方を確立させたのだと思って頂くと、大変ありがたいです。
よろしくお願いします。




