第15話 「地下1階の探索」
なんとか間に合いました。
昼の休憩時間を終え、勇児達は遺跡の前でミーティングを行った。
「昼からの作業だが、2チームに別れて行動することにする。Aチームはローとアラン。Bチームは俺とマリアだ。」
「で、どこから手をつける?」 ローが勇児に尋ねた。
「考えたんだが、まずは地下1階から探索しようと思う。さっきキャサリンとも話したんだが、1階、2階のフロアは共通して広間を中心として4つのブロックに分かれている。
それと広間には2基のエレベーターがある事がフライングボールの調査でわかっていたんだが、何せ遺跡のエレベーターだ。
まともに動くかどうかもわからんし、動いたとしてもなぁ?てことでエレベーターの調査は後回しにする。ここまではいいか?」
隊員達は黙って頷く。
「でだ。さっき2階のガードマシンを撃破しただろ?キャサリンに頼んで、過去のデータと照らし合わせた上で検討した結果、ガードマシンの台数と建物の構造から考えると、2階にはもうガードマシンはないと判断した。
そこで2階の残りの2ブロックは後回しにして、先に一階の4ブロックを全員で回り、安全が確保出来てから2チームに別れて探索しようと思う。
時間的に見ても、今日はそれが終われば何時だろうと作業終了。明日は2階の残りの2ブロックの探索から始める。これでどうだ?」
「異存はない。」
ローがそう言うと、アランとマリアも無言のまま頷く。
「あ、それとな。仏さんは明日まで今の場所に安置することにする。明日の朝、ヘサーム氏に伝えて引き取ってもらう。てことでミーティングは終わり!作業を続けるぞ。」
勇児はそう言うとリュックを背負い始める。他の隊員達もリュックを背負うと遺跡の入口に向かい、ハシゴを遺跡の穴の中に降ろすと、勇児を先頭にしてハシゴを降り始めた。
勇児達は遺跡に入ると、地下1階の通路の途中にあるドアへと向かった。
ドアは縦3m横2mはある金属製の扉が左右にある2枚扉になっている。見るからに重厚な造りだ。
勇児はドアの前に立つと、左右の扉に付いている取っ手を持ち、押したり引っ張ったりしたが、ドアは固く閉ざされたままだ。
「壊すしかないか。」
勇児はそう言うとドアの前から離れた。代わりにローがドアの前に立つと勇児の顔を見ながら
「いいのか?」
と勇児に尋ねた。
「やっちゃえ。いけるだろ?」
勇児はにべもなく答える。
「壊すのは得意だ。」
ローはそう言って扉の取っ手に手を掛けると、ドアを手前に引いた。
ベキ!ベキベキベキ!
ドアは大きな音をたてて蝶番の所からもぎ取れてしまった。
壁からパラバラと壁材が落ちていき、床から粉塵が舞い上がる中、ローはただ立ち尽くしているだけだ。
アランとマリアはあんぐりと口を開け、目の前で起こった珍事をただただ眺めていた。
ローは重くて大きなドアを2本の腕で支えながら、勇児の顔を見た。
勇児は口元を両手で隠し、体を軽く上下させながら声を殺して笑っている。
「やったな?」
ローは勇児の顔を見ながら、わずかに口角を上げた。ローは持っていたドアを壁に立て掛けるとパンパンと手を払った。
勇児が最初にドアを調べた時、勇児は開けられるなと思ったのだがわざと開かないふりをしたのだ。
勇児が無理なら俺がやってみるか。そう思ったローはドアの前に立ち、ドアを引っ張るのだが、勇児が無理だった事が頭にあったため、少し力を入れて引っ張った。
ところがドアは思いのほか引っ張ることができ、蝶番からもぎ取れてしまったのだ。
「ごめんごめん。どっちみちドアは撤去するつもりだったんだ。どうせ後で外して溶かされるんだ。今のうちに外しておけば楽だし、風通しも良くなるだろ?つかこれ重いぞ?誰が外まで運んだろうな。」
勇児がそう言うとローはやれやれといったジェスチャーをした。
アランとマリアは2人を呆然と見ていたが、アランが突然立て掛けられたドアの前に行き、ドアを一枚持ち上げでみた。
「ほんとだ・・・メチャクチャ重い・・・。」
ドアはなんとか持ち上がってはいるが、せいぜい2、3cmだ。
「ローの大将はこんなに重いのを軽々と持ち上げるんだもんな。すげぇな。」
「マリア。このドアを剣技でバラバラに出来るか?」
「出来ません。」 マリアは即答した。
「そうか。ローに頑張ってもらったし、今度は俺の番だな。」
勇児はそう言うとドアの前2mの位置に立ち、足幅を広げるとゆっくりと腰を落とした。
右手で海彦の柄を握り左手で鞘を握ると、勇児は涼しい目でドアを見据える。
カチッ
勇児が左手の親指で海彦の鯉口を切った音が聞こえると同時に、勇児が海彦を振り抜く。
時間にして2秒足らず。
勇児は目にも止まらぬ速さでドアを切り続けた。
ドアを切り終えた勇児は海彦を1振りしてから、ゆっくりと海彦を鞘に収めると、重なって置かれた2枚のドアは10cmくらいに細かく切断され、バラバラと音をたてて崩れていく。
マリアは目を見開いた。
勇児の抜き手どころか剣筋すら捕捉出来なかったのだ。
『まだ見えないのか…。』マリアはそう思うと落ち込んだ。
対してアランは朧気ではあるが、剣筋だけはなんとなく見えていた。優れた動体視力のおかげだろう。
「これで運びやすくなっただろ?」
勇児はそう言って笑った。
「今のが居合術ですか?抜刀術ですか?」
マリアは恐る恐る勇児に聞いた。
「よく知ってるな!居合術と言うか抜刀術というか…。まぁ、大まかに言えば抜刀術になるな。居合術と抜刀術は線引きが難しくてな。
今のは剣崎流兵法剣技 『ニノ太刀白 山猫』と言ってな。実戦じゃあほとんど出番がない技だ。白で実戦に使えるのは『三ノ太刀 虎』からだな。 」
勇児は頭を掻きながら答える。
「素晴らしい剣技を見せて頂き、ありがとうございました。良い勉強になりました。」
マリアはそう言うと頭を下げた。
「ユウの剣技は勉強にはならんぞ。なんせ使える人間がほとんどいないからな。」
ローがそう言うとマリアが言った。
「そんな事はありません。見せて貰えただけで勉強になります。私は私のやり方で自分の剣を作ります。」
その眼差しは真剣そのものだ。
「全部、恩人からの受け売りですけど。」
マリアはそう言うと笑った。
「『見てわからん奴は聞いてもわからん。』って言葉もあるし、見て学ぶって事は重要ではあるな。さぁ、お勉強はここまでだ。仕事に戻るとしょう。」
勇児はそう言うと扉のあった場所に立つ。
勇児は目の前の通路に目を向けた。
地下1階の構造は地下2階とそっくりではあったが、決定的な違いが一つあった。
両側の壁には4mほどの間隔で閉じられたドアが並んでいる。
「数が多いな。」
勇児はそう呟くと歩きだし、一番近いドアの前で立ち止まった。
ドアの前には埃まみれのプレートが貼り付けてある。
勇児は右手でプレートを撫でた。プレートから埃が落ちたが埃は取り切れない。
勇児は何度もプレートをこすり埃を払う。見る見るうちにプレートから埃がパラパラと落ちていき、徐々にその姿を現していく。
プレートには何も書かれていなかった。
過去に見つかった遺跡には、こういうプレートには「会議室」
「資料室」などと書かれていることが多い。
何も書いていないというのは、どちらかといえば珍しいほうだ。
「キャサリン。なんの部屋だと思う?開けたほうが早いか?」
勇児がキャサリンに問いかける。
「ドアの数はどれくらいあるの?」
「ざっと計算してみても片側だけで10はあるだろうな。」
廊下の先に目を向けながら勇児が答える。
「それ、ワンルームの寮じゃない?」
「誰かが住んでたってことか?この部屋の数だけ?」
「地下2階は研究施設の可能性が極めて高いでしょ?ガードマシンまで配備してるんだから、よっぽど機密性の高い研究をしていたと思うの。
そんな研究をしているのなら、情報漏洩も考えるとここが研究者の寮だとしてもおかしくないわね。」
たかがドア一枚開けるのに、ここまで時間をかけているのには意味がある。
安全確保の為だ。
200年以上昔、今回のように壁にたくさんのドアがついた遺跡が大和王国で発見された事がある。
遺跡の名は通称「渓谷の要塞」
当時の大和王国の遺跡発掘隊は普通にドアを開けていったのだが、それがまずかった。
ドアの何枚かがトラップになっており、多数の死傷者が出たのだ。
いわゆるブービートラップである。
後日調べた結果、そこは軍事施設であり、施設中にトラップが仕掛けられていたのだ。
この発掘で五代目剣崎流兵法頭首であった「剣崎造酒」が行方不明になると言う悲劇が起こったのだ。
当時の頭首は六代目「剣崎友也」であり、剣崎造酒も高齢であったため後継者問題は起こらなかったが、この悲劇が剣崎家に暗い影を落としたのは紛れもない事実である。
捜索隊も出せない状況のため、大和王国は断腸の思いでこの遺跡を放棄。
遺跡は出入り口を厳重に封印され、200年以上経った今もなお、手付かずのまま眠っている。
噂では世界をひっくり返すような兵器が埋まっていると言われているが、地元民はおろか墓荒らしですら近づかない。
こう言った事例があるため、ドア一枚開けるのにも慎重になるのである。
「とりあえず先に進んでみる。扉が空いている所があるかも知れない。」
「そうね。そのほうがいいかも。」
勇児はキャサリンの返事を聞くと、通路を歩き始めた。アランが照明弾を等間隔で天井に撃っていく。
しばらく歩いていると、ドアの空いている部屋が連続して現れた。勇児はドアの空いた部屋を覗き込む。
部屋は8畳ほどの広さで、中には備え付けのベッドとクローゼット。それに机と椅子があったが、クローゼットは開け放たれ、椅子は倒れており、机の引き出しは床の上に散乱している。
「キャサリンの言う通りだったな。それにしてもこの荒れようはなんだ?賊でも入ったか?ロー、アランと2人で他の部屋を見てきてくれ。見終わった部屋の扉は全開にしておいてな。マリアは俺と一緒に。」
勇児はそう言うと部屋の中をもう一度見回した。部屋の中には家具以外、何一つ落ちていない。
ローとアランは連れ立って次の部屋を見た。先程の部屋と同じ状態だ。
「ユウ。こっちも同じだ。家具以外何もない。」
ローの報告を受け、勇児が呟いた。
「ひょっとして他に入口があるのか?もしくは地上に上がる階段から発掘品を運びだし、入口を塞いだのか…。」
勇児の呟きを聞いたキャサリンが言った。
「考えられる話だけど、それだといくつかの疑問が残るわね。
まずはなぜ一階にしか侵入しなかったか。2階には侵入した形跡はないし、ガードマシンがいたものね。
次に部屋の家具が置きっぱなしなのもおかしいわ。たとえ小さな入口であっても広げることは可能だし、家具にも金属は使っているのだからお金にもなるしね。」
「確かにそうだな。早急に判断するのはやめよう。情報を集めてからだな。」
「そうね。慎重に進めて行きましょう。」
勇児は通信が切れるとマリアと共に部屋を出て、扉を全開にすると他の部屋へ向かった。
「この部屋も一緒だ。」 ローから通信が入る。
「一旦、合流しなおそう。通路で待機してる。」
勇児がそう言うと
「わかった。」 ローがそう言うと通信が切れた。
勇児とマリアが通路で待機していると、前方の部屋からローとアランが出てきた。
勇児とマリアがロー達のいる方に向かうと
「ここもだ。」 ローが短く言った。
「とりあえず進もう。アラン。照明弾は足りてるか?」
「この階くらいなら大丈夫だと思いますよ。」
「そうか。じゃあ行くか。」
勇児はそう言うと先頭に立って歩きだした。
「ここにもガードマシンがいたらどうします?」
アランが物騒な事を口にする。
「その時はお前が先頭だ。」
ローが冷たく言った。
「あれ?大将は俺を殺す気なのか?隊長!助けてください!」
アランは勇児に泣きついた。
「ロー。あんまりいじめるなよ。」
勇児はそう言って笑った。
しばらく歩くと広間が視界に入ってきた。
勇児が左の壁にある最後のドアの前に立つと、ローは右側のドアの前に立つと、マリアとアランはそれぞれのパートナーに付いた。
どちらのドアも開いており、勇児とローが部屋の中に入る。どちらも他の部屋と同じ状態だ。
勇児とローは部屋から顔を出すと勇児が言った。
「マリアとアランはその場で待機。俺とローが先行する。」
勇児とローは顔を見合わせると呼吸を合わした。呼吸が合ってから3回目に息を吸い込むと、2人は広間の中央に向かって走りだした。
広間の中央に着いた2人は、すぐさま戦闘態勢を取る。とはいえ勇児は抜刀していない。
ヘルメットで見えないが、ローは聞き耳をたてているようだ。
しばらくすると2人は戦闘態勢を解いた。
「マリア、アラン。こっちに来てもいいぞ。」
勇児からの通信を聞き、2人は勇児の元へと走る。
アランが照明弾を撃ち、広間が光に照らされていく。やはり2階と同じような造りになっている。
「ゴキブリが出てくるかも知れんな。」
ガランとした広間に目を配りながらローが言った。その途端、マリアが体をビクッとさせた。
「マリアちゃんはゴキブリが嫌い?」 アランがおどけながら言う。
「好きな人っています?」 マリアは憮然と答える。
「ひょっとしたら幽霊なんかもいるかもよ〜。」
アランは完全に悪のりしている。
「幽霊は怖くありません。もしも出てきたとしても、私が祈りを捧げて天国に導きます。」
マリアは力強く言い放った。
「幽霊ってのはいるらしいな。」
勇児がぼそっと呟いた。
「隊長は幽霊を信じるんですか?以外だなぁ。」
アランが驚いた声を出した。
「俺は見たことないんだがな。知り合いに祓い屋と言うか退治屋と言うか、そういう生業をしている人がいてな。」
「護か?」 ローがそう言うと勇児は言った。
「あぁ。護の忠告は気味が悪いくらい当たるんでな…。」
「じゃあ、その人には見えるんですね。」
マリアは感心するように言った。
「らしいな。俺はそういうのはまるっきりわかんねぇけどな。 護から言わせれば、見えない人は全然見えないらしいが、見える人にははっきり見えるらしくてな。
遠目だと区別がつかない時があるらしいぞ。マリアは見えるのか?」
マリアは首を横に振った。
「私には見えません。高位の方々の中には見える方もおられるそうですが、私に見えないのは信仰心が足りないからでしょうか?」
「いや、信仰心は関係ないらしいぞ。どちらかと言えば体質らしいな。」
「そうなんですか。」 マリアはそう言うと少し安心したようだ。
「さ、仕事仕事。ここには幽霊より怖いのがいるかも知れないしな。さっさと終わらして帰ろうや。とりあえず階段側のブロックから行くか?」
勇児はそう言うと階段のある方の広間を指差した。
「そうだな。」 ローが短く答える。
「ここはさすがに広いな。照明弾を撃ちながらゆっくりと見て回るしかないんだが、照明弾の数も気になる。
アラン。照明弾は必要最低限に抑えてくれ。照明の足りない所は後で撃とう。無駄撃ちも減るし経費も抑えられるしな。」
勇児はそう言って笑った。
お知らせです。
創世のファンタジア外伝
「Loon's 俺達のかあちゃん」
を執筆開始しました。
主人公は5人の子供達です。
本編とリンクしておりますので、よろしければお目通しをお願いします。
不定期で短編になりますが、よろしくお願いします。




