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第14話 「チームワーク」

いよいよ戦闘の始まりです。

 勇児が右手を下げると同時にローが通路に飛び出すと、ローは通路の床を蹴った。

 恐るべき跳躍力で前に跳んだローは、勇児がいるドアの前を軽々と飛び越えると重心を低く落とし、前傾姿勢で一気に駆け出した。

 勇児はすぐさま駆け出しローの後を追う。


 ローは広間の中心まで到達すると、動きを止めて耳を澄ます。その間に勇児がローに追いつき、ローと背中合わせになった。


 「来るぞ!4方向だ!」


 ローがそう言うと、アランはスコープを覗き込みながら息を飲んだ。


 シャーシャーシャーシャーシャーシャーシャー


 ガードマシンが軽快な音と共に4方向から4台づつ、ローと勇児めがけて走ってくる。

 ガードマシンは勇児達を取り囲むように円形に展開しすると、勇児達から2m程の距離をとった。


 ガードマシンは鏡餅のように3段になった丸いボディの背中に、四角い箱を背負ったような形をしており、ボディの下には4方向に分かれた足が付いている。

 足の先にはローラーが取り付けられており、360度移動出来るようだ。

 ボディの一番上の段には銃身バレルが付いており、真ん中の段にはスピーカーらしき物と、赤く光るセンサーらしき物が確認出来る。


 勇児達を取り囲んだ16台のガードマシンのうち、1体から声がした。


 『只今、特別警戒警報発令中。このフロアは現在、完全閉鎖中です。速やかにIDカードを提示してこの場所から退去してください。。また、IDカードの提示がない場合は不法侵入者とみなし、攻撃を開始します。』


 「16台か。ロー。IDカードってのは持ってるか?」


 勇児は笑いながらローに聞いた。


 「IDカード?なんだそりゃ?そんな酒あったか?」


 ローはそう言いながら両足の踵をあげ、猫足立ちの体制をとる。


 『繰り返します。只今、特別警戒警報発令中。このフロアは現在、完全閉鎖中です。速やかにIDカードを提示してこの場所から退去してください。。また、IDカードの提示がない場合は不法侵入者とみなし、攻撃を開始します。』


 「こいつら俺達を不審者だとか攻撃するとか言ってるぞ。物騒だな。」


 勇児もそう言いながら歩幅を確保しつつ、いつでも動ける体制をとる。


 「話し合いは出来そうにないな。そもそも俺達は不審者だしな!」


 ローのその言葉が合図になった。

 2人はガードマシンを軽々と飛び越えると、後ろも見ずにジグザグに走り出した。

 その人間離れしたスピードはあまりにも早く、目で追いかけるのがやっとだ。


 タン!タン!タン!タン!


 矢継ぎ早に銃声が4つ響くと同時に、4台のガードマシンがボディの2段目を撃ち抜かれ、活動を停止した。

 一瞬の間に素早く4台のガードマシンを仕留めたアランの腕前は驚愕に値するものだろう。


 「あと12!」


 アランの声がイヤフォンに響く。


 残った12台のガードマシンが、二手に別れて勇児とローを追う。

 勇児とローは常に動き回り、一瞬たりとも止まることもなければ同じ場所にいない。

 そのスピードは最初よりも早く、もはや目で補足出来るようなものではなかった。


 その証拠にガードマシンは2人を追いかけながら、銃身を小刻みに動かしてはいるものの、弾を発射するまでには至っていない。

 マシンが躊躇している。2人の動きを捉えきれていないのだ。


 勇児の10mほど先に壁が見えてきた。

 勇児は一瞬振り返り、ガードマシンとの距離を測る。


 壁際に追い詰められた勇児は、走りながら迷わず左腰に携えた名刀『海彦』に手をかけると急停止し、振り返りざまに腰を回転させ、海彦を下段から大きな円を描くようにすくい上げると、手の中で海彦を90度回し、腰を大きく左にひねり、そこから腰を回転させ床めがけて左から一文字に刀を振り抜いた。


 ブォン!

 

 いくつかの()()()()重厚な音と共に床に3本の亀裂が走り、()()()()()()()()床が埃と床を巻き上げ、巻き上がった粉塵で一気に視界が悪くなった。

 勇児はそんな事はお構いなしで粉塵の中に突っ込んでいく。


 振り抜いた刀の先を走っていた3台のガードマシンは一瞬、そのボディを震わせたが走り続ける。

 粉塵に突っ込んだ真ん中のガードマシンと勇児がすれ違うが、ガードマシンは動きを止めない。いや、止まらない。

 粉塵の中から出てきた3台のガードマシンは、ボディの真ん中辺りで縦真っ二つに切断されていたのだ。


 走りながらボディを真っ二つにされたガードマシンは、左右に大きくわかれると壁にぶつかって止まった。


 「一ノ太刀赤(いちのたちせき) (ついばみ)


 刀を振り抜く時に強烈な腰の回転を加え、3回の振りを一度にしか見えないスピードで振り抜くことで発生する真空波により、対象を切断するこの技は、一ノ太刀と言う名の通り剣崎流兵法における最も初歩の剣技である。


 「あと9つ!」


 勇児はそう言いながらジグザグに移動しながら疾走し続ける。


 勇児はこの暗闇の中、ゴーグルだけを頼りに一瞬振り返ることでガードマシンの位置を把握し、攻撃しやすい3台に目星をつけ、一瞬で3台のガードマシンに致命傷を与えたのだ。さらに粉塵を上げる事で残りのガードマシンの目を潰したのだから、ガードマシンのセンサーに捕捉されない身体能力はもちろん、恐るべき状況判断と対応力と言えた。


 「あと7つだ。」


 ローの声がイヤフォンに響いた。


 ローはローで壁際が見えた時、壁にドロップキックをするように壁を蹴り、そのまま追いかけてきたガードマシンを迎撃。 

 両手を振り下ろしてガードマシン2台を上から床に叩きつけるようにぶん殴ると、ガードマシンをぺしゃんこにしながら床ごと潰して粉塵を巻き上げた。

 ぶん殴った瞬間、その反動でローは足を持ち上げ、重心を前に移動させる事で体を前に一回転させると、猫のように床の上を転がりながら体勢を立て直し、再び疾走し始めたのだ。

 攻撃がそのまま移動に繋がる、見事な力線の使い方である。


 そんな難易度の高い事を、ローもゴーグル一つで勇児と同様の事をやってのけるのだから、人間離れしているとしか言いようがない。


 この3人の行動を真似しようとしてもかなり難しいであろう。

 まず最初に「円形に囲まれる。」というアドバンテージを背負いながら、互いに正面のガードマシンを飛び越える事で、そのアドバンテージを跳ね返したのはいい。


 その間隙をつき、アランが4台のガードマシンを破壊した事で敵の戦力の1/4を削れたのもかなり大きい。


 二手に別れてガードマシン分散させる事に成功はするが、代償として「ガードマシンに背中を見せる。」という、新たなアドバンテージを背負う事になる。


 そこで2人は正面の壁に向かって走り出すと言う、一見、自らにアドバンテージを課すような行動に出る。

 敵に背中を見せた状態で、「自ら壁際に追い込まれにいく。」というアドバンテージを新たに背負うのだから当然と言えば当然であろう。


 しかし2人は壁際に追い込まれる寸前に、ガードマシンの数を減らし、今度は反対側の壁を目指すことで、勇児はローを追いかけているガードマシンに、ローは勇児を追いかけているガードマシンに標的を変更することにより、「相手に背中を見せた状態で攻撃しなければならない。」という、アドバンテージを跳ね返したのだ。


 しかも、今度は追われている状況ではあるが狙うべき敵は、放っておいてもこちらに来てくれるのだから、勇児もローも迎撃は簡単である。


 まぁ、それもこれも勇児とローの飛び抜けた身体能力と、アランの高い射撃能力があってこそではあるが、3人のチームワークの良さがなければ難しかっただろう。

 


 「アラン。出番だ。」


 ローがそう言うとアランは


 「了解!」


 と言ってスコープを覗き込んだ。


 スコープには右から疾走してくるローが一瞬映るとすぐに消え、その後に疾走するガードマシンの姿が映った。


 タン!タン! 2発の小さな銃声が響く。標的になった2台のガードマシンは失速し始めると、しばらくしてその動きを止めた。

 恐るべき動体視力と反射神経である。


 「あと5つ!」


 アランがそう言うと、勇児が言った。


 「アラン。ライフル仕舞っていいぞ。」


 「りょーかーい。」


 アランはそう言うとライフルを仕舞いだした。


 「いけるか?」


 「余裕だな。」


 勇児とローはすれ違いざまにそう言うと、勇児が言った。


 「んじゃお先に!」


 そう言って笑う勇児の視界に前方から2台のガードマシンが飛び込んできた。

 勇児は左のガードマシンに向かって、右腰に携えた名刀「山彦」を振り抜くと、次に右のガードマシンに向かって海彦を振り抜いた。


 勇児は立ち止まり海彦と山彦を鞘に収める。

 2台のガードマシンは止まる事なく、そのボディに袈裟がけに線が走る。

 やがてボディはズレ始め、完全に分かれたボディは互いにもたれ掛かるように進み、しばらくして止まると2つづつに割れた。

 

 ちなみにこの剣技は(ついばみ)ではない。一回の振り抜きにより発生した真空波による「斬撃」と言う技だ。

 この技は剣技の初歩の技であり、遺跡発掘員クラスならば誰でも使える技だが、硬い金属を切れるようになるには、かなりの技量が求められる。


 「あと3つ!」


 「すぐ終わる。」


 ローはそう言うと、視界に入ってきた3台のガードマシンのうち、一番右にいたガードマシンに飛びかかり、両足で踏んづけた。

 踏みつけられたガードマシンはぺしゃんこになりながら床にめり込み、へこんだ床から粉塵が舞い上がる。 


 ローは目にも止まらぬスピードで、2台のガードマシンに向かって飛び込むと、2台のガードマシンの銃身を鷲掴みにしたまま、頭を起点として一回転したあと膝をついた。 

 立ち上がったローは、銃身を下に向けた状態で2台のガードマシンの銃身を握リ潰すと、ガードマシンをポイっと無造作に後ろに放り投げた。


 放り投げられた2台のガードマシンは態勢を立て直し、銃身をローに向ける。

 ローはそんなことはお構いなしで、ゆっくりと広間の真ん中へ向かって歩く。


 ボボン!


 ローの後ろで小さな爆発音が2つ立て続けにしたかと思うと、2台のガードマシンから煙が上がった。ガードマシンはピクリとも動かない。

 ガードマシンがローに向けて発射した弾が、握り潰された銃身に当たり内部爆発を起こしたのだ。


 「こっちも終わった。」 


 ローの報告を受け、勇児はマイクに向かって言った。


 「全員広間に集合だ。広間の探索が終わったら仏さんを回収するぞ。」


 「行こうかマリアちゃん。」


 アランはライフルを片付け終わると、マリアに声をかけた。


 「はい。」


 マリアはそう言うとアランの後ろに付いていく。


 勇児は天井に照明弾を撃ち終えると、ローに向かって言った。


 「さて、ここに仏さんが3人。これで全員見つかったな。しかしなんだこれ?ゴキブリにしちゃあデカイな。」


 勇児はマスクを外し、足元に転がっていたゴキブリの死骸を片手で持ち上げると、驚いた顔を見せた。


 「ゴキブリもここまでデカイと虫じゃ済まされないな。人間くらい襲いそうだ。」


 ローもマスクを外しながら、ゴキブリをまじまじと見つめ言った。


 「な?何食ったらこれだけデカくなるんだろうな?」


 勇児とローがそんな話をしていると、ライフルを肩にかけたアランとマリアが広間に来た。


 「な、何なんですかそれ!」


 マリアが悲鳴に近い声をあげた。


 「ん、これか?」


 勇児はゴキブリを持った手を掲げた。


 「なんでそんなもの持ってるんですか。」


 マリアは泣きそうな声で言った。


 「なんでって、こいつらの掃除もしなきゃならんからな。」


 勇児がそう言うと、マリアは絶句した。

 マスクで顔は見えないが、多分、顔は引きつっているのだろう。


 「まずは仏さんを運び出す。ローと俺が1体づつ運ぶ。アランとマリアで1体だ。」


 勇児がそう言うと、ローは遺体を一通り確認し、最も損傷の激しい遺体を選び担ぎ上げた。


 続いて勇児も損傷の激しいほうの遺体を担ぎ上げると、通路に向かって歩きだした。


 アランとマリアは協力して遺体を運ぶと、4つの遺体を並べた。


 遺体を前に、マリアは胸元で十字を切ると祈りを捧げると、勇児達は遺体の損傷部分の処理を始めた。


 「遺体はどうする?」


 ローの質問に勇児が答えた。


 「外に出したらこの気温だ、すぐに傷むだろう。とはいえここに置いていてもゴキ共の餌にもなりかねん…。エリー。悪いが死体袋ボディバッグを持って来て貰えるか。」


 「すぐ行きます。至急。」 エリーはすぐに答えた。


 「アラン。立て続けで悪いが、もう一度入口まで取りに向かってくれ。」


 「了解!」


 アランはそう言うとライフルを肩にかけたまま走りだした。


 「死体袋ボディバッグが届いたら、遺体を上の階に上げて昼飯にするか?探索は昼からでもいいだろう。」


 勇児がそう言うとローが言った。


 「それなら遺体だけでも上に上げるか?ユウと俺なら2人づつ運べるだろう?」


 「そうだな。ボーっとしてるのもあれだしな。マリア。アランのリュックを背負ってくれ。荷物を置きっぱなしには出来んからな。」


 「わかりました。」


 マリアはそう言うとアランのリュックを背負い、鞄を手に持った。

 勇児とローはリュックを背負うと、遺体を両肩に担いで歩き始めた。

 勇児は自分の後ろにマリアをつけると、ローがマリアの後ろについた。


 勇児達が入口まで戻ると、丁度アランがエリーから死体袋ボディバッグを受け取る所だった。


 「エリー。何度も足運ばせて済まないな。」


 勇児が穴に向かって声をかけた。


 「いえいえ、全然オッケーですよ。余裕。」


 「アラン、先に弁当持って上に上がっていいぞ。エリーをトレーラーまで送っていけ。マリア、ロー、2人も一緒に行くか?エリー、ちょっと待っててくれ。」


 「隊長はどうするんですか?」


 マリアの質問に勇児が答える。


 「誰かが荷物番をしなきゃならんだろ?俺がするからみんなはトレーラーに戻っていいよ。休憩時間くらい楽しめよ。」


 「なら俺も残ろう。」


 ローがそう言うとマリアが言った。


 「ならば私も。」


 「いいからいいから。早く上に上がんな。アランが待ってる。」


 勇児がそう言うとマリアがアランを見た。アランは2人分の弁当をマリアに見せながらハシゴに足をかけている。


 「わかりました。では明日は私が残りますね。」 


 マリアはそう言うと急いでハシゴに向かった。


 勇児はアランがハシゴを登って行くのを確認すると、ローに向かって言った。


 「それじゃあ俺達も、遺体の処理が終わったら飯にするか。」


 「そうだな。」


 ローはそう言うと袋を勇児に渡した。


 遺体の処理を終えた2人は遺跡から出るとヘルメットを外し、大きく息を吸った。

 近くの木陰に入ると腰を降ろし、弁当のサンドウィッチの入った紙包みを開ける。

 キャサリンが朝、朝食と一緒に作ってくれたものだが、勇児はこのサンドウィッチが好きだった。普通のBLTベーコンレタストマトなのだが、味もよく腹も膨らむ。

 体力勝負の遺跡発掘員なのでかなりの量があるのだが、ローのサンドウィッチは勇児の倍はある。


 勇児がむしゃむしゃとサンドウィッチを頬張りながら


 「その体だけあってたくさん食うなと思っていたが、うちに来たチビどもならそれくらい食うだろうな。」


 勇児がそう言って笑うと、ローが言った。


 「ルーンから来た留学生か。やっぱり食うのか?」


 「食うも食わないもないぞ?想像以上だ。つか、なんでその話話を知ってるんだ?」


 「レイラから聞いた。」


 「レイラかぁ〜。あいつ人脈持ってるからなぁ。」


 「レイラで思い出した。伝言だ。近々、大和に行くからよろしくだそうだ。」


 「何しに来るか聞いてるか?」


 勇児はサンドイッチを口に運ぶ手を止めると、恐る恐るローに聞いた。心なしか顔色も悪くなった気がする。


 「何でも今回はかなり重要な話があるらしいぞ。

 ついでに留学生も見たいって言ってたな。」


 「そうか…。そうか…。」


 勇児は自分に言い聞かせるように呟いた。


 「それとな、今回はお目付け役もやらされてる。

 ユウが新人に手を出さないように監視してくれってな。」


 「お前までそんな事言うのか〜!」


 勇児はそう言うと大の字になって寝転んだ。

 


 ※一ノ太刀赤・・・剣崎流兵法の剣技はせきせいはくこく、の四種類あり、それぞれ一ノ太刀〜四ノ太刀まで計16の剣技がある。

 現時点で勇児は全てを修得していないが、八雲は全て修得している。この時点で勇児が修得している剣技は物語が進むうちに判明していくので、今は説明しません。あしからず。

初めての戦闘描写はいかがでしたでしょうか?


 普通のチャンバラと違いますので、動作の説明がどうしても長くなるのが悩みです。

 文才があれば、もっと水のように流れるような文章で、読者の皆様に御理解、御満悦頂けるのでしょうが、私の実力ではこれが限界です。

 

 精進あるのみです。

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