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第13話 「3つの選択肢」

なんとか間に合った。

 「さて、どうするか?」


 勇児はそう言うとドアの前に立ち、中を覗きこんだ。

 通路の幅は4m。ゴーグルを使っても、先が見えないほどの暗闇が通路に続いている。どうやら左右に部屋があるようだ。



 勇児は考え込んだ。いつものやり方なら勇児とローともう一人の3人でガードマシンを陽動しておびき出し、それぞれが各個撃破している間に、アランが残りを遠距離狙撃がパターンだ。

 ガードマシンの台数にもよるが、大抵10分以内に制圧は終わる。


 しかし今回は初参加のマリアがいる。この作戦は初陣のマリアにはハードルが高すぎるのだ。


 ユニフォームは防弾処理がされており、致命傷を受ける事はないと思うが、それよりも被弾してマシンガン恐怖症になられると、遺跡発展員としては使い物にならなくなる。


 そもそもガードマシンを陽動して、おびき出す作戦自体に無理があり、他のチームなら1台づつの各個撃破が基本であり、制圧に2.3 日かかるのも当たり前だ。


 勇児のチームは勇児とロー、キャサリンが固定メンバーである。チームは隊員同士の意志を尊重して構成される。

 なぜならチームワークが悪いと、発掘中に全滅する可能性が跳ね上がるからだ。


 勇児は源助とチームを組む事もあるが、その場合はかなり困難な発掘であり、勇児と源助は喜ぶどころかげんなりしてしまう。

 しかし、この状況において源助がいれば、ガードマシンの制圧はあっという間に終わるだろうと勇児は思う。


 「追加の隊員を要請するか?」


 ローが勇児の心境を察して言った。


 「俺達が緊急で呼ばれたくらいだ。無理だろうな。」


 「でしょうね。」


 キャサリンも勇児の意見に同意した。

 発掘員の数は少ない。それに対して発見される遺跡の数が多いため、余計に隊員の数が足りなくなる。

 勇児の頭に一瞬、源助の顔が浮かんだがすぐにかき消した。せっかくの休みを取り上げるわけにはいかない。

  マリアは訳がわからずボーっと立っている。


 勇児はマリアの装備を見た。左腰にぶら下がる剣は細くて厚みもない。左腕に装着された盾も小さく、マシンガンの弾には耐えられそうにない。


 「キャサリン。ガードマシンのセンサー対人有効範囲ってどれくらいだったかな?」


 「半径10m〜30mくらいね。」


 「そうか。ローは俺と。マリアはドアの前のガラスの掃除を。邪魔にならない所に1ヶ所にまとめてな。キャサリン。狙撃装備は持ってきているかな?」


 「持って来ているわ。準備しようか?」


 「悪いがエリーに遺跡まで運ばせてくれ。アランに取りに行かせる。アラン。悪いが入口まで戻って、装備を受け取ってくれ。それと照明弾をこっちに。」


 「了解!」


 アランはそう言うとリュックを降ろし、照明弾用の銃を勇児に手渡すと、遺跡の入口まで戻っていった。


 「ここから先は推測になるんだが…。壁の弾痕から判断すると、墓荒らしの連中は左右にある部屋か、その先のどこかでガードマシンに襲われて逃げようとした。

 壁の弾痕は、誰かが逃げている最中に通路の途中で撃たれて力尽き、その時にドアのガラスが割れて、壁に弾痕が付いた可能性が高い。」


 勇児の推測を聞きキャサリンが言った。


 「確かにその可能性は高いわね。」


「で、問題はここからだ。今の状況だとガードマシンがどこにいるかがわからない。

 左右の部屋にいるかもしれないし、左右どちらかの部屋にいるかもしれなければ、通路の先にいるかも知れない。3択だな。

 と、すればだ。こっちとしては選択肢を一つづつ潰すしかない。まずは左右どちらかの部屋に入って確認をとる。

 次にもう一つの部屋に入って確認をとる。最後に通路の先だ。この案はどうだ?」


 勇児の考えた作戦を聞きローが言った。


 「その案が妥当だな。」


「俺的には通路の先にガードマシンがいる可能性が高いと思うんだが確証がない。どのみち部屋の中は探索しなきゃならんし、もしも通路の先にガードマシンがいた場合の事を考えると、両方の部屋を調べて、安全を確保してからガードマシンの制圧をするほうが安全だと思う。」


 「そうだな。最悪、囮が失敗しても、左右の部屋に逃げ込めれば、アランが通路で仕留めるチャンスも出来る。キャサリンはどう思う?」


 「わかったわ。それでいきましょう。ただし、マスクはしてね。

 ユニフォームは防弾処理されているから、ある程度の被弾は大丈夫だろうけど、マスクが無いと危ないわ。マスク着用なら作戦を許可します。」


 「了解。それじゃあ準備しますか。」


 勇児はそう言いながらリュックを降ろし、中からマスクを取り出した。ローも同じようにリュックを降ろすと、マスクを取り出す。

 二人がマスクをヘルメットに装着させると、肌の露出がなくなった。

 

 「マスクは好きじゃない。」


 ローがそう言うと勇児が茶化す。


 「だったら人間体になれよ。」


 「人間体になるくらいならマスクをする。」


 どうやらローは人間体になるのが嫌らしい。そう言えば勇児とローの付き合いは長いが、勇児がローの人間体の姿を見たのは子供の頃、最初に会った時の一度だけだ。


 獣人種は基本、人間体で生活をしている。

 獣人体になるのは必要に迫られた時だけで、一日の大半は人間体だ。

 特に女性の獣人種は人前で獣人体になる事を嫌い、獣人体の姿を知るのは親兄妹と夫くらいで、自分の子供ですら見せない女性もいる。

 たまに激情家の獣人種の女性が獣人体になった姿を見かけるが、女性は精神が高揚すると獣人体になりやすいからだ。


 男はそうでもないが、獣人体になると肉体的、精神的に負担がかかるらしく、そもそも長時間、獣人体ではいられないらしい。


 ローは毎日24時間、獣人体でいるが、レイラの父、ソニーも毎日24時間、獣人体でいる。

 勇児が知っているのはこの二人と国王だけだ。


 「準備完了。これから中に入る。アランは戻ってきたら遠距離狙撃の準備をしてくれ。」


 マスクを付け終えた勇児はマイクに向かってそう言うと、ローと二人で通路に向かった。


 「了解!」


 アランの声が勇児のイヤフォンに響く。


 勇児とローは辺りを見回しながら、ゆっくりと歩いていく。5mほど前に進むと、左の壁を見ていたロー壁のが2m程先を指差し、


 「ドアだ。」 と言った。


 勇児がローの指差す方を見ると、そこには閉ざされたドアがあった。遺跡でよく見かける左右開閉式の自動ドアだ。


 勇児はドアの前の床に視線を移したが、足跡もなければローラーの跡もない。

 勇児とローはドアの前まで行くと二人並んで立ったが、ドアはうんともすんともいわない。


 「開かないな。動力が死んでいるのか?」


 勇児がそう言うと、ローがドアの合わせ目に両手の指を突っ込んだ。ローが両手を思いっきり広げてドアをこじ開けると、ガクガクと動きながらドアが開いた。


 「手動なら問題ない。」 と言った、勇児は肩をすくませて言う。


 「おみそれしました。」


 ローと勇児が部屋の中に入ると、勇児は照明弾を天井に向けて撃った。照明弾が部屋を一気に照らす。


 勇児とローは部屋の中を見渡した。

 部屋はかなり広いようだが、中にはかなりの数の机と椅子が乱雑に並んでおり、あとは空っぽの棚が大量にあるだけで、他には溜まった埃しか見当たらない。

 何やら不自然なスペースがあるが、何かの機械を撤去した跡のようだ。

 

 「足跡もガードマシンのローラーの跡もないな。それにしてもここはなんだ?やたらでっかい事務所って感じだな。」


 勇児が部屋を見回りながら言った。


 「遺跡でよく見かける光景ではあるが、規模がでかいな。」


 ローも辺りを見回りながら言う。


 「しかし、紙切れ1枚落ちてないな。」


 勇児は近くにあった机の引き出しを開け、中を覗き込みながら呟いた。


 「見事に空っぽね。左の引き出しも開けて見て。」


 キャサリンの指示に従い、勇児は左の引き出しを開けたが空っぽだった。


 「あそこにもドアがあるな。」


 ローが入ってきたドアと反対側にあるドアを指差しながら言った。

 

 「あっちのドアも開けるか。」


 勇児とローはドアに向かうと、先程と同じくドアをこじ開けた。ガードマシンが来る可能性もあるので、先程より慎重に開けたが、ガードマシンは来なかった。


 「お待たせしました。準備しますね。」  


 アランからの通信を聞き、勇児が言った。


 「今、左の部屋を調べている所だ。準備を進めてくれ。」

 

 「了解!」


 アランは持ってきた鞄をマリアに渡すと、担いていたライフルケースを床に置きながら言った。

 中には狙撃用ライフルが入っており、アランは大事そうにケースから取り出すと、手慣れた様子でライフルにスコープとサイレンサー、弾倉を付けていく。


 「久しぶりの出番だぜ!」


 アランは狙撃用ライフルの二脚バイポッドを立て、床に設置すると、ライフルの前で胡座をかいた。


 「鞄の中の毛布取ってくれる?」


 アランがそう言うとマリアは鞄から毛布を取り出し、アランに渡した。アランは毛布を丸めると尻の下に敷き、何度も毛布の位置を微調整する。


 しばらくしてアランは調整に納得したのか、銃床ストックを右肩に当て、右手でグリップを握った。

 次にアランはゴーグル越しにスコープを覗き込んだ後、上下左右に銃口を振りはじめた。

 しばらくしてからアランはスコープから目を離すと、マイクに向かって言った。


 「準備完了!いつでもいけます。」


 「それじゃあ様子を見てくれ。」


 勇児がそう言うとアランは


 「了解!」


 と言ってスコープを覗き込んだ。しばしの沈黙の後、アランが言った。


 「あらららら。通路の途中に死体確認。邪魔だな。距離26m。50mほど先からは広間になっているようです。

 11時の方向、66m先に死体を確認…。12時の方向、67m先にも一つ………。壁に隠れて確認出来ないが、2時の方向、55m先に人の足らしきもの発見。」


 アランの報告を受けてマリアの表情が曇った。


 「あとは何が見える?」


 勇児の問いかけにアランが答える。


 「床にはローラーの跡がたくさん付いてますね。ガードマシンの姿は確認出来ません。足跡は侵入者のものだけのようですね、あと、床に飛び散っている血はあまりありません。あれ………?これはなんだ?キャサリンさん見てもらえますか?」


 「どれ?」


 「これです。」


 そう言うとアランはスコープの倍率をあげた。

 そこに映るのは上から押し潰されたような体に、六本の足が生えた節足動物らしき死骸であった。

 しかも死骸は一匹ではなく、10匹近い数が散乱している。


 スコープ越しではっきりとしたサイズはわからないが、かなり巨大なサイズだと言うことは、傍らにある墓荒らしの死体と比べてもよくわかる。

 

 「これって…昆虫の死骸かしら?それにしても大きいわね。30…いえ、40cmはあるわよ。」


 「例のゴキブリか?」


 勇児が一言そう言うと、イヤフォンに叫び声が聞こえた。


 「40cmのゴキブリ!!!」


 マリアだ。


 「落ち着けマリア。」


 勇児がそう言うとキャサリンが言った。


 「多分、ゴキブリね。それにしても大きいわね。窒素装備を用意しておくわ。」


 キャサリンが驚くのも無理はない。ゴキブリは世界最大種でも10cm程なのだから、40cmともなると規格外にも程がある。


 「ガードマシンは通路の先、広間にあるようだな。念のために隣の部屋も調べとこう。アランとマリアはそのまま待機で。しかしまぁ、死体の回収に害虫駆除までしなきゃならんとはな。」


 勇児はそう言ってため息をついた。


 勇児とローは部屋の探索を終えると、向かいの部屋の探索にむかった。入ってきたドアから部屋を出ると、2m程進んだ所にドアがあった。


 ローが先程のようにドアをこじ開け、勇児とローが部屋の中に入る。

 部屋の中は先程とは少し違い、大きな作業台がたくさん並んでおり、台の上には空になったガラス瓶やシャーレ、フラスコなどの実験道具が置いてあった。

 他には大きな機械がいくつも置いてあった形跡があり、どうやらそれらは全て撤去されたようだ。


 勇児は床に視線を送ったが、足跡はおろかローラーの跡も見当たらない。

 勇児は部屋の天井に照明弾を撃つと、じっくりと部屋の観察を始めた。やはり床には紙切れ1枚落ちておらず、所々に椅子が倒れているだけだ。


 「見事なもぬけの殻だな。夜逃げでもしたか?」


 勇児が軽口を叩くとローが


 「こんな所に借金取りが来たわけでもないだろう。」


 と返しながら部屋の中を探索している。


 「何かの実験をしてたんだろうな。何の実験をしてたんだか。」

 

 勇児も部屋の探索をしながら照明弾を撃ち続ける。


 照明弾を撃ち終えた勇児がローの姿を探すと、ローは先程と同じように入ってきたドアと反対側にあるドアをこじ開けていた。


 「こっちのドアも開け終わった。」 


 ローはそう言うとドアから通路に出ると、アランに向かって歩きだした。勇児は勇児で入ってきたドアから通路に出ると、広間に向かって歩き出す。


 しばらく歩いていると、勇児の目に人間の腕が見えた。よく見ると力なく腕を前に伸ばし、地面に倒れ込んでいる死体だ。


 勇児は頭に布を巻き、上半身裸の男の死体を観察したが、室温が低いせいか腐敗は進んでいない。腹部をマシンガンで数発撃たれており、腹部からの出血多量が死因だろう。銃殺されたわりには綺麗な死体だ。


 「これか。思ってたより腐敗は進んでないな。この温度なら当たり前か…。」 


 ローの声が前から聞こえる。勇児は死体に手を合わせ、ローは胸で十字を切る。


 「運ぶぞ。」 


 勇児はそう言うと死体の頭側を持ち、ローは足を持つとアランのいる方へ死体を運ぶ。死体を階段前の通路まで運び終えた勇児とローは、死体を床に置いた。

 マリアが駆け寄り死体を前に胸で十字を切ると、手にしていたシートを死体に被せた。


 「それじゃあ、俺は今から左側の部屋に行く。ローは右の部屋に。準備が出来次第、俺の合図と共に俺とローは広間に向かって突進する。

 広間到着後、俺とローは広間の左右に展開。アランの狙撃の射線を確保。アランは射線上に出てきたガードマシンの狙撃を頼む。」


 「了解!」 アランの威勢のいい返事が飛ぶ。


 「ロー。とりあえず相手の数がわからん。無理して形を残さなくていい、ぶっ壊してくれ。」


 「わかった。」


 勇児は左の部屋に入ると奥にある開けっ放しのドアの前に立った。ドアから顔を出すと、ローが2mほど後ろのドアから顔を出している。

 勇児はローに向かって右手を上げる。それを見たローは左手を上げた。


 「準備はいいか?」


 「アランOK!」


 「OKだ。」


 「よし!行くぞ!」


 勇児はそう言うと右手を下げた。

 

いよいよ戦闘の描写です。

何度も何度も書き直していますが、大丈夫だろうか?

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