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第12話 「発掘開始」

やっと発掘に入ります。どうなりますやら。

 ヘサームとジャリル、アシュガルの3人は、馬に跨り遺跡発掘隊の元へと向かっていた。その顔には疲労と不安が見てとれる。


 昨日、勇児達と別れた後、ヘサーム達は近隣の村(と言っても一つしかないが。)を訪れ、村人達に遺跡発掘隊の来訪と『遺跡発掘条約』の説明を行なった。勇児達が熱烈な歓迎を受けたあの村である。


 村と言っても50人に満たない小さな村である。村中を見回しても鉄を帯びた道具すら目にしない。馬や牛などの家畜は痩せこけており、見るからに貧しく小さな村だというのがわかる。


 ヘサームが村人を広場に集めて説明を行うと、村人達は明らかな動揺を見せた。特に行方不明となった家族はもちろん、襲撃者に対しての措置に関しては、村人達から大きな声が上がった。


 「みんな落ち着け!言いたい事はわかるが、私の話を聞いて欲しい。まず行方不明者に関してだが、彼らが無事に戻って来る可能性はかなり低い。あまりにも時間が経ちすぎている。」

 

 静かになった広場には、家族のすすり泣く声が聞こえる。


 「それと彼らを襲って金品や食料を奪おうなどと考えている愚かな輩がいればやめろ。彼らは強い。

 数でどうこうなるようなレベルではないんだ。我が国の兵が束になっても勝てる見込みなどない。触れる事すら出来ないだろう。いいか?私は忠告したぞ?絶対に彼らに近づくな!彼らは我が国がお招きしたお客様だということを忘れないでくれ。」


 ヘサームはここまで言うと村人達を見た。村人達の大半は真剣に話を聞いているが、中には薄ら笑いを浮かべる者もいる。

 ヘサームはため息をつくと、一瞬悩んだが真剣な顔でこう言った。


 「それに彼らの中には獣人がいる…。しかも虎だ。」


 この一言で村人達に戦慄が走った。広場は重い空気に包まれる。


 村人達の獣人種に対する認識は極めて古く、何の根拠もないものだ。人間より遥かに強く、人間を殺してもなんとも思わない残忍で容赦ない性格で、中には人間を食べる習慣があると信じている者もいると言う。


 ヘサームは獣人種の事を知っていたので、決してそんな事がないのはわかっているのだが、村人達に無茶な行動を起こされたくない一心で、村人達の間違った知識を逆手にとったのだ。


 いくら村人達の事を思って言った事とはいえ、ヘサームの心は傷んだ。良心の呵責と言うやつだ。


 「村人達は納得しましたかね?」


 ジャリルは険しい顔で辺りを見回しながらヘサームに尋ねた。


 「わからん。わかってくれればいいのだが…。」


 ヘサームは心の底からそう思った。


 「そんなに強いんですかね?そんな風には見えないなぁ。」


 アシュガルは呑気に言う。


 「本当に強い者は力を誇示したりはせん。お前のような見方が一番怖いのだ。昔、獣人に剣術の指導を受けた事があってな。嫌と言うほどその強さを見せつけられたよ。」


 ヘサームは地元出身のジャリルやアシュガルとは違い、警察官の中でもエリートである。今はこんな田舎にいるが、元々は首都に着任しており、2年の任期が終われば首都に戻り、警察署長になる予定だ。あと半年ほどでこの地ともおさらばである。出来れば問題なく過ごしたいと思うのは当たり前だろう。


 「何事もなければいいが…。」


 ヘサームの声音には不安が現れていた。


 

 ヘサーム達が遺跡発掘隊の元を訪れると、発掘員が機材の準備をしていた。


 「おはようございます。」


 ヘサーム達はそう言うと敬礼をした。


 「おはようございます。」


 勇児はそう言うと話を続けた。


 「昨日の調査の結果、発掘を始める事になりました。今から中に入って最終チェック終了後、問題がなければ発掘を続けます。申し訳ありませんが、チェックが終わるまでお付き合い願えますか?」


 「了解いたしました。それと獣人の方と少しお話がしたいのですが…。」


 ヘサームの申し出を受け、勇児はローに手を振る。


 勇児がローの元に行き、しばらく会話をした後、ローはヘサームのところまで来た。


 「何か用か?」


 ローがヘサームにそう言うと、ヘサームは昨日の話をローにした。話を聞き終えたローはヘサームに言った。


 「それでいい。気にはしていない。」


 そう言うとローは去っていった。


 ローは勇児の元に行き、ヘサームから聞いた話をした。


 「なるほど…。気をつけなきゃならんな。嫌な役回りをさせて悪いな。」


 勇児は深刻な顔で言った。


 「それくらいで馬鹿がいなくなれば楽なもんだ。」


 ローはそう言うと仕事に戻った。


 勇児はヘサームの元に行き話をしだした。


 「話は聞きました。ご忠告ありがとうございます。」


 「こちらこそ大変な失礼を…。」


 ヘサームは恐縮している。

 しかしヘサームは黙っていればわからない事まで話をし、暗に気をつけろとヘサームは勇児達に忠告してくれているのだ。

 勇児とローとしては、ヘサームは自分に厳しい誠実な男だと評価している。


 勇児達とて村人を傷つける気は毛頭ない。

 国によっては休み時間に子供達が集まってきて、勇児達の話を聞きたがる場合もあるのだ。


 今の時代、異国からの来訪者と言うのは珍しい。大和王国でも都であれば見かけるが、地方ではほとんど見かけることはない。


 好奇心に満ちた子供達は、珍しい来訪者の話が聞きたくて集まってくるのだ。

 そんな時は状況にもよるが、勇児達は出来るだけ対応している。中には子供達の相手をしてくれたお礼に、差し入れまでしてくれる親もいるのだ。。


 「いや、気にしないでください。本人も気にしていませんから。それでは準備も整いましたので行きましょうか。」


 勇児はそう言ってヘサームを促すと、荷物を持ち遺跡へと向かった。


 遺跡に着くと、ローは穴に入っているロープを引き抜き、ロープをナイフで切った。それから置いてあるハシゴを遺跡の穴の中へ入れた。

 アランは穴の周りに木で出来たパイロンを置き、手慣れた様子で『KEEP OUT』と書かれた帯を張っていく。

 勇児は腰にロープの付いたベルトを巻いており、マリアは伸びたロープを裁きながら手伝いをしているようだ。


 勇児はベルトを装着し終えると大きなリュックを背負い、顔の部分が空いたヘルメットを被り、ゴーグルを下げた。


 「準備出来たよ。」


 勇児がそう言うと、キャサリンから返事が返ってきた。


 「動作チェック終了。感度良好よ。」


 勇児はゴーグルを上げるとヘサームに言った。


 「今から最終チェックに入ります。問題がなければそのまま発掘作業に入ります。」


 「わかりました。」


 ヘサームがそう言うと、勇児はゴーグルを下げ、遺跡の穴に向かった。勇児がハシゴに足を掛けゆっくりと降りていく。

 ローとアランはロープを手に持ち、ロープが突っ張る度に少しずつ緩めては掴み、緩めては掴みを繰り返す。


 勇児は遺跡の床にゆっくりと右足を乗せると、体重をかけていく。次に左足を乗せると数歩歩く。

 勇児はその場でピョンピョンと飛び跳ねると、反復横跳びをはじめた。

 勇児は辺りを見回しながらゆっくりと歩く。ゴーグルのおかげで暗闇の中でも、昼間と変わらないほど鮮明に見える。


 「強度、傾斜ともに大丈夫だ。床はかなり厚いだろう。」


 「了解。発掘作業の続行を許可します。」


 キャサリンの声が勇児の耳に響く。


 勇児はハシゴに戻るとリュックを降ろし、ハシゴを登り始めた。

 遺跡から出てきた勇児はベルトを外し、ゴーグルを上げるとヘサームに近づくと言った。


 「最終チェック終了です。許可が降りましたので、これより発掘調査を開始します。本日の立会い項目はこれで終了です。お疲れ様でした。

 明日からは毎日、朝8時に来てもらえますか。問題がなければすぐに帰ってもらう事になりますが、お願い事が発生する場合もありますので。」


 「了解しました。」


 「それでは朝早くからご苦労さまでした。明日もよろしくお願いします。」


 勇児はそう言うと踵を返し遺跡へと戻る。

 ヘサーム達は帰路についたが、ジャリルは何やら不服そうな顔をしている。


 「どうしたジャリル。」 ヘサームが尋ねた。


 「発掘隊の隊長ですが、少しそっけなくありませんか?言葉づかいは丁寧ですが、何かこう…。」


 「ジャリルは気付いたか。アシュガルは気付いていないようだな。」


 アシュガルは何が?といった顔だ。


 「彼は我々に気を使ってくれているのだよ。」


 「そうなんですか?」


 「我々が遺跡の事を知り過ぎないように、わざと近付けないようにしているんだ。」


 「なぜですか?」


 「知りすぎてロクな事があるか?下手をすれば…。」


 ヘサームの言葉を聞き、ジャリルは青くなった。


 「ジャリル。お前発掘隊の方々の名前が言えるか?」


 「隊長が確かユウ…。でしたっけ?後の方々は…。」


 「だろう?フルネームで名乗ったのは隊長だけだ。他の方々は自己紹介もしていないし、会話にも一度くらいしか名前は出てこない。」


 「確かに…。」 ジャリルは納得した。


 「下手に我々に情報を与えて、村人に拡散されるのも困るが、何かあった時に我々に害が及ぼないように配慮してくれているのだ。」


 「彼らが心から笑顔を見せてくれるのは、無事に発掘が終わった時だろうな…。」


 ヘサームはそう言うと、遠い目をした。

 少しでも早くその日がくればいいと切に願っていた。


 

 アランはヘルメットを被りゴーグルを下げた。大きなリュックを背負い、両腰には銃を携えているが、右手にも大きな銃を持っている。


 アランは動作チェックを終えると、勇児と共にハシゴを降りていく。遺跡に降りた二人は遺跡の天井を見上げる。


 「いけるか?」 勇児の問いかけにアランは


 「いけますよ。」


 と言うと、遺跡の壁と壁のちょうど真ん中辺りの天井に向かって右手の銃を構えた。


パシュッ!


 噴射音と共に放たれた大きな弾は、天井に着弾すると1mほどの円形に広がり、天井にべったりと張り付いた。

 遺跡の中を明るい光が照らす。白っぽい壁には細かいヒビが入っており、床には埃が積もっている。

 どうやら遺跡の通路らしい。


 「照明の確保完了。ロー。マリア。降りて来てくれ。」


 勇児からの通信を聞き、まずはマリアが降りてきた。

 ヘルメットを被り、発掘員のユニフォーム姿のマリアだが、左の腰には剣を携え、左腕には小型の円形シールドがついている。


 最後に降りてきたのがローだ。

 ローもヘルメットにユニフォーム姿だ。大きなリュックを背負ってはいるが、腰に武器は携帯していない。 


 ハシゴを降りたローは、ハシゴを遺跡の中に入れると床に倒した。

 全員が揃うと、勇児はロー達を指差しながら数を数える。


 「よし。全員揃ったな。これより発掘作業を始める。墓荒らしの足跡が残っているから消さないように。先頭は俺が。最後尾はローが務める。とりあえずは足跡を追う事にする。」


 そう言うと勇児は歩き出した。他の隊員も後に続く。

 アランは光が届かない場所に来ると立ち止まり、照明弾を天井に向かって撃つ。

 しかし目の前の光景になんら変化はない。床には埃が溜まり壁にはヒビが入っているだけだ。

 勇児達は遺跡の中を進む。進んでは照明弾を撃ち、進んでは照明弾を撃つの繰り返しだ。


 50mほど進むと左側の壁が途切れ、大きなドアが現れた。床には多数の足跡がついているが、そのまま壁に沿って足跡がつづいていた。

 念のため勇児がドアを押し引きしてみたが、鍵がかかっているのか固く閉ざされており中には入れない。

 

 「やっぱり開かないな。ここは後にして足跡を追うか。」


 勇児はそう言うと壁に沿って歩きだした。


 それからまた50mほど進むと今度は階段があった。

 登りの方は瓦礫に埋まっており登る事は出来ないが、下りの方は問題ない。足跡も下りの階段に続いており、勇児達は顔を見合わすと下りの階段を降りて行った。


 階段を降りるとそこには上の階と同じように通路が伸びていた。足跡は通路に向かって続いており、下に続く階段に足跡はなかった。


 「ここにいるな。」 勇児が言った。


 「生きていればな。」 ローも言う。


 「ここからは何があるかわからん。気ぃつけていくぞ。」


 勇児はそう言うと通路に向かって歩き出した。


 通路を歩きながらアランが照明弾を撃った時だった。右側の壁にドアらしき物が見えた。ドアはガラスで出来ており、ドア自体は枠しか残っていないが、ドアの前には分厚いガラスの破片が散乱している。


 勇児は隊員達に『その場で待機』のサインを出すと、ゴーグルを下げてからドアの前に向かった。

 勇児は音も立てずドアの前で屈み込むと、分厚いガラスの破片をつまみあげた。ガラス片をまじまじと見ながらマイクに話しかける。


 「どう思う?」


 勇児の問いかけにキャサリンは


 「割れたのはつい最近ね。床に散乱しているガラスを映してくれる?」

 

 勇児は言われた通り、床に散乱したガラスに視線を移した。


 「大きさはバラバラだけど、割れて時間が経っているものもあれば、真新しいものもある…。すごく細かい割れ方をしているものが大量にあるのが不自然ね…。なにかしら?」


 「これか?」 


 勇児はそう言うと10mm角ほどのガラスの欠片をつまみあげた。


 「そう。それよ。地震で割れたにしては細か過ぎるし、数も多すぎるのよ。」


 勇児はドアの枠に目をやる。枠の厚みから見てガラスの厚みは3cmはある。


 「侵入者が踏み潰したにしては、破片が細か過ぎるな…。」


 勇児はそう言うと通路の先に目をやった。足跡は一つもなく、埃が積もっているだけだ。


 「ユウ、ドアと反対側の壁を見てみて。」


 勇児はキャサリンの指示に従い、ドアと反対側の壁に近づいた。


 「これは…。」


 勇児は息を飲んだ。壁には勇児のお腹辺りの高さに、無数の細かい穴がほぼ一文字に空いている。ドアの幅とほとんど同じ範囲で。


 「多分、銃痕ね。しかもこの穴はマシンガン…。」


 「だろうな。みんな来てくれ。ドアには近づくな。壁側に寄れ。」

 

 勇児の指示に従い、隊員達は壁側に寄りながら勇児の元へ来た。


 「アラン。これを見てくれ。」


 勇児に言われ、アランは無数に空いた穴をじっくり見ると自信たっぷりに言った。


 「間違いない。こいつは7.92mm弾の弾痕だ。マシンガンだな。これを使う奴は座った人間かそれ以下のサイズの可能性が高い。

 人間じゃなければ、背の低い重心の下がった機械だろうな。設置型のマシンガンじゃない。」


 「そんな事までわかるんですか?」


 マリアが不思議そうに尋ねた。


 「マシンガンてのは人間が扱うと,7.92mm弾が限界なんだ。ローの大将なら大丈夫だろうが、人間にはそれ以上大きな弾をマシンガンで撃つと、反動が強すぎて使い物にならない。的に当てることすら運任せになる。」

 

 「人間じゃなければ背の低い重心下がった機械ってのはあれか?反動と命中率を考えての事か?」


 勇児の質問にアランは笑いながら言った。


 「さすが隊長!ズバリだぜ!それにこの弾痕はよく見ると、真っ直ぐ着弾してないんだ。若干、下から上に斜めに入っでる。ってことは低い位置からの射撃になるよな?」


 「そうなるな。」 勇児は頷いた。


 「て、事は人型のマシーンと言う可能性は無くなる。で、次に設置型の可能性も無くなるんだ。設置型の場合、罠として設置するのが基本だから設置するなら人間の身長より上に設置されるし、下に設置する場合、わざわざドアを破壊するような範囲には設置しないだろ?という事は?」


 「移動式ガードマシンか?」


 ローが口を開いた。


 「ご名当!重心が低くてローラーで移動するガードマシンの可能性が極めて高いと思う。」


 アランは意気揚々と言った。


 「確かにな。てことはあれか。この遺跡の動力は生きてる可能性が極めて高いって事だな。」

 

 勇児がそう言うとアランは


 「あ!」


 と声を上げると黙ってしまった。


 隊員達の間に重い空気が流れる。


 「ユウの言う通りね。さぁ?どうしましょう?」


 勇児の頭にお手上げのポーズを取るキャサリンの姿が浮かんだ。


 『よりによって新人がいる時に…。』


 勇児は天を仰いだ。


いきなりピンチです。


どうなることやら。

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