あの丘
呼気は白い靄と消え、吸気は肺を刺すほどに冷たい。小高い丘の下校路を行けば、天守閣が私を俯瞰する。落葉で紅や黄に染まった路。黄丹色の夕日は枝木にところどころ遮られ、視界は憂鬱さを呼び起こすほどに美しい陰翳の調和を生み出している。貴方はどうしているでしょう。近くにいる貴方を、遠くへ行き失せた恋人の様に錯覚させてしまう晩秋の寂しさ。それが何故か、言葉にはできないが私は毎年そう感じる。
日常はとめどなくやってくる。貴方はいつもだらしなくて。でも、そんな貴方を愛おしく思っている自分がいて。幼いころより、私と貴方は所謂幼馴染として共に過ごしてきた。貴方に好意を抱いたのはいつだったか。薄紅の桜咲く春か、赫奕たる陽光射す夏か、寒風に凍える冬か。そうではない、やはりこのように寂しい秋、それもどこからともなく野焼きの香漂う晩秋であった。孤独の意識が、貴方の存在を強くするらしかった。
学校では何事にもしゃにむに励み、人望も厚い貴方が私の前では見せるその余所行きでない姿や態度。私に安心しているからだろう。
「おはよう。今朝は馬鹿に早う起こしてくれたなあ。」と貴方は皮肉交じりに言った。
「そんなん、自分の事なのに他人任せにしとったらおえんじゃろ。今日は何の日なん?」と少々荒っぽく返事をする。
「特にいつも通りじゃねえん?なんかあったっけ?」と寝ぼけた顔でよく言うものだ。
「学校集会で運動部の壮行会の挨拶せにゃいけんじゃろ!なに寝ぼけとん!生徒会長なんじゃけシャキッとし!」そう私が言うと。慌てて寝床から起きて、
「なんで昨日言ってくれんかったん!言うのが遅いわ!」と何故か怒り出す貴方に私も不快感を覚える。
「私は保護者じゃねえんで!高校生なんじゃけ自活せられぇよ!何時までも私と一緒におるわけじゃねえんじゃけ!」とまくし立てる。
そんな事があっても、貴方は卒なく挨拶をこなしてしまう。学校では貴方は私みたいな物とはつるまない。そこには別々の日常が存在するかのように。