エピローグ
そっと唇を離して見つめ合う。
髪色に似た淡い色の瞳が柔らかく細められていき、手が頭に触れてくる。
私の髪の感触を愛おしそうに確かめていくようなユキトの仕草にまた、どくんと鼓動が跳ねた。
今まで味わったことのない感情がとめどなく溢れてきて、胸がきゅうと甘く切なくなる。
あんなに何度もキスをしたのに、ふと我に返って自分のしたこと、されたことを考えると動悸が止まらない。
自分が自分じゃないような気恥ずかしさから、ユキトの顔を見られずに小さくなってうつむいた。
何度も私を安心させてくれたあの尻尾は、どういうわけか、こういう時に限って欠片も見えなかった。
恋なんかしないと決めていたのに、こんなにも彼に夢中になってしまうなんて、人生何が起こるかわからないもんだ。
そんなことを思いながら、ちらと上目で視線を送り、ユキトの様子をうかがう。
すると、なぜかユキトは小さく息を吐いて、困ったように笑った。
「あーもう。僕を煽ってんのかな、それは」
「……ッ!」
ユキトはまた手を伸ばしてきて、私は意外とたくましかった腕に抱き寄せられていく。
その力と温もりに、はっとしたのとほぼ同時に、湧き立つ声が遠くから微かに聞こえた。
声の方向は、人が大勢いたあの広場だ。
私は、ユキトの腕に抱かれたまま空を仰いでいく。
顔をあげた途端、思わず息を飲んだ。
これまでの流星待ちが嘘だったかのように、次から次へと星が降りはじめていたのだ。
「すごい……」
「流星雨どころか流星嵐だ。こんなの、滅多に見れないよ」
星はまるで雨のように、とめどなく降り続ける。
奇跡のような天体ショーに私たちは目を奪われ、小さく感動の息をついた。
「こうなると、願いも叶え放題になるね」
ユキトはきらきらとした瞳で空を見て、楽しそうに笑う。
「ユキトは何を願うの?」
「給料アップと、もうちょっと筋肉つけたいっていうのと、新しい電卓が欲しい、かな」
「何それ」
あまりにも現実味がありすぎて夢のない願いに、私はくすくすと笑う。
そして、ふと疑問がわき出て、私は再び口を開いた。
「あ、そういえばユキトってどういう字を書くの?」
「幸せな人で幸人、です」
彼は微笑みながら、そう答えた。
想像どおりで笑えた。
幸人には、幸せそうな笑顔が良く似合う。
明日の仕事に響かないように、と、流星嵐が過ぎた頃、私たちは車へと向かった。
幸人は車の横に立って手を合わせて、空をじっと見つめている。
さっきほどではないけれど、空を見ていると、たまに流星が降るのだ。
「何かお願いごと?」
幸人の隣に立って尋ねる。
すると、幸人は合わせた手をほどいて微笑んだ。
「うん。願いはいっぱいあるけど、本当に叶えたいのは二つだけなんだ。あのプラネタリウムが皆の心に残っていてほしいっていうのと……志乃との幸せな未来。僕にはそれだけで十分。志乃は、さっき何を願ったの?」
「私のは……秘密かな!」
“私の願いも幸人のと同じだった”なんて、気恥ずかしくて言えなかったけれど、優しい笑顔には全て見透かされているのかもしれない、なんて思った。
古ぼけたプラネタリウムは、幼い頃の私と、大人になった私に、たくさんの知識と思い出をくれた。
嬉しいときにはさらなる喜びを、悲しいときには優しさをくれた。
それに、かけがえのない大切な男性も。
ピントのぼけた大好きな星はもうないけれど、寂しくなんかない。
色あせることのない大切な記憶たちを胸に、さあ満天の星空を見上げよう。
そうすればきっと、想い出の光と同じように、あの星たちが優しく瞬いてくれるから。
fin.
あとがき
シュガースタープラネット、ようやくラストを迎えることが出来ました。
お楽しみいただけましたでしょうか?
もしも楽しんでいただけていたら、こんなに嬉しいことはありません。
完全に余談ですが、一つの物語を書ききるというのは、なかなか気力・体力いるものでして。
アクセス0、ブクマ0、評価0、感想0の状態では、心も筆も折れていたと思います。
読んでくださる方がいてくださったからこそ、シュガースタープラネットは楽しく書き続けることができ、一つのお話として成り立つことができるようになったのだと思います。
ここまでお読みくださいまして、執筆への力を下さいまして、本当にありがとうございました!
星影




