プロローグ
「ぜひまた来てくださいね。次は”星の終わりと始まり”の話、しますから」
初対面だったにも関わらず、私と大して歳も変わらないであろう男は、そう言って微笑みかけてきた。
色素の薄い髪に、童顔な顔、柔らかい表情に、ぶんぶんと振られているよう気がする見えない尻尾。
警戒する私の心にするっと入り込んできた人懐っこい彼はまさに――
わんことしか思えなかった。
☆★――☆★――☆★――☆★
「犬みたいな男……か」
狭い部屋に自分の声が響いて、静かに消えた。
ミントカラーの座イスにもたれながら、スマートフォンの画面をスライドして、ぼんやりと文字を眺める。
真っ白なロフトベッドに、茶色のカーテン、そして緑色のふかふかなラグ。
駅までバスで十五分という何とも中途半端な距離にあるこのワンルームが、私の住処だ。
「ふーん、単純明快で正直。社交的で人懐っこい。思い込んだら一途。喜びが体全体に現れる。元気が良くて、すぐに会いたがる、ねぇ」
画面に表示されているのは“犬系男子の習性”だ。
何気なくそれを読み上げて、昼間のあの人のあれこれを思い出し、呆れ返りながら笑った。
はじめて会った女にナンパまがいの誘いをしてくるような変人のくせに、いつの間にやら距離を縮められていて。
あからさまに警戒されていてもめげずに透明なしっぽを振り、こっちになついてくる。
調べてみたことで、やはりと納得した。
やっぱり大塚さんは、犬系男子というくくりに分類される人なんだろう。
「男子ってトシでもないだろうけど」
人のことも言えないくせに、ふんと鼻で笑う。
でも、そんなわんこ男のおかげで、最悪だったこの二日間をこうやって笑いで締めくくれているのかもしれないな……
そんなことを思いながら微笑み、スマートフォンをそっと机の端に置く。
そして、『最悪』だった日々が、180度くるりと変わった今日のことを、思い返していくのだった。