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冤罪、そして幽閉

「しかし、もう我慢できん。我はそなた以外にありえない」


オフィーリアは勝ち誇る間も与えられなかった。

邪魔者のアンナが去った後、エドワードがオフィーリアの前髪を梳きながら、マヌケな顔を近づけてきた。


「いけませんわ」


スケベ顔で胸に手を持って行こうとしたので、扇子でぴしゃりと叩いた。

彼女は妖艶な微笑みを湛えてエドワードの耳元に唇を寄せる。


「まだ見物人がおりましてよ。例の計画を成功させるには、我慢が必要ですの」


さっきの「式」というのは、事を急ぐエドワードをなだめるために、アンナがついた嘘の計画にすぎない。


本当は、エドワードとアンナとの婚約を破棄について、いつまでも女王の許可が降りなかった。

あの女も所詮はただの人間のくせに、ふざけている。

王族の離縁については既に数代前の王が法を変えているというのに。

それを伝えても、あの女は、「女王としてではなく、姉として許さない」と言っていた。

エドワードの情熱は既にアンナよりもオフィーリアに傾いているのは明らかだ。


既に、オフィーリアはエドワードの母・イザベラと結託しており、なんとかして次の代の王をエドワードに据えようとしている。


エドワードはなかなか首を縦に振らない女王に焦ったが、オフィーリアは「式の手配には時間と手間が掛かるから」と嘘を教えていた。

この男は、アンナをあそこまで口汚く罵る割に、惚れた女にはトコトン弱くて扱いやすいから良い。


ローズハート家はどうしてもアンナ達リレスター家に打ち勝たねばならない。

このバカ王子の事なんて心底どうでもいいが、王妃となればローズハート家は確固たる地位を約束される。

そして、私は王妃として注目の的。

家柄だけで王子の婚約者に選ばれたアンナではなく、美貌と知性を兼ね備えた自分こそが王妃にふさわしい。


そのためには何だってしてやる。

それこそ、人を殺める事だって――


今夜、今までの苦労は今夜で全て報われる。

その事を想像すると、オフィーリアは扇子で隠した口元が歪んで行くのを抑えることができなかった。



 *



その者達が屋敷にやってきたのは、アンナがベッドに伏している時だった。

既に噂は回っていて、メイド達すらアンナの陰口を囁いている。

だが、メイドが部屋の外で口々にした噂はどうも奇妙だった。

「アンナが浮気をした事が露見した」と。

アンナはあくまでエドワードに愛されるために身を粉にしてきた。

浮気なんてするはずがない。


ずかずかと大足音が聞こえたと思えば、屈強な衛兵達がアンナを無理やり取り押さえ、髪を引っ張られて無理やり顔を上げられる。


「何をするんですか!!」


アンナはもがくが、男達の力は強く、逆らえない。

そして


「動くな」

「っ!」


アンナの首筋に槍の先があてがわれ、彼女は言葉を失った。

彼女は衛兵達に連れられて、法廷に放り込まれる。

言い渡されたのは、姦通罪――エドワードという婚約者がありながら、他の男と関係を持ったという罪――だった。

もちろん、そんなのは濡れ衣だ。


だが、相手の男との手紙が証拠に上げられている。

これはエドワードに宛てた手紙のはずだ。

返事は無かったはずなのに。どうして、どうして――


この惨めな姿を貴族達の前に姿を晒され、観衆たちは誰もが冷ややかな目でアンナを見ていた。

しかし、そんな事はなんだってよかった。

いくらアンナだって、これくらいわかる。


エドワードが、私を嵌めた。


目の前が真っ暗になりそうだった。


こうして、最初から結果のわかっていた裁判でアンナは有罪となり、霧の都の郊外に位置し、「哀れみの塔」へと幽閉される事が決まった。



「哀れみの塔」は、大河川の(ほとり)にある。

それまでの間、一度だけ両親から手紙があった。


「一族の恥さらし」とアンナを罵倒するだけ罵倒して、それだけの手紙。

悔しくって、悲しくって――手紙がクシャリと音を立てて皺を作った。

それでもアンナは泣かなかった。



霧の大河川に一隻の舟が音も立てずにゆっくりと流れていく。


アンナは手枷足枷を嵌められ、小舟に乗せられ、霧の都を横目に見ながら護送され塔内へと連行されている。

ずっと唇を噛んで俯いていた。口の中に血の味が絶えず滲む。


両親の期待を裏切ってしまった。

エドワードに嫌われてしまった。

まだ――愛されていない。


塔に幽閉されてしまっては、今度こそやり直すチャンスは無いかもしれない。


無念と後悔が頭の中を何度も何度もぐるぐるとめぐる。

きっとこの塔で誰にも忘れられて死んでしまう。


これ以上俯いていたら涙が零れそうだった。

顔を上げれば、家族たちの姿を見つけ――彼らの蔑むような視線に、心が引き裂かれそうな思いだった。

次にオフィーリアの姿を認める。

彼女は口元に扇子を当てていたが、確かに不気味に嗤っていた。


耐え切れなくなり、目をそむける。



私は、誰からも愛されなかった。


頑張っても無駄だった。


私は――最初から、誰にも必要とされていない――


そう思った瞬間、心が砕ける音がした。


最初から、無駄だった。

二度目の人生が与えられたのも、意味なんてなかった。

未来に、希望なんてない。


心臓が引き裂かれてしまうんじゃないかという程痛い。体が冷える。耳鳴りが止まない。

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