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精霊の目

「それは俺が許可しない」

「まあまあ。それより、姫君は子供を見たんですよね?」


アンナは頷く。


「変な子供でした。はたを織ってて、それで背中に羽が生えてるんです。妖精の羽みたいな……」

「それは気のせいなんじゃないか? 良い日和だし……その……」


ヒースクリフは夢だったんじゃないかと言いたいらしい。

それを、アラミスはやれやれと言わんばかりに頭に手を当てて首を左右に振った。


「何なんですかそれ。姫君があんなに一生懸命に掃除をしていたというのに君は居眠りをしていたと疑うんですか? 我が弟子は本っ当に愚か極まりない」

「わ、悪かったな! べっ、別に疲れたなら少しぐらい休んでもいいだろ……」

「はぁー。……僕は情けなくなってきましたよ」


アラミスは眉間に指を当てて悩ましげにため息をする。


「お、俺はお前みたいななまぐさ坊主の弟子になった覚えなんてないからな!」

「それはともかく」


彼はヒースクリフの怒りを受け流しつつ、アンナへと向き直って優雅に微笑む。


「きっとそれは妖精の祝福ですね」

「よ、妖精?」


アンナは首を傾げる。

精霊や妖精は、この世界の魔法の源みたいな存在だ。

妖精が高位な物になると精霊となる。


古来、ここは精霊や妖精達の国だった。

国を治めていた王様も精霊や妖精達で、彼らは自由自在に魔法を操る事ができた。

そこに移住してきたのが人間だ。

精霊・妖精と人間は仲良く暮らしていたけど、年月が経っていくうちに、彼らは人間と結婚してその血が薄れていく。

こうして、現在最も精霊王の血が濃いとされているのは王族で、その血が残っていて魔法が使えるのは貴族とされている。


貴族にとって魔法とは、自らのその血を証明する唯一無二の手段なのだ。

当然、アンナが魔法が使えないということはリレスター家の恥部とまでされ、それが原因で酷い事を沢山言われてきた。

視界の異常の事にまさるとも劣らぬ位、アンナが虐げられた原因となった。

ただ、視界は生まれつきだったけど、魔法が使えない事は発覚が遅かった。


それだけが、アンナにとっての救いだった。


話は逸れたが、アラミスの言う“妖精の祝福”――

アンナもそれぐらいは知っている。


今は殆ど見なくなってしまった純血の妖精が、子供の居る家に現れて、ちょっとしたイタズラを施すのだ。

そして、その子供は妖精達の子孫――つまり、貴族であり、妖精の祝福が施された子供は魔法が使えるようになる――。

もちろん、全ての貴族子供が妖精の祝福を受けている訳じゃないが、それでも、アンナは霧の都に住んでいる間、いつも祝福を待ち望んでいた。


いつまでも自分にだけ現れない魔法の兆候。

一日一日と周りと差を付けられる日々。

焦る母。詰る父。

貴族なのに、私だけ使えない魔法。

そんな自分を叱責して魔法を使えるようにと脅す婚約者のエドワード。

何度も屋敷から閉めだされ、泣きながらひとりで魔法の練習をした。

ひどい仕打ちはたくさん受けた。

魔法を使えないせいで、何度もひどい事をされた。


そんなアンナは、迷信でもすがりたかったのだ。


だけど、その妖精の祝福に妖精が見えるなんて話、聞いたことなんてない。

それも、どうして今になって――


「きっと、姫君はまもなく魔法が使えるようになるんですよ」


ニコニコと上機嫌そうに微笑んで、アラミスは頷く。


「僕の知り合いにもひとり居たんですよ。妖精の姿を見た事がある方が」

「ほ、本当ですか?」


アンナの食いつきっぷりに、アラミスは驚いた顔をしてヒースクリフを見る。

そして、綺麗な顔をむすっとさせて彼の額に指を添えた。

朝と同じくアラミスの指先に緑色の光が灯る。

朝よりもハッキリと見えたような――


「いって! 何するんだこの暴力坊主!」

「やめてください、アラミスさん」

「いくら姫君の頼みでもやめません。貴方が姫君に、未だに“精霊の目”についてを説明していないからですよ」

「は、はぁ?!」


“精霊の目”?

ヒースクリフは、突然の事にアラミスが何を言わんとしてるかよく分かっていない様子だった。

もちろん、アンナにも予想はできない。

ヒースクリフは別に悪いことなんてしていない。

それどころか、目の事については、ヒースクリフにとっても嬉しい事を言ってもらった。

確かに、嘘かもしれないとは思っているけど、ヒースクリフの嘘は人を傷つける嘘ではないし――


――「お前が必要だ」


あの時の言葉。思い出すだけでも顔から火が出そうになる。

アンナは赤くなる頬を両手で抑えてぎゅっと目を瞑った。


「な、お前はどうして照れるんだ!」


照れたのが移ったヒースクリフに、アラミスはじとっとした目を向ける。


「全く、貴方は。どうしてこのかわいい姫君を不安にさせたままでいるのです。全く、貴方は僕の弟子失格寸前です」

「だから何なんだよ! 訳がわからないぞ」


当然ヒースクリフは顔をしかめてしまうが、アラミスはやれやれと頭を振ると、「失礼」とアンナの手を取り優雅にお辞儀をする。

いきなりの事でアンナはびくりと体を震わせてしてしまう。


「な、何してんだよ」


ヒースクリフは立ち上がるが、アラミスが横目で見て微笑んでそれを制する。

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