D・探偵怪盗アセスルファム 共通①
――それは英国のどこか、娯楽のない民にとって探偵と怪盗が華であった時代。
「はあ……」
――深夜の街中に静寂を打ち破る調べが鳴り響く。
せっかく仮眠をとれたのに、目が覚めた事に彼はため息をついた。
巷を騒がせる‘女怪盗アセスルファム’が出たのだ。
彼女の盗むものは絵画でも宝石でもない。
富豪から金品を盗み貧民に与えるような義賊でもない。
被害にあうのはきまって甘い菓子を作って売る店、つまりは菓子屋だ。
「深夜に騒がしいな」
「そうですねタレンス先生」
少女シェガンナは家庭の事情から、タレンスという探偵の元に事務所に住み込みで働いている。
「またアセスルファムが出たらしいよ」
新聞配達の少年キャルフェは文字を左から右へなぞり、アセスルファムの名を指先で叩いた。
「こわいですね」
シェガンナは受け取った新聞をタレンスへ差し出す。
「薄めのコーヒーを」
頼まれた通りに薄めのコーヒーをタレンスへ差し出すと自分の分は濃いめの紅茶を飲んだ。
コーヒーより紅茶のほうがカフェインが高くいし、朝が弱いシェガンナにはそれがよかった。
■
―――ああ、昨日はとても疲れたわ。深夜のケーキ屋に忍び込んで、いつもより早くヤードに見つかった。
目当ての物を回収できたのだから良しとすべきだ。
「カンロ、ご苦労様」
少女は指にコウモリをのせ、昨夜の功績を労った。
「はーあのガキが新聞で名前を差したときはヒヤッとしたぜ」
喋るコウモリの姿をした生物はモンスターと呼ばれてる。
「タレンスは?」
「タレンスの奴なら散歩だぜ」
私が怪盗になる前に瀕死の状態で見つけた。
「つかれたでしょ、明日まで休んでて」
「今だれと話してたんだい?」
外出していた筈のタレンスがすぐ後ろにいた。
「あ、おかえりなさい。どちらにいかれてたんですか?」
「葉巻を吸いにね」
タレンスは落ち着いた印象だが、見た目はまだ若い。
葉巻とは随分と渋いチョイスだと最初は思ったものだ。
「ってさっきも言ったのに忘れてしまったのかい?」
カンロが彼の外出目的を教えてくれなかったので、てっきり何もいわなかったと思った。
《タレンスは行き先なんていわなかったぜ》
「そうでしたか?言ったつもりでは?」
「ああ、そうだったかもしれない」
■
「いつ終わるんだろうな?」
ベッドに入って、もう眠りかけていたところをカンロに声をかけられた。
「わからないわ」
私が怪盗を始めた発端は女王専属の菓子職人であるアパルステム家の宝とも言える調理器具を盗まれたからだ。
「絶対ライバル菓子職人の犯行に違いねえ」
「いつもありがとう」
彼は見た者の姿を真似る力があり、私が怪盗をしている時は変わりにタレンスの助手シェガンナを演じてくれる。
カンロは指で顔を撫でてやると気持ち良さそうに眠りについた。