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一流の証明

作者: 楽部

 私は一流プレイヤーである。走攻守、いずれにおいても秀でている。世の中には超一流というランクも存在するが、それは確固たる成績を残した伝説的プレイヤーないし、それに類する者に対してのみ冠せられる称号であろう。現在の認識不足には疑問を呈したい。よって、私は一流プレイヤーである。私の認識力は高い。


 私は5番バッターである。前を打つ者、後ろに続く者、両者に挟まれた打線の中央に位置している。日本では4番を主砲と呼び、メジャーリーグでは3番打者最強論が持て囃されている。しかし、敢えて違うと断じる。私が要なのである。


 例を挙げて説明しよう。初回、立ち上がり、2アウトではあるが、ランナーが2人出たとしよう。当然、得点圏にランナーが居ることになる。次のバッターは誰か。そう、私である。私がヒットを打つだけで点が入り、試合を優位に進めることができる。まさにクリーンナップ、チーム打点王の仕事である。また、1回は3者凡退だったとしよう。しかし、2回はそうはいかない。私と当たる。私が打つことで、落ち着きかけた相手ピッチャーのリズムを乱し、こちらに流れを引き寄せることができる。以上、お分かり頂けたであろうか。5番バッターこそが最重要であると。


 そして現在、試合は7回裏、1対0とリードされている。相手のエースピッチャーもまた、一流だ。


 2アウトから4番が塁に出た。チームとして、ようやく2本目のヒット。ほぼ完璧に抑えられている。私も前2打席は凡退させられている。しかし、ここである。この場面こそ出番である。ここでエースを打ち砕く。試合をひっくり返す。そうすれば、意気消沈、そのまま逆転勝利となるであろう。


 相手ピッチャーのボールの軌道は見極めた。既にイメージができている。1球目、ストレート。7回となるのに145km、まだまだ速い。しかし、少し外れている。ボール球には手を出さない。2球目、スライダー、ピッチャーの得意とする球種。バットは動かさない、外角に決まる、ストライク。いいボールだ。しかし、今ので再確認した。これをレフトスタンドへ放り込む。3球目は内角へのボール。これは読み通り。反応した素振りも多少見せておく。撒き餌である。さあ、4球目。スライダーをバットで捉える。


 我ながら、見事なパワーに惚れ惚れする。ボールはポールの遥か頭上、しかし、左に切れていった。少し内に入り、真芯で叩き過ぎた球はドライブがかかっていたようだ。大ファール。逆に詰まっていれば、切れずにホームランだった。だが、どうだ、肝を冷やしただろう。ピッチャーは額の汗を拭っている。ふははっ、勝ち誇った表情を示してやる。


 だが、追い込まれてしまった。2ストライクからの打率というのは皆、一様に下がる。一流とて、それは同じである。しかし、言い訳はしない。一流は真っ向勝負である。また、スライダーが来た。外に流れる。他の球種も頭にあった。ズレが生じる、体が泳ぐ。


 一塁ベース上で高らかに胸を張る。一流はチームを鼓舞する。一塁にランナーが居ることで広く開いた一二塁間への、おっつけた流し打ち。繋ぐのもまた、5番の仕事である。状況に応じた判断、まさしく一流の証。後は意外性の6番、出会い頭の7番、思い切りのよい代打陣に任せるとしよう。


 切り替えが早いのも状況判断力の一つ。おそらく、9回は廻って来ない。私は一流の走塁を披露できるよう、足元を確かめながら、やや長めにリードを取った。

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