表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

桜の雨の中で

作者: 月桂樹

「泣くなよ」


そう言って、俺は自分より十センチ低い頭を撫でた。

泣きじゃくってる顔。

ぼろぼろと涙が溢れる。

対する俺は呆れ顔。

涙なんてこれっぽっちも出やしない。


「おら、泣くなってば」

「ひ、ぐ…だっでぇ…ゆうちゃん…」

「ああもうひでぇ顔だぞ。ほら、ティッシュ」

「う…ありがと…」


ティッシュを受け取り、器用に片手で鼻をかみ始める少年。

もう片方は、俺の手と繋がれている。


アキト。


クラスメートであり、同級生であり。

俺の“恋人”だ。


おかしい?非常識?

そんなの、どうでもいい。

少なくとも俺はまじめにそう思ってるし、アキトもそう言ってる。


それに、別に“そういうこと”をしてるわけじゃない。

ただ、手を繋いだり、触れるだけのキスをするだけだ。

そんな、小さな関係だ。


「…ゆうちゃん、公園、行こう?」

「しゃーねぇな」


最初は単なる友達。

いつの間にか、手を繋いで、一緒にいた。


別におかしいと思わなかった。

俺は、どこか壊れているのかもしれない。

だけど、それでも。


幸せだと、思っている。


「見て!見てゆうちゃん!すごいよ!」

「おー、ホントだ。すっげぇ桜」


桜が大好きなアキト。

さっきまで泣いていたのが嘘のように、大喜びで駆け回っている。


桜の雨で、一瞬姿が見えなくなる。


「アキト!!!」


消えるような気がして。思わず叫んだ。


お笑いぐさだ。

消えるのは、俺なのに。


すぐにアキトがこちらに駆けてくる。


「なに!?」

「いや…転ぶなよ?」

「わかってるよー…ふふふ、すごい!…あ!!」


何かを見つけたようで、すぐ戻ってくる。


「はい、あげる!」

「うおっ!?」


小さな枝ごと落ちたようだ。

胸ポケットへ入れられる。


照れくさいし、邪魔だけど。

笑って喜んでいる姿が嬉しくて、しばらくはこのままでもいいなと思ってしまう俺は単純だ。


「そろそろ帰るぞ」

「…やだ」

「は?」

「…もうちょっといたい」

「何言ってんだよ。もう暗くなってきてんぞ?」

「…………」

「おい。アキト」

「やだ!だって、帰ったら…!」


いつもは素直なのに。

なんだって言うんだ。


思わずイラついて、肩を掴んでこちらを強引に見させる。

でも、目は下を見ていて合わない。


「…帰ったら、なんだよ」

「…………」

「なにワガママ言ってんだよ」

「…ゆうちゃんは平気なの?」

「何が」

「ボクと、離れるの平気なの!?」

「…平気なわけ、ねぇだろ」

「不安だよ!だって、引っ越したら、きっとボクのこと忘れちゃう!それで、可愛い彼女とかつくるんだ!」

「つくらねぇし、忘れねぇ!必ず会いに来る!行ってやるよ!!」

「ほんと…?」


涙が浮かんでる目がこちらを見上げる。


「ほんとだよ。約束だ」


ほぼ強引に口付ける。

こわばっていた身体から力が抜けるのを確認し、離れた。


「だから、帰るぞ。別に、生きてりゃ、会おうと思えば会えるだろ」

「…ん、わかった。信じる」

「おう」


家の前。

いつもより離れがたいのは、多分アキトも同じ。


「ほら、アキト、手ぇ出せ」

「なに?」

「約束の証」


渡すのは第二ボタン。

受け取るのを確認し、代わりにとばかりに相手の第二ボタンをむしりとる。


「じゃあな」

「…ん。大好きだよ、ゆうちゃん」

「ああ、俺もだ」


アキトが家に入るのを確認してから、歩き出す。


冷たいモノが、頰を一筋流れた。


気づかないフリをして、俺は歩き続けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーと終わり方がとてもよかったです! [一言] 淡いBL良いですねぇ…(´`* 最高です!w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ