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絶対執事!?  作者: 暇人
◆執事の長い休日
36/85

執事と一騎

 とある路地裏の一本道。月明りが薄く路地裏を照らす中を群青は己の限界のスピードで走っていた。


 暗闇を走りながら、チラリと後ろを振り返る。さっきまで自分を追っていた不良(チンピラ)どもは姿を消している。どうやらうまく撒けたようだ

 そのことに安堵の息を漏らしながら、さらにスピードを加速させる。


 脳がこれ以上走るのは危険だとばかりに警告してくる。脇腹をバットで殴られたような鈍痛が(むしば)み、肺での呼吸が追い付かなくなっているのが分かる。心臓が狂ったように血液を体中にめぐらし、筋肉から筋までが悲鳴を上げている。


 だが、群青はその足を止めない。己の体のことなどどうでもよかった。

 ただ、瑠璃(いもうと)を助け出すことだけが、頭をいっぱいにした。


 がむしゃらに走っていると、開けたところに出た。

 ここで群青はスピードを緩める。


 悲鳴を上げまくっている体を落ち着かせる為なのだが、そううまくいくわけもない。肺に空気を無理やり吸い込ませ、心臓に鞭打って体中に酸素をいきわたらせる。


 悲鳴を上げていた手足の筋肉がだんだん落ち着いてくると群青は体を起こして辺りを見回してみる。


 路地裏にポッカリと空いた広い場所。路地裏にしては異様なほど開いたその場所には、『六丁目』と錆びついた標識がみすぼらしくたっており、その横に『喜島製鉄所』と記された錆びついた看板がコンクリートの上に捨てられていた。


 群青の視線が看板から離れ、左のほうを見つめる。


 そこには、ずいぶん前に廃業になったであろう古びた工場がポツンとあった。錆びついた鉄の壁、叩き割られた窓、入口らしき場所に無造作に置いてある重機からかすかに漂う重油のにおいが群青の鼻をくすぐる。


 重機の傍らには、ダボダボの作業服に黒いニット帽を深くかぶっているため顔はわからないが、十六、七歳くらいの男がキョロキョロとあたりを見回していた。時折手と手を擦り合わせ身を震わせる男を凝視しながら、群青は廃材の影に滑り込むように移動する。


 男との距離は約八mほど、今いる廃材を最後に男の元までの間、障害物が一つもない。しかし、躊躇している暇などなかった。


 群青は身を低く屈め、一気に廃材の影から飛び出し猛然とダッシュした。幸い男は群青と反対側の道を見ている。群青はさらに身を屈めてスピード落とさないまま男の懐めがけ突進する。


 ここで足音に気付いたのか、男の顔がこちらを向き目が合った。

 距離は二m弱。飛び込めなくはないが、その分迎撃されるリスクが高い距離である。


 しかし、群青は構わず突っ込んだ。男はすぐに身構えたが、その時には群青の拳が目の前にあった。


 次の瞬間男は二、三mほど後方へ吹っ飛ばされ、コンクリートに体を激しく打ち付けた。コンクリートの上を勢いよく転がり、投げ出された男は二、三度体震わせると、そのまま動かなくなった。


 群青は男に近づきその襟首をつかむと、ズルズルと引きずり、廃工場の入口らしきところへと入っていった。



◇◇◇



 廃工場は予想以上に廃坑していた。


 入口から入ると重油の匂いがさらに強くなり、同時にカビの匂いが混ざり、思わず顔をしかめた。

 学校の体育館はあろう広さの場所に、ここで精製されるはずだったであろう鉄の塊が無造作に転がっている。屋根がぽっかりと穴を空け、月の光が差し込んでいるのだが、辺りは不気味なほど静かで、寒かった。


 周りを見渡すが、人の気配がまるで無い。


 ココじゃないか? と頭の中で考えるが、現に傍らにのびている男がおそらく見張りとしてあそこにいたことを考えると、ココで間違いはないようだ。


------『僕たち』------


 紙に書いてあった言葉が頭をよぎる。その瞬間、凄まじい光が群青を照らし出した。


 あまりの明るさに目を瞑るも、光が強すぎるため意味がない。さらに、今まで暗闇の中を走っていた分、突然の光に網膜が対応しきれない。


「待っていたよ……桐畑君」

 目が見えない中、ポツリと聞こえた声に群青の体が反応する。

「僕が……誰だかわかるよね?」

 声はおどけた様に言っているが、その声が全く笑っていなかった。

「その声……やっぱてめぇか……」

 群青は歯を食いしばりながら言葉を漏らす。


華原(かはら)……」

 目が光に慣れてきて、そっと目を開けると、窓の近くにおかれた巨大なスポットライトの傍らに。ライトの胴体にもたれる感じで立っている男が笑っていた。


 歳は十七歳ぐらいで身長が低く、やや細身。紺のジーパンにいくつものチェーンをぶら下げ、背中に大きな髑髏(どくろ)が描かれたシャツを身に(まと)い、くすんだ赤色の髪が風に吹かれ棚引いている。


 やや整った容姿の華原と呼ばれた男の手は(きら)びやかに光る指輪をそっと撫でまわしている。普通に笑えばその辺りのアイドルと大差ない顔を気持ち悪く歪め、その不気味な顔を指輪の宝石が反射した光が怪しく照らしていた。


「早かったね、もう少しゆっくりしてもよかったのに……」

「…………」

 群青は何も答えなかった。ただ華原を見ら見つけて腰を屈めた。

「ココに来るまでに何人か待ち伏せにあうはずだけど、意味が無かった様だね」

「……………っとは」

 群青が口を開いた。


「? 何だい?」

 華原がおどけた様に笑うと、その瞬間顔の横に何かが飛んできた。かと思うと、華原の後ろの窓が勢いよく割れる。


 しかし、華原は驚くことなく、ただ不気味な笑顔で群青を見つめた。


 振り上げられている群青の右手には、拳大にもなる大きな石が割れんばかりに握りしめられていた。

「妹はどこだ?」

「………………」

 群青の形相に臆することなく、その姿を冷たく見下す華原。


 その間、沈黙が走る。


「まあそう焦るなよ、まだまだパーティはこれからだよ」

「黙れ!! 妹は……瑠璃は無事なのか!!!」

 華原の言葉をかき消すように叫ぶと、その場から走り出そうとした。が、パン、と軽い音とともに群青の足元の空き缶が後方に吹っ飛んでいく。

 早くて認識し難いが、その缶の腹には、二mm程の風穴が空いていたように見えた。


「だから落ち着けって……」

 先ほどとは打って変わって、ドスの利いた声で言い放つ。


 群青が見上げると、華原が怪しく黒光りする銃を向けていた。

「遠くから(そんなもの)とは、ゲスい真似を……」


「父さんが警察のお偉いさんなんで、(こんなもの)なんか簡単に手に入りるんですよ」

 群青の言葉に、華原はニコッと笑いかける。その完璧過ぎる笑いに、群青の背筋が凍りついた。


 群青は握りしめていた石を離す。広い空間に、石がコンクリートに落ちる音が異様に大きく聞こえた。

「さて、主役も来たことだし、そろそろ始めようか……?」

 華原がそう呟くと、クルリと後ろを向いた。

「どこに行きやがる!!!」

 群青が吠えたが、華原は見向きもしないで手を挙げた。


 その瞬間、スポットライトの光にたくさんの人影が姿を現した。その数は、影からして二、三十、いやそれ以上の人数である。男たちの手には金属バットやらナイフやら金属チェーンやらを引っ提げ、こちらを睨みつけていた。

 雰囲気的に平和的解決ではすまなさそうだ。


 無論、群青も平和的解決(なまぬるいこと)で終わらせる気などさらさらなかった。


 群青は現れた男たちを一通り見まわし、傍らに転がっている鉄パイプに目を落とした。

「それでは……僕が主催した桐畑群青血祭りパーティを心行くまでお楽しみください!!」

華原が完璧な笑顔でそう言うと、不良たちが叫び声を上げせきを切った水のように次々と襲いかかってきた。


 群青はもう一度足元に転がっている鉄パイプに目を移す。そして、無言で鉄パイプ手に取り、有らん限りの力で握りしめる。

(もうココ(・・)には戻ってこないと思ってたけど……)

 小さく息を吐き、目を鋭くさせると、鉄パイプを構えて怒涛の波のように押し寄せる不良たちに突っ込んでいった。

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