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絶対執事!?  作者: 暇人
◆執事の長い休日
35/85

執事と暗闇

「にしても、瑠璃のやつ遅いな……」

 窓を覗き込みながら群青が心配そうに呟いた。

 窓から見えるのは、真っ暗な路地にポツポツと目印みたいに浮かぶ街灯だけでその中で動くものはない。


「う……、んぁ……?」

 不意に後ろから声が聞こえて振り向くと、さっきまで泡喰っていた勇人が手で目頭を押さえながらモゾモゾと起き出していた。

「大丈夫か……?」

「ええ、何かオレンジのTシャツ着た図体デカイ子供に追っ掛けられましたけど」

「大丈夫なのかそれ!?」

「問題ないですよ。それより瑠璃さんは?」

「近くのコンビニ。んだけど帰りが遅いんだよ」

 そう言いながら窓の外に視線を向ける群青と一緒に勇人も目を向ける。


「心配ですか?」

「ん? ……まぁな。この辺街灯少ないからあんまり人通らないし」

「なら尚更、ってことですか……」

 ココで会話が途切れ、沈黙が続いた。ふとテレビに目を向けると天気予報がやっており、今日の夜から明日の明け方まで雨が降ると言っている。


「そういえば……」

 群青が思い出したように勇人を顔を向けて問いかけた。

「お前さ……瑠璃のコトどう思ってんの?」

「えっ?」

 唐突な質問に勇人は変な声を上げた。


「別に変な意味じゃない。ただ年下からだとどう見えるか? ってなんとなく思っただけだ」 窓に寄り掛かりながら群青が念をおすように勇人に言う。その言葉の意味を理解した勇人は再び頭を抱え始める。


 勇人の瑠璃に対する第一印象は失礼だが『小学生』なのだ。なので、正直に言うとまた噛み付かれかれない。


「えっと……ま、まぁ優しい人だな、って」

「他には?」

 群青が何時になく真剣な顔つきで静かに聞き返してくるのでまたもや勇人は頭を抱える。

「後は……温厚なとこ……とか」

「他」

 その後、勇人が何とか考え出した答えを群青は淡々とした口調で首を振り他の答えを求めた。


 まるで期待している答えを待っているかのようにである。


「えっと………、幼そうなとことか?」

「駄目だ、他」

(何が駄目(・・)なんだよ……)

 群青に背を向けて考えるフリをしながら勇人は唇を尖らせた。あらかた考え付くものは言ったが彼は首を縦に振ることはなかった。


(何を待っているんだろう? もういっそ捨て身覚悟で言ってしまおうか?)

 しばらく考え込んでいると、不意に勇人の肩に手が置かれた。


「素直すぎるとこ、とか?」

 振り返ると、群青が苦笑いを浮かべている。

「え……」

「あと疑うことをしないとか?」

 群青の問いに勇人が口に手を当てながら考える。


「……確かに自分が言うのも何なんですけど……。瑠璃さん簡単に自分(たにん)の言葉を信じてしまうところが……」

「ふ~ん。良く見てるな」

「それほどでも……」

「じゃあさ」

 群青は窓に寄り掛かるのを止めて勇人に向き直った。さっきの表情とは打って変わり、顔を少し歪めながら何処か恐れるように口を開いた。


「人殺しの兄がいてもか?」

「……え?」

 群青の口からこぼれた言葉に勇人の身体が強張った。群青を見ると、少し後悔したように苦笑いを浮かべていた。


「……どうだ?」

「え……あ……えっと」

 群青が念を押すように問いかけるのを、勇人は視線を外しながら口を濁した。


 そのまま重々しい沈黙が走る。


 群青は相変わらず苦笑いを浮かべ、勇人はどう反応して良いのか分からずに黙りこくっていた。




「……な~んてな。冗談だ」

 群青はそう言うと勇人の頭にチョップをかまして笑みを溢した。


「何真に受けてんだよ。俺が殺しなんてするわけないだろ?」

「え……あ、そ、そうですよね!! もう群青さん変な冗談は止めてくださいよ!! ビックリするじゃないですか!!」

 群青の手を振り払いながら勇人も笑顔でそう言う。その言葉に群青は「悪い悪い」と謝りながらリビングを出ていった。



「…………冗談だよね?」

 廊下へと消えていった群青の背中を見ながら、勇人は何処か不安げな表情で呟いた。



 その時―――――。


 突然目の前の窓ガラスが弾け飛ぶように粉々に砕け散った。その後に窓ガラスが割れる耳をつんざくような音が聞こえた。

「っ!? な、何……だ……」

 咄嗟に顔を庇ってケガをすることは無かった。 キッチンの方からドタドタと群青も勇人と同じように走ってくる。


 勇人が急に立ち止まり驚愕の色を浮かべて床を見つめる。


「何だ!? 何があった!?」

 群青が荒い息も構わず叫ぶ。勇人は何も言わずに震える指で床を指す。群青はその先に目を向けた。


《桐畑群青くん


 君の妹さんは僕たちが預かった。返して欲しかったら、6丁目の廃工場へ来てよ。


 あの時の約束(かり)、今返してあげるよ。僕が誰だか分かるよね?


 じゃあ待ってるから、必ず来てね。


 PS.警察に連絡した時、妹さんの身の保証は無いよ もちろん君もね》


 真っ赤なインクでそう書き殴られたクシャクシャの紙が大きな石と共に粉々になったガラスの中に転がっていた。


 おそらく塀の外から投げ込まれたものらしい。


 さらに、石はちょうど群青が立っていた場所に転がっている。あたかも今の今まで狙われていたことをわざと示しているように思えた。


 突然のことに思考回路がまとまらない勇人と、書き殴られた紙を静かに手に取り文面に目を通す群青。


「やろぅ……」

 群青が小さく吐き捨てると、ものすごいスピードで居間を飛び出した。一秒遅れて勇人も群青の後を追う。 これから群青が何をしようとしているのかすぐに理解できたからだ。


 群青は真っ直ぐ玄関に飛び込むと、無理やり足を靴に捻じ込み、踵が入りきってないのも構わず玄関を出た。


 素早くあたりを見回し、どの方向が六丁目かを確認する。


「ま、待ってくださいよ!!」


 後ろの声に振り返ると群青と同じような格好で勇人が出てきた。群青は勇人に構わずすぐに踵を返し、走り出そうとした。


 が、群青の手首を勇人が掴んだ。


「何す……」

「一人で行ったらダメです!!」 モノスゴイ剣幕で言い切る勇人の手は自然と群青の手首を締め付けた。


「紙にも『僕たち』って書いてありましたでしょ? つまり相手は複数人いるってことです!! そんな中にのこのこ一人で行ったら袋の鼠ですよ!!」

 勇人の訴えに群青は俯いたまま動かない。


「ここは警察に連絡しましょう。紙には連絡するなって書いてあるけど、相手(むこう)が四六時中ココを見ているわけないんですからしたって問題はありません」

 手紙に目を落としながら告げる勇人に向かい合うように群青音もなく動いた。


「自分が警察に連絡するんで、群じょ……」

 勇人が携帯を取り出した瞬間、群青の拳が勇人の顔面に思いっきり突き刺さった。


「っぐふ!?」

 そのまま吹き飛ばされるように勇人は二、三m先の木材置き場に叩き付けられる。一瞬何が起こったのか分からなかった勇人は折れた木材の上にだらしなく手足を投げ出し、数m先で拳を握りしめている群青を見つめた。


 群青は握りしめた拳をほどき、勇人に近づいてきた。だんだんと距離が縮まっていき、彼の息遣いが微かに聞こえてきた。そして、勇人が倒れる数歩前で立ち止まり、見下すような態勢で口を開く。


「お前は来るな」

「は!? な、何言って……」

「来るな」

 群青の口から発せられた言葉は自然と勇人の身体を強張らせた。


「これは俺の問題だ。俺自身がカタをつける。誰にも手出しはさせねぇし誰も信じられるか……」 ただそれだけ呟くと、群青は踵を返し歩いていく。


 その姿を呆然と見ていた勇人は、我に返って木材の残骸から這い出て群青の後を追おうとする。


「来るな」

 群青が振り向きざまに鋭く言い放つ。群青の目とあった瞬間、勇人の体がピタリと止まった。


 そのまま動かない勇人を見向きもしないで走り出した群青は、どっぷりと暗い闇に溶け込むように消えていく。

 動かない体に鞭打って群青の後を追いかけろと脳が命じているのに、勇人の身体は命令を拒否した。足が、手が、体が、その場に縫いつけられたように動かない。


 目の前で消えていった群青は、いつもの群青ではなかった。

 その眼はただ冷たく、憎しみを込めた自分(あかのたにん)に向けられていたものだった。


勇人はただ群青が消えていった暗闇をじっと見ることしかできなかった



◇◇◇



 そのまま数時間が過ぎたような感覚とともに、体中の神経が自分のものになってきた。

 勇人は今まで暗闇に向けていた目を近くに落ちている携帯に移し、もぞもぞと携帯に手を伸ばす。


 携帯の画面を開きいくつかボタンを押してみるが全く反応がない。スピーカーに鼻を近づけると、かすかに金属の異様なにおいが鼻をくすぐった。


 どうやら先日の雨で壊れたらしい。


 そう解釈した勇人の目に『防水』と書かれたシールが映る。「できてないじゃん……」

 小さく笑いながらつぶやいた。ポケットに携帯を滑り込ませながら辺りを見回してみる。そして、少し体を反転させ暗闇のある一点を見つめた。


「いい加減出てきてくれませんか?」

 勇人がそう言った瞬間、暗闇から一つの影が猛スピードで勇人に突っ込んでいった。

 体格からして男だろうか、マスクをしていて顔が判別できない。その男の手の辺りには、銀色に光るものが一瞬見えた。


 男は勢いをつけて勇人に飛びかかった。その手のナイフを勇人の体に突き立てるために。


 しかし、勇人が速かった。


 次の瞬間、男はその場に押さえつけられる形で倒れ、勇人に片腕をとられていた。


「じゃあ、お願いしますね」

 静かな口調とは裏腹に勇人は男の腕をとる腕に少しずつ力を込めていく。力を込めるのと比例するかの様に、男の悲鳴が大きくなっていくのもお構いなしにだ。


「あんたたちのボスが居るという……六丁目の廃工場まで、ね?」

 勇人が二ヤリと不気味に笑うと、バキッという音鋭い音が路地に異様に大きく響き渡った。

9/28 修正

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