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絶対執事!?  作者: 暇人
◆執事決定戦
19/85

執事と助言

『では二回戦、料理対決を行います』

唐松の言葉に会場中からどよめきの声が上がった。


『ルールは簡単、制限時間60分の間にそれぞれ自由に調理してもらい、速さ、手際のよさ、丁寧さ、見た目、もちろん味を5段階評価で私と孝章様とで合計50満点で評価します。その中で上位4名が準決勝にこまを進めることが出来ます。料理については一つのテーマに沿って作っていただきます。なお、テーマ発表は調理開始直前に発表いたします、以上!!』


唐松の流れるような説明の後、勇人は由利の元へと向かっていた。無論、由利に料理のアドバイスを聞くためではなく、孝章の好物は何かと聞くためである。


「う~~ん、孝章にはコレといって好物はないわね?」

「無いん……、ですか?」


「あいつは雑食って言えば雑食だけど、生まれてから高級な料理(もの)しか食べていないっていう超ド級の雑食なの。和食から中華、エスニック、イタリアン、フレンチみたいな主だったものは口にしているはずよ。多分そこいらの美食家よりも舌が肥えているんじゃないかな?」


「そう……、ですか……」

由利の言葉に少々黙り込む勇人。


孝章のフィアンセである由利なら彼の好物くらい知っていてもおかしくは無いはずだとタカをくくっていたが、予想外にも由利は分からなくない様々な料理に精通している。さらに、彼は舌が肥えている。おそらく、平均並みのものなんか出しても、『マズい』の一言で終わってしまうかもしれない。


「勇人君……?」

「えっ? は、はい!!」

急に叫んだ勇人に驚きながらも、晴子はこちらを覗きこむように聞いてきた。


「もしかして……、何を作ればいいのか分からないのですか?」

「え!? な、なわけない……」

「顔に書いてありますよ?」

心配そうに顔を覗き込む晴子に、勇人は小さく苦笑いを溢した。


「分かっちゃいます?」

「勇人くん、分かりやすいですから……」

「いや、まぁ……。そうなんですよ……」

さすが伊達にメイドをやってない、と思わず思ってしまうほど的確な読みに、勇人はついつい本音が出てしまう。


「それならいいこと教えてあげてもいいですよ」

「ほ、ホントですか!!?」


晴子の言葉に、顔を近づけながら目を輝かせる勇人。しかし、晴子はプイッと顔を背けてしまった。


「え、ええ!! ただし条件がありますよ?」

「条件?」

晴子の言葉に、少し怪訝な顔をする勇人。


安乃条家の人の中でいまいち心が読みにくい人。安乃条家の中で一番の権力を振るうといっても過言ではないかもしれない人が条件を突きつけてくるなんて普通のことじゃない。更にこの人は平気で人に薬を盛る超ドSだ。その場にかこつけて、とんでもない条件を出してくるかもしれない。


そんなことを思っている勇人に、晴子は真剣な顔を向けた。


「教えるからには……、勝ってくださいね?」


コレが彼女の出した条件であった。至極シンプルで、簡単で、分かりやすいものだった。余りのシンプルさに、勇人はポカンと口を開けて晴子を見つめ、やがて小さく笑みを溢した。


「……はい、任せてください!!!」

勇人は満面の笑みで答える。その答えに満足したのか、それにつられて晴子も笑みをこぼす。

「それで、アドバイスといったところでしょうか……? それはですね……」

勇人は晴子の言葉を聞き漏らさないと、食い入るように見つめる。


そして、晴子の口がゆっくり動いた。



「平均以下のものを作ることです」


「……はい?」


晴子の言葉に耳を疑う勇人は、間抜けな声を上げた。

「あの、すいません、もう一度言ってもらえますか?」

「だから、平均以下のものを作るんですよ」

「…………」

再度晴子の言葉を聴くが、先ほどと同じような答えしか返ってこない。


孝章は舌も肥えていて、平均並みのものでは駄目だ。しかし、目の前の完璧(パーフェクト)メイドさんは、平均並みよりも下の、平均以下のものを作れ、といっている。言葉の矛盾が起こり、頭がこんがらがってきた。


「なに知恵熱出しているんですか?」

晴子が怪訝な顔して問いかける。

「いや……、ち、ちょっと待ってください……」

頭の整理が出来ていない勇人は湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして考え込んでいる。そんな勇人を見て、晴子は小さくため息を溢した。


「……まあいいです。じゃあ頑張ってくださいね」

「あっ!? ち、ちょっと待って!!」

「なんですか?」

晴子は勇人に呼び止められて振り返る。

「あの……、平均以下のものを作るって……、どういうことですか?」


「……、言葉通りですよ」

勇人の問いに、晴子は至極当然のような言い方をする。

「……い、意味がまった……」

「それを読み解くのも執事として必要なことではなくて?」


晴子が小悪魔っぽく笑うと、前を向き直って歩いていこうとする。

「いや、ちょっと!!」


勇人は晴子の腕を掴もうとするが、まるで生きたうなぎが人間の手から逃げるように、晴子の腕が勇人の手をすべり抜けていく。晴子は再度小悪魔っぽい笑みを見せ、そのまま扉の向こうへ消えていってしまった。


一人残された勇人は呆然とその場に突っ立っている。

「『平均以下のもの』って……、どういう意味だよ……?」

勇人がポツリと小さく呟く声が、静かな部屋に異様に大きく響き渡っていた。

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