5話 鎧竜
人類の領土内に位置する基地、そこの大隊長の執務室に客人が来ていた。
「大隊長、お会いしたいという者がおります」
「誰だ?」
「先日、轟雷竜ルベルを討伐したタイガです」
「用件は?」
「轟雷竜ルベルの鎧竜について、話があるそうです」
「わかった、通せ」
「承知しました」
重い扉が開かれてタイガは執務室に入室した。中には大隊長とその補佐官の二人がいた。重苦しい空気に包まれており、発言の一つにも許可が必要だった。
しかしタイガはそんな空気にまったく怯む様子はなかった。大隊長の前まで歩みを進め、発言の許可を待った。
「まず先に、君にはお礼を言わせてくれ。先日の轟雷竜ルベルの討伐、見事だった。あれのおかげで基地の士気も上がり、人類の勝利に一歩近づくことが出来た」
しゃがれた声の大隊長はタイガの活躍を褒めた。
「君の仲間のことは残念だった。優秀な者たちだったと聞いている」
大隊長はタイガの仲間が全滅したことも報告されていた。そして彼らの働きがルベルを倒す足がかりになったことも。
「それで、今日はルベルの鎧竜について話があると聞いている。何か提案があるのかね?」
「はい。一つ要望があり、今回の場を用意して頂きました」
タイガは大隊長の目を真っ直ぐ見つめて要望を話した。
「轟雷竜ルベルの鎧竜を、私に乗らせてはもらえないでしょうか」
「なるほど、そのことか……」
大隊長はタイガの言いたいことを察した。タイガは戦線に復帰する気でいて、新たな戦力としてルベルの鎧竜を求めたのだ。
「本来、鎧竜の操縦権はその竜を討伐したものに与えられる。確かに君にはその権利がある」
鎧竜に乗る権利は討伐者に与えられる。そうすることで竜を倒すモチベーションを作り、また鎧竜騎手の格を示すのだ。
実戦の中で鎧竜を強くしていくことで、鎧竜騎手の強さを直接的に示すことが出来る。
大隊長の言うとおり、ルベルにトドメを差したタイガにはルベルの鎧竜に乗る権利がある。しかし大隊長の顔は渋かった。
「君には資格はあるが、私の個人の見解としては、君には向いていないと言わざるを得ない」
大隊長がタイガがルベルに乗るのを渋るのには理由があった。それはタイガの鎧竜騎手としての腕前だ。
タイガはお世辞にも鎧竜騎手としての腕前が高いわけではない。
ルベルの鎧竜は戦力として、とても貴重なものだ。巨大な体躯に圧倒的な膂力、そして赤雷を操るという異能。
「私は、ルベルはもっと腕の良い鎧竜騎手が乗るべきだと考えている」
腕の良い鎧竜騎手がルベルを操れば、戦力は飛躍的に上昇する。そのため凡百な才能のタイガには乗らせたくはないのだ。
「それはわかっています。しかし御言葉ですが、今ルベルを操れるのは自分しかいないと思います」
実は現在、ルベルについて一つの問題があった。それはルベルを操れる鎧竜騎手がいないのだ。
理由はルベルの残滓だ。
残滓、それはまれに竜の死後も体に残る竜の意思のことだ。これは神経接続した鎧竜騎手に悪影響を及ぼす。
竜の意思に飲まれると破壊衝動に支配されて、暴れ回ってしまうのだ。そのため残滓がある危険な鎧竜は処分されてきた。
しかしルベルの鎧竜は貴重なため、処分されていなかった。大隊長としては腕が良く、ルベルの残滓に耐えられる者を探したかった。
だが中々そんな都合のいい人物は現れなかった。
「君ならルベルの残滓に耐えられると?」
「はい」
「随分な自信だな。わかった。一度だけ試す機会を与える。ルベルを操れると証明してみせろ」
「ありがとうございます」
大隊長はタイガの瞳に覚悟を感じ取った。竜を絶対に殺すという強い覚悟だ。
大隊長から許可を得たタイガは執務室を後にした。
「よろしかったのですか? 彼に任せて」
「ルベルは捨てるには惜しい鎧竜だ。操れる者がいるならそれに越したことはない」
大隊長はタイガに一縷の望みを託した。
※
許可を得たタイガはルベルの鎧竜の前にいた。ルベルの体躯は、他の鎧竜と比べて非常に大きく屈強だった。
鎧竜に改造されても尚、その生命力を感じさせていた。
竜は殺されて人類に回収されると、損傷が軽微なら鎧竜に改造される。ルベルも翼膜を移植し、逆鱗を貫かれた跡を機械鎧で塞ぐことで鎧竜となった。
鎧竜は五十年前に発明された技術だ。以前は生きた竜を調教することで運用していたが、ある時期を境にそれが不可能になった。
白竜アルバデウスの出現である。
アルバデウスはまさに竜の神だった。生きた竜を自分の意思のままに操ることが出来るのだ。そのため人類が調教した竜すらも支配下にいれられたのだ。
アルバデウスの支配から逃れるには、死んだ竜を使うしかなかった。そのため特殊な機械鎧を付けて、生きる屍と化した竜を操ることになったのだ。
タイガは鎧竜騎手の装備を付けると、ルベルの上に乗り、神経接続をした。
「くぅっ!?」
一気にルベルの残滓がタイガに流れ込んできた。体の中を這い回る気持ち悪い感覚がタイガを襲った。
タイガの思考が霞んできて、破壊衝動に支配されそうになった。
鎖で拘束されたルベルが暴れ出しそうになった。周りの鎧竜騎手たちが構えた。暴れ出したら、ルベルを力尽くで抑える算段なのだ。
「これが、残滓かっ!」
タイガは残滓のコントロールについてある人から聞いた事があった。
かつての部隊の仲間、副隊長のカレンだ。
カレンは生前、鎧竜の残滓に悩まされていた。そのときカレンは竜の残滓の抑え方を口にしていた。
「圧倒的な怒りがあれば抑えられる。私は竜への憎しみが勝ることで残滓を抑えていた。たかがデカいトカゲに操られない、そんな意思も持っているのさ」
タイガはルベルへの憎しみで自分を埋め尽くした。仲間を殺された憎しみ、それを思い出していた。
「お前がこれまでに殺した人の、何百倍の数の竜を、お前の力で殺してやるっ!」
タイガは圧倒的な気迫を放っていた。あまりに鬼気迫る表情に、周りの鎧竜騎手は固唾を飲んで見守っていた。
「皆の想いは、決して無駄にしない! 俺が竜を殲滅するんだ!」
そして暴れそうになっていたルベルを、タイガは抑えきった。タイガは荒く息を吐いていた。
「制御、出来たのか?」
「はい、鎖を外してください」
「わ、わかった」
鎖を外されたルベルを歩かせるタイガ。一歩ごとに大きな振動が基地を揺らした。そして屋根のないところまで歩くと、ルベルの翼をはためかせた。
翼がはためくたびに大きな風が巻き起こった。そしてタイガはルベルを空に飛ばした。その姿は圧巻で、見る人を畏怖させた。
ルベルを操るタイガの姿を見て、ギャラリーの隊員たちは沸き立った。
「ルベルの力があれば、本当に竜を殲滅出来るかもな!」
ルベルを操るタイガは人類の新たな希望の象徴となった。
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