4話 心的外傷
葬式と褒章式が終わって、タイガは休暇を与えられた。轟雷竜ルベルとの激戦を終えて心身ともに疲弊していたからだ。
戦場から離されたタイガは自分が何をすべきか悩んだ。今のタイガに出来ること、それは仲間の墓に供えるものを作ることだった。
タイガたちはもともと任務を終えたら恒例の食事会をする予定だった。祝勝会という名目でタイガの料理を食べていたのだ。
作る料理は仲間にリクエストしてもらっていた。順番に作っており、その権利を争うこともあるほどだった。
タイガが料理をするようになったのは家庭の事情があったからだ。
タイガの家は兄妹姉妹がたくさんいて、また親が仕事で不在になることが多かった。大家族を養う金を稼ぐために、懸命に仕事をしていたのだ。
タイガは長男に産まれたため弟や妹の世話を両親に代わって行っていた。その一環で料理もするようになったのだ。
弟や妹に美味しいものを食べて欲しいという思いから、料理に力を入れるようになった。タイガは才能があったためメキメキと料理が美味くなっていった。
何より美味しそうに食べてくれて、笑顔を見せてくれることが嬉しかったのだ。
タイガが仲間に料理を振る舞うようになったのは、休暇中にケイシーと話したことがキッカケだった。
「タイガくん、趣味とかあるんですか?」
「趣味か、強いて言えば料理かな」
「料理得意なんですか! 今度食べさせてください!」
「わかった。何か食べたいものはある?」
「カレーライスがいいです! 大好物なんです!」
タイガは基地のキッチンを借りてカレーライスを作った。そこにケイシーがやって来た。タクマとカレン、アレクを連れて。
「皆来たんですね」
「ケイシーが嬉しそうに自慢してきたんだよ。タイガの美味しい料理が食べられるってな。それでどんだけ美味いのか確かめに来たんだ」
アレクはキッチンに来た理由を話した。
「タイガくん、急ですいません。隊長たちの分もありますか?」
「大丈夫。たくさん作ったから」
タイガはカレーを鍋一杯作っていた。ケイシーと食べて、余ったら他の隊員たちにお裾分けしようと考えていたのだ。
「そんじゃあ、味わわせてもらおうか」
アレクはタイガの料理の腕をどんなものかと吟味する気でいた。タイガはテーブルに付いた仲間の前にカレーライスを持って来た。
「美味そうじゃないか」
「良い香りだ」
タクマとカレンには好印象だった。
「早く食べましょう! いただきます!」
大好物を前にしたケイシーは待つことが出来なかった。すぐにスプーンでカレーを掬って食べ始めた。
「美味しーい! すごい美味しいですよ! 厨房係のものより断然美味しいです!」
ケイシーは一口食べるとタイガのカレーライスを大絶賛した。
「そんなに言うほどか?」
アレクはまだタイガの料理の腕を疑っていた。アレクは一口分掬うと、ゆっくりと口に運んだ。
「んっ!? け、結構美味いじゃねぇか」
「先輩は素直じゃないなー! ちゃんと褒めてあげましょうよ! タイガくん、最高です!」
カレーライスを食べたアレクはその美味しさに驚いていた。油断していたところに極上の料理を持ってこられて、言葉を詰まらせていた。
そんなアレクに代わりケイシーがお礼を伝えた。タクマもカレンもケイシーと同じ意見だったのか頷いて賛同していた。
皆が夢中になって食べてくれる様子にタイガは嬉しそうにしていた。
この一件があり、部隊にタイガの料理の腕が広まったのだ。
「タイガ、ローストビーフとかも作れるか?」
「はい、作れますよ」
「ならよ、今度作ってくれよ」
「あ! 先輩、ズルい! 私も他に作って欲しい料理があるんですよ!」
「ケイシーは今回リクエストしたんだから、次は俺の番でいいだろ」
言い争うアレクとケイシーをタクマとカレンは微笑ましそうに見ていた。こうして部隊に、任務後にタイガの料理を食べるという習慣が出来たのだ。
※
タイガは仲間の墓に供える料理を作るために、厨房係に食材を融通してもらいキッチンに入った。
キッチンには今はタイガ以外に誰もいなく、がらんとしていた。賑やかないつものキッチンと対照的で静かだった。
タイガはエプロンを着けると、料理を始めた。
キッチンに包丁の音が小さく響いた。食材を切って下処理を行ったタイガはいよいよ味付けをしようとした。
しかしそこで問題が生じた。
味がしないのだ。何も、感じなかった。舌からの情報がゼロだった。
「そんな、何でっ!?」
どんな調味料を口に入れても味はしなかった。タイガは味覚障害になっていた。
「これじゃあ、美味しい料理を作れないっ!」
タイガは半端なものを仲間の墓に供えたくなかった。そのため料理を一旦切り上げて軍医のところに行った。
「どうしたんだい?」
中年の軍医は突然やって来たタイガのことを心配した。戦いの後遺症があったのかと思ったのだ。
「味が、しないんです……っ!」
軍医はタイガに検査をした。脳に異常はなさそうだった。体にも目立つ怪我はなかった。
「もしかしたら心的外傷が原因かもしれないね」
「心的外傷、ですか」
心的外傷、それは生命の危機などの極限の体験によって心に傷を負うことだ。
「おそらく、ルベルとの戦いで仲間を失ったことがキッカケでしょう」
心的外傷は自分の生き死にだけで起こるものではない。親しい仲間の死に直面したことでも起こるのだ。
「治す手立てはありません。時間が解決してくれるのを待つしかないです」
診察が終わり、タイガは軍医のもとを後にした。
タイガは部屋に戻り、ベッドで横になった。静かに天井を見つめた。そして自分の存在意義について考え始めた。
(俺は、何が出来るんだろうか?)
得意の料理も出来なくなり、仲間の墓に供えるものを作ることすらも出来ない。
タイガはアイデンティティが崩壊しかけていた。料理も作れない。鎧竜の操作も上手くない。自分がここで出来ることはあるのかと。
(皆が生きていたら何と言うだろうか?)
大人しく鎧竜騎手を辞めろと言うかもしれない。それとも無理にでも戦わせるのだろうか。
(あそこで俺が代わりに死んでいれば……)
タイガは自分が生き残った意味を考えた。死んでいった仲間の願いはタイガしか知らない。仲間の意思を継げるのはタイガしかいなかった。
しかしタイガには力がない。鎧竜騎手としての腕は亡くなった仲間の方が上だった。
己の無力を嘆くしかないタイガ。
そのときに天啓が降りた。
(そうだ、ルベルがいるじゃないか)
タイガがトドメを差したルベルは今頃、鎧竜に改造されているだろう。それを使えば力を手に入れられると思ったのだ。
(皆の願いを、竜のいない世界を実現しなくちゃ。俺が、実現させるんだ。それが皆に生かされた意味だっ!)
タイガの考えは固まった。自らの命をなげうってでも、仲間の意思を継いでみせると。
竜のいない平和な世界のために、身を粉にして戦ってみせると覚悟した。
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