3話 別れ
仲間たちの死体の横にただ立ち尽くすタイガ。そこに救援の鎧竜騎手の部隊が到着した。近くの艦船から急いで飛んで来たのだ。
救援の鎧竜騎手たちは空から急降下してきた。そして一人で竜の死骸の横に立つタイガの下へ近寄った。
「おい! 大丈夫か!? 何があった!?」
周りにはタイガの部隊の仲間たちが寝かせて並べてあった。そして動かなくなった鎧竜と巨大な竜の死骸があった。
「報告出来るか?」
鎧竜騎手はタイガに説明を求めた。
タイガ虚ろな目をしたまま小さな声で報告を始めた。
「島に上陸後、轟雷竜ルベルと交戦。ルベルは討伐出来ました。しかし部隊は自分を除いて全滅。皆、死んでしまいました……」
「わかった。無理に話させてすまない」
鎧竜騎手は疲れ果てたタイガに肩を貸した。この場から退避させるためだ。
「竜の残党がいないか索敵しろ! そして亡くなった隊員と艦船までお連れしろ!」
鎧竜騎手たちは小島の安全を確保した。そして近くの艦船までタイガと亡くなった仲間たち、鎧竜、轟雷竜ルベルの死骸を運んだ。
小島に竜の残党はいなかった。鎧竜騎手は無線で報告を始めた。
「小島の竜の巣の破壊を確認。危険度Aクラスの轟雷竜ルベルを討伐成功。しかし被害は甚大で、先に上陸していた鎧竜騎手部隊は、一人を除いて全滅。報告は以上。これより島から帰還します」
そして鎧竜騎手たちは竜の巣のあった小島を後にした。
艦船に運ばれたタイガは医務室で寝かせられた。憔悴しきっており、起きているのが不思議なほどだったからだ。
タイガは横になると気絶するように眠りに就いた。
タイガの部隊の仲間たちは船の一室に安置された。そして任務を終えた艦船は鎧竜騎手を乗せて基地に戻った。
※
艦船が基地戻ると、そこにいる鎧竜騎手や隊員たちが沸き立っていた。なぜなら危険度Aクラスの危険な竜、轟雷竜ルベルが討伐されたと聞いたからだ。
ルベルは艦船から降ろされて、基地の中に運ばれた。これからルベルは鎧竜となり人類の貴重な戦力になるのだ。
「でっか、これをたった五人で倒したってマジかよ……」
「大金星だよな。でも部隊は全滅したんだろ?」
「一人生き残ったらしいぞ。確かタイガってやつが」
基地ではすでにタイガたちの部隊の功績が噂されていた。タイガたちを英雄視する声も少なくなかった。
轟雷竜ルベルの討伐はそれほどまでの偉業なのだ。
危険度Aクラスの竜は大勢の鎧竜騎手たちが戦っても勝てるかわからないほどなのだ。そのため一匹でも倒せて、さらに持ち帰って鎧竜に出来たことは素晴らしい戦果だった。
そして基地に着いた艦船からタイガが降りてきた。タイガはうつむいたまま基地に入った。タイガに続いて仲間たちの遺体が船から降ろされた。
事前に艦船から基地に報告があったため、すでに仲間たちの家族が来ていた。安置所に移された遺体と家族が対面した。
「あぁ、そんな……っ! タクマさんっ!」
タクマの嫁とまだ小さい子供が安置所に入った。タクマの嫁は死を悲しみ、むせび泣いていた。小さい子供はまだタクマの死がわからず、悲しそうに泣く母を見つめていた。
そこへタイガが入室した。
「タイガくん……」
タイガは仲間の家族に会わせる顔がなかった。しかし生き残った者の責任として、最後の姿を伝えないわけにはいかなかった。
タイガはタクマの嫁に頭を下げた。どんな罵倒でも受ける覚悟だった。
しかし掛けられた言葉はとても優しいものだった。
「あなただけでも生き残ってくれた良かった……っ!」
その言葉を受けてタイガは泣きそうになった。
「タクマさんは、人類の平和のために戦っていました。いつかこの日が来ることもわかっていました。タクマさんは勇敢でしたか?」
タクマはよく竜を倒した後の世界の話をしていた。
「竜がいなくなったら、子供にはこの世界で楽しく自由に過ごして欲しいんだ。命の危険がない平和な世界、素敵だと思わないか?」
タイガは涙を堪えてタクマの最期を伝えた。
「タクマ隊長は勇敢でした。他の人たちに危険がいかないように、轟雷竜ルベルから逃げませんでした。そして最期は自分を庇って竜の攻撃を受けました。自分が生きているのは、タクマ隊長のおかげです」
「そうなのね」
タクマの嫁は遺体に近寄った。
「タクマさんのおかげで世界は平和に近づいたわ。ゆっくり休んでください」
タクマの嫁は冷たくなったタクマの手を強く握った。タクマの嫁は震える声で労りの言葉を掛けた。
タイガは別れの時間を邪魔しないように、部屋から出て行った。
その後タイガは他のカレン、アレク、ケイシーの家族とも会ってきた。皆タイガのことは責めずに、むしろ遺体を持ち帰ってくれたことに感謝していた。
竜との戦いは熾烈だ。遺体を持ち帰ることは難しく、竜との戦いで激しく損壊してしまうことも珍しくない。
仲間の家族は、綺麗な死に顔の家族と会えて良かったと言っていた。
タイガはケイシーの両親と顔を合わせると、まずお礼を言われた。
「初めまして、君がタイガくんか。今回はケイシーの仇を討ってくれてありがとう」
タイガは何と言えばいいかわからなかった。自分があと一歩早かったらケイシーを助けられたかもしれないのだ。
それなのに逆にお礼を言われた。タイガは自分の不甲斐なさを悔しがった。
「ケイシーからよく手紙が来ていてね、タイガくんは同期で一番仲が良かったと聞いているよ。タイガくんの料理が何よりの楽しみで、いつも助けられていたと」
「もったいないお言葉です……」
タイガはケイシーのことを思い出していた。明るく頼りになる仲間だった。そしてルベルに殺されるときの顔が脳に焼き付いて離れなかった。
「実はケイシーはタイガくんに想いを寄せていたみたいなんだ。いつもタイガくんとの出来事を楽しそうに手紙書いてくれていたよ」
「そうだったん、ですか……」
「タイガくん、君のおかげでケイシーに別れを言うこと出来た。本当にありがとう」
ケイシーの両親に挨拶を終えたタイガは部屋を出た。そして基地内の人気のないところで座り込んだ。
(何で俺が生き残ったんだ……。一番足を引っ張っていた俺が)
タイガは苦悩していた。自分が生き残ったのも、ルベルにトドメを差せたのも、全て仲間の犠牲があったからだ。
しかしタイガはこれから、その犠牲に見合うだけの働きが出来るかわからなかった。
タイガの鎧竜騎手としての実力はそこまで高くはなかった。中の下といったところで、部隊で一番弱かったのだ。
タイガはうつむいて歯を噛みしめた。自分の実力のなさを嘆いたのだ。
※
数日後、タイガの部隊の仲間たちの葬式が行われた。皆人望があり、家族以外にも多くの隊員が参列した。
葬儀はつつがなく進行した。鎧竜騎手の葬式は珍しいものではない。作戦のたびに誰かが亡くなっている。
それでも悲しみに慣れることはない。仲間が亡くなると胸が張り裂けそうになる。親しい人だとそれは何倍にもなる。
葬式が終わると次に行われたのは褒章式だ。
轟雷竜ルベルを倒したことを基地の内外、人類全体に知らせて士気を上げるために行われるのだ。
討伐の功労者としてタクマ、カレン、アレク、ケイシー、そしてタイガが褒章された。唯一の生き残りであるタイガが代表して褒章された。
大隊長から勲章を渡されタイガ。しかしその顔は晴れなかった。
参列した隊員たちからは惜しみない拍手が送られていた。しかしタイガの胸には何も響かず、ただ通り抜けていくだけだった。
晴れた空に、ただ無情に式典の音楽が鳴り響いていた。
読んでいただきありがとうございます!
気に入っていただけたら評価や感想、ブックマークなどお願いします!




