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鎧竜戦記  作者: 詠人不知
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2話 轟雷竜ルベル

「ケイシー、交戦します!」


 竜の巣に近づき、戦いが始まった。最初に竜と戦うのは最前線にいるケイシーだ。ケイシーは向かってくる竜の群れに突っ込んでいった。


 そして竜の間をスルリと抜けると、すれ違い際に鎧竜に装備した刃で竜を切り刻んでいった。切られた竜は海に落ちていった。


 タイガと並び最年少のケイシーは他の鎧竜騎手に侮られがちだ。しかし集中したケイシーはかなりの実力を誇る。


 部隊の中で一番槍を務めるだけはあるのだ。


 先陣を切ったケイシーに続いて部隊は竜の群れと戦い始めた。


「今日も一番の戦果を上げさせてもらうぜ!」


 二対の翼を持つ鎧竜を操るアレクは積極的に竜に向かって行く。空中戦では右に出る者はいないアレクは次々に竜を落としていく。


 自由自在に飛び回るアレクは竜を翻弄していく。竜はアレクに追いつけず、攻撃を与えられない。


 そしてアレクに引っかき回される竜を後ろからタクマとタイガが狩っていく。


 仲間を落とされる竜たちは既に戦意喪失していた。背中を向けて小島に逃げ帰ろうとした。しかし副隊長のカレンがそれを許さなかった。


「逃げるなーっ!」


 カレンは鎧竜に大きな咆哮を上げさせた。空に響く咆哮は竜を怖じ気づかせて動きを止めさせた。


「今だ! 一匹も逃がすな!」


 タクマの号令でタイガたちは竜を次々に落としていった。


 そして小島から向かって来た竜を全て倒したタイガたちは、竜の巣のある小島に上陸した。


「粗方竜を殺したが、まだまだ残党がいるだろう。探し出して殲滅するぞ」


「了解!」


 タイガたちはそれぞれ別れて小島を探索することになった。


「ケイシー、一緒に行く? さっきので疲れてるだろうし、一人では危ないよ」


 タイガはケイシーと一緒に行動しようとした。


「大丈夫ですよ、もうこの島には強い竜は残ってないですよ。それより索敵漏れがないように別々に広範囲を探しましょう」


「わかった。気を付けて」


 外敵に向かうような好戦的な竜は先ほど全滅させたので、あと残っているのは臆病な竜だけだとケイシーは踏んでいるのだ。


「それでは別れて行動する。気を付けろ。何かあったらすぐに救援を呼べ」


 隊長のタクマの指示を受けて部隊はそれぞれ行動を開始した。


 雷鳴が近くで響いた。



          ※



 ケイシーは小島の奥に単独で向かった。道中には小さな竜がいた。ケイシーはそれらを残らず殲滅した。


「こちらケイシー、小物しか確認出来ません。さらに奥に進みます」


 ケイシーは無線で連絡しながら進んでいく。すると大きな洞窟を発見した。周りには足跡もあり、竜の気配を感じ取れた。


「洞窟を発見しました。竜がいそうです。大物の予感です」


「了解。全員ケイシーに寄ってくれ」


 タクマの指示で全員がケイシーに近寄ろうとした。


 ケイシーは洞窟の奥を見つめたまま待った。洞窟からは何か圧倒的な気配が漂っていた。ケイシーが待っていると、雷鳴が響いた。


「近いなー」


 轟音に耳を抑えるケイシー。するとケイシーは震動を感じた。洞窟から感じるそれはとても大きかった。


「何が来るの?」


 ケイシーは暗闇の中を注視した。そこから現れたのは圧倒的な大きさとオーラを放つ竜だった。赤黒い鱗に、相手を威圧する竜眼。


 一目でわかる凶暴さ、そして危険性の高さだった。


「こいつ、ヤバいっ!?」


 ケイシーは全身に鳥肌が立っていた。本能が目の前の竜の危険性を訴えていた。呼吸が荒くなり、体が震えていた。


 ケイシーは竜に睨まれてその場から動けなかった。雨粒が頬を伝う。


 そのとき無線が入った。


「ケイシー、もう少しで合流出来る」


 しかしケイシーは何も答えられなかった。一言でも喋れば竜に命を奪われると思ったのだ。


「ケイシー? どうかした?」


 タイガはケイシーからの返答がないことを疑問に思った。普段のケイシーならすぐに返答するからだ。


 するとケイシーを見つめた竜が大きく息を吸い込んだ。そして島全体に響き渡る咆哮を上げた。大気が震え、ビリビリと体が震えた。


「な、何だっ!?」


 ケイシーの下へ向かっていたタイガたちにも咆哮は聞こえていた。


「何があった!? 皆無事か!?」


 隊長のタクマは迅速に部隊の無事を確認した。


 一方でケイシーは咆哮で我に返り、赤黒い鱗を持つ巨大な竜の前から逃げ出していた。


「巨大な竜を発見しました! 合流するため一旦引きます!」


「了解! 全員ケイシーの下へ急げ!」


 タイガたちは全速力でケイシーの下へ向かった。


 ケイシーのいるところはすぐにわかった。なぜなら雷が落ちたような轟音が響いているからだ。音の方向にケイシーはいる。


 それも音の規模からしてかなり強大な竜がいることが予想できた。


 ケイシーは必死に竜から逃げていた。竜は図体の割に素早く、羽ばたき一つで一気にケイシーとの距離を詰めてきた。


 ケイシーの鎧竜は素早さに定評があるが、それでも逃げ切れそうになかった。


「何とか、皆のところまで行かなきゃっ!」


 ケイシーは木々の間をすり抜けながら逃げるが、竜はそんなものは関係なく、なぎ倒しながら向かってくる。


「ケイシーっ!」


 タイガの声がケイシーに届いた。


「タイガくんっ!」


 仲間と合流出来たことでケイシーの顔が晴れた。しかし背中を見せたケイシーは竜にとって格好の的だった。


 竜は前足を空に掲げた。すると竜の前足から赤い雷が発生した。バチバチと滾る赤雷。赤雷は槍のように細長い形を取った。


 竜はそれを掴むとケイシーに向けて投げつけた。赤雷は真っ直ぐに飛んでいった。それは鎧竜ごとケイシーを貫いた。


「うわぁぁぁっ!」


 ケイシーの断末魔が響き渡った。叫び声が途切れると、ケイシーはそのまま力なく地面に倒れ伏した。


「ケイシーっ!? そんなっ!?」


 あと一歩、ケイシーと合流出来なかったタイガ。そこに他の部隊の仲間も遅れて到着した。


「何があった!? ケイシーは!?」


「ケイシーがやられましたっ! 敵は赤雷を操る竜ですっ!」


 タイガはすぐに気持ちを切り替えて部隊に竜のことを報告した。悲しみを嘆いている暇はなかった。


「赤雷だと!? 轟雷竜ルベルかっ!?」


 タクマの口にした竜の名前、轟雷竜ルベルは現在五匹しか確認されていない危険度Aクラスの竜のことだ。


 轟雷竜ルベルはかつて三つの都市を滅ぼした最強の竜の一角だ。雷を操り、雨のように赤雷を降らせて、轟音と共に都市を、人類を滅ぼそうとしてきた。


 さらに膂力も尋常ではなく、鎧竜が束になってかかってもその爪の一振りで一瞬にして切り裂かれてしまう。


 轟雷竜ルベルは人類の天敵なのだ。


「ルベル!? 何でそんな奴がこんな小島にいるんだよっ!?」


 アレクはルベルの存在に取り乱していた。


「タクマ隊長! 一旦ここは引きましょう! 私たちだけでは勝てません!」


 カレンは逃げを提案した。戦力が全く足りないからだ。ルベルを倒すには艦船、そしてもっと鎧竜騎手が必要なのだ。


「ダメだ! 今戻れば艦船まで危険に晒すことになる! 救援の鎧竜騎手を呼べ! それまで何とか持ち堪えるぞ!」


「了解!」


 タイガたちは四方に散らばり、ルベルの標的を絞らせないように動いた。


 最初に攻撃を仕掛けたのはアレクだ。アレクは猛スピードでルベルに近づいた。そして体を鎧竜の爪で切り裂こうとした。


 しかしルベルの竜鱗はとても強固で、アレクの鎧竜では表面に傷を付けるのが精一杯だった。


「クソっ! 全く効きやしねぇ!」


 アレクは悪態をついた。ルベルはそんなアレクに標的を定めた。ルベルは羽ばたき一つでアレクとの距離を詰めた。


「うおっ!?」


 アレクは何とかルベルの下に潜り込んで攻撃を回避した。


 そのときアレクはルベルの首元を観察した。


「こいつにもあったぜ! 逆鱗が!」


 逆鱗、首元にあるそれは竜の急所であり、そこを突ければルベルでも倒せるだろう。


「俺が殺してやるよ! ケイシーの仇だ!」


 アレクは旋回しながらルベルの気を引いていた。


「アレクを援護する! カレン、タイガ! ルベルの翼を狙え! 翼膜なら貫けるはずだ!」


 部隊で一番攻撃に適しているのは、空中戦を得意とするアレクなのは間違いなかった。部隊は全力でアレクの援護に回った。


 部隊の中でも一際大きな鎧竜を操るカレンが、ルベルに横から突進した。ルベルよりは小さいが、それでも巨大な鎧竜の突進はルベルの体勢を崩した。


 カレンが操る鎧竜はルベルにそのまま掴みかかった。爪を食い込ませてルベルの動きを制限した。


 ルベルは暴れてカレンの鎧竜を振り払おうとした。


「このまま地獄まで一緒に来てもらうぞ!」


 カレンは必死の形相で鎧竜を操り、ルベルを拘束した。


 その隙にタクマとタイガとアレクはルベルの翼を切り裂いた。ルベルは痛みから苦痛の鳴き声を上げた。


「カレン、持ち堪えてくれ!」


 一見優勢に見える状況だが、これはカレンの自己犠牲の上に成り立っている。カレンはルベルの攻撃を一身に受け止めており、ダメージが蓄積していた。


 いつカレンに限界が来てもおかしくなかった。それが訪れる前にルベルとの戦いを終わらせなければならなかった。


 全員が必死に攻勢に出た。切り裂かれ続けたルベルは弱ってきているように感じられた。


「いける! 倒せるぞ!」


 油断ではなかった。しかしあと一歩のところまで迫った勝利は離れて行った。


 暴れるルベルは赤雷を発生させると、それを天高くに投げた。


「へっ! 見当違いなところに投げやがった! 決めてやるぜ!」


 アレクは赤雷の軌道を見て、ルベルを小馬鹿にした。しかしルベルの赤雷はある異変を起こした。


 雲まで届いた赤雷はそこで増幅され、そして大地に降り注いだ。雨のように激しく落ちてくる赤雷。


 赤雷は周りを飛び回る鎧竜を狙って落ちてきた。


「タイガっ!」


 タクマは近くを飛んでいたタイガにぶつかった。そのおかげでタイガは赤雷を何とか避けることが出来た。


 しかしタクマとアレクは赤雷に撃ち抜かれて地面に落下した。


 また赤雷はルベル自身にも落ちた。そのためルベルに密着しているカレンも赤雷が直撃した。タイガ以外は全員が地に落ちた。


 タイガは急いで地面まで急降下した。タクマもアレクもピクリとも動かなかった。


「そ、そんな……っ!?」


 タイガは呆然とした。そんなとき地面に倒れているルベルが動き出そうとした。カレンの鎧竜に押し潰されて動きづらそうにしていた。


「トドメを、差さなきゃ!」


 タイガは竜の翼をはためかせてルベルに肉迫した。ルベルは動かせる右の前足で赤雷を投げてきた。


 タイガはそれを紙一重で避けると、ルベルの首、逆鱗に鎧竜の鋭い爪を突き立てた。


 ルベルは短く小さい鳴き声を上げると、力なく倒れ伏した。ルベルは死んだ。


 タイガは荒い呼吸を繰り返していた。そして倒れて動かない部隊の仲間の下へ駆け寄った。しかし誰も再び動くことはなかった。


「う、嘘だ……っ。皆、起きてください!」


 タイガの声は虚しく、そしてか細くなっていった。


 そしてタイガは慟哭を上げた。仲間の死を嘆く悲哀の感情。それは雨音にかき消されていた。

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