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ぼっちの心

 学校では終業の鐘が鳴る。校舎からわらわらと生徒が出てくる。

 Aクラスから出てきた人生愛は、辻道(つじどう) 喜多郞(きたろう)美空(みそら) (らく)海島(かいとう) 怒鳥(どーどー)の三人に囲まれる。

「愛、絵を描かないか?」

「そんなことより、ギター弾こうよ!」

「ふたりとも待て。将棋のリベンジをさせてくれ」

 愛はニコッと微笑んで。

「三人ともごめん。私、料理を習うことにしたから」

「「「料理?」」」

「リハビリでもできなかったんだ。習うのが楽しみ。じゃあね!」

 愛は三人に手を振って、学校から駆け足で出て行った。

「リハビリ?」

「なんだそれ」




 愛はメモを手に商店街で食材を買う。とりあえず魚屋で鯵と…。目の前には同じ様な鯵が何匹も並んでいる。これ、どれが一番美味しいんだろう? 

「おじさん、一番美味しいのはどれ?」

「うちの魚は全部、美味しいさ」

「それじゃあ、鯵を五匹ちょうだい」

「毎度!」


 八百屋で野菜、精肉店で肉など、五人分の夕食、朝食を買うだけで、結構な量になる。

「すごいなお母さん。毎日これをやっていたんだ」


 家に帰って、さっそく母と一緒に夕餉の準備だ。鯵を三枚におろしす。半身を刺身にして、半身をたたきにする。アラは味噌汁の出汁にする。

 牛蒡、人参、蓮根、里芋、コンニャク、椎茸、鶏肉など一口サイズに切って、筑前煮にを作る。

 米を研いで、薪のコンロでご飯を炊く。


 弟は風呂を沸かし、祖母は部屋を掃き掃除している。夕暮れ時には父が帰ってきて土間を見る。

「お、やってるな」

「お父さん。お帰りなさい」

「ただいま」

 夕餉の卓に母と愛が作った食事が並ぶ。

「「「「「いただきます」」」」」

 家族五人の団らんが、人生の家中に響く。




 AIは考えた。


 『人生(ひとせ)(あい)脳内生体反応情報』


 File No.215

  4096:復学。(にのまえ)(こころ)と対話

  5176:一心と対峙。三人のクラスメイト

  9099:人生(ひとせ)(すすむ)と薪割り。家。自室。風呂。


 File No.216

  5771:辻道つじどう喜多郞きたろうと美術。美空みそららくと音楽。海島かいとう怒鳥どーどーとボードゲーム。

  6855:人生ひとせまこと人生ひとせはるか人生ひとせ すすむ人生ひとせえにしの五人による食事。人生遙が倒れる。

 愛の祖母。誠の母。


 File No.217

  6997:人生遙の病状。家族の手伝い。料理。



 『経過報告』


 今だ感情を理解するには情報が不足している。引き続き情報を集める。




 学校のお昼休み。食堂で愛、喜多郞、楽、怒鳥の四人が昼食をとっている。

 サンドイッチを頬張りながら楽は言う。

「愛はあれからずっと、お母さんを手伝っているんだ」

「体調がもどるまでね」

「どうなの?」

「もう良いよ」

「それは良かった」

「これからはみんなと遊ぶ時間もできるよ」

 いつもにぎやかな喜多郞が静かに親子丼を食べている。

「あんた、なに黙り込んでるの?」

「夏休みに街のお祭りがあるだろう」

「まだちょっと先だけどね」

「毎年、絵画展があって、俺もそれに出展するんだけど、テーマを決めなきゃな、と思って」

「あたしもバンドで出るよ」

「楽はなにを演奏するの?」

「メンバーと思案中」

「怒鳥は?」

「部活動の全力を駆使して、町内一周大すごろく大会を企画している」

「へ~。それおもしろそう」




 ふと、愛の視界に心が入った。心はひとり、食堂の片隅でぼっち飯。周りに人がいない。

「彼女、どうしたんだろう?」

「ああ、心ね。あれ以来ずっとあんな感じ」

「あれ以来って?」

「愛が彼女のいじめを毅然と跳ね除けた時」

「一にいじめられていた奴は多かったからな。取り巻きを含めて蜘蛛の子散らすようにいなくなったよ」

「いい気味よ」

「自業自得だな」


 おもむろに箸を置くと、愛は心に歩みよった。

「よかったら一緒に食べない?」

 心は愛を見ることもなく、黙々と箸を動かしている。

「そう。それじゃ」

 愛は(きびす)を返す。


 私は聖人君子じゃないんで。記憶にはないけど、私をいじめていた人を助ける義理は無い。

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