部活動
木造校舎の時計台から、鐘の音が高らかに終業を告げる。教室からわらわらと生徒達が出てきて廊下の床をキュキュと鳴らし、家へ帰る生徒、友達同士で集う生徒、教室の掃除をする生徒。それぞれが、それぞれに、放課後を過ごしている。
高等部1学年、数学Aクラスから出てきた人生愛を待っていたのは、辻道 喜多郞、美空 楽、海島 怒鳥の三人だ。
喜多郞は言う。
「復学した途端、全科目Aクラス入りとは恐れ入るな」
「そうなの?」
「愛は中等部の頃、覚えてないの?」
「覚えてない。その頃って何クラスだったの?」
三人は曇った表情で顔を見合わせる。
「かまわないから、言って」
「中等部の頃はDクラスだったよ」
「そうなんだ。よっぽどダメだっんだね」
カラカラと愛は笑う。
今の学校制度は、学力別にクラスがAからDの四つに分けられている。成績最上位がAクラスで最下位がDクラス。カリキュラムも、かつて寺子屋でおこなわれていた読み書きそろばんを基準にして組まれている。つまり、国語と算数。合わせて数学、科学、体育を中心に構成されていて、クラスも成績毎にクラス分けが成されているので、国語の授業をAクラスで受けた後、数学の授業をDクラスで受けるなんてことがおこっている。Dクラスより成績が悪ければ落第。小学生でも落第が存在し、成績が上がらなければ歳ばかり重ねた小学生になる。
「体育も科目が選択できるのに、全てAクラスだし」
「前の私は?」
「小等部の5年生だった」
「これはやっぱり、リハビリのおかげかな」
「リハビリ?」
「私、札幌でずっと治療とリハビリしていたでしょう。その過程で勉強も運動も同じくらいやってたから」
「そうなんだ」
「たいへんだったね」
「そんなことないよ。むしろ楽しかったかな」
「なんで?」
「なぜかわからないけど、かってに頭と身体が動くんだ。あれやりたい! これやりたい! 好奇心の塊で。失った自分を取り戻そうとしていたのかもね」
三人は沈黙する。
「ごめん、話、暗くなっちゃったね。今日は部活を案内してくれるんでしょう?」
楽が笑顔で応える。
「もちろん。今日は約束どおり、あたしたちの部活動を見学に行こう」
「よろしく」
最初に案内されたのは、喜太郎が所属する美術部。
美術室の中は絵の具の匂いが充満し、生徒の作品が、棚に彫刻などの創作物が並べられ、壁には油絵や水彩画が掲げられている。美術室の中では数名の部員が、絵を描いたり、彫刻を彫ったりしている。
「人生さん、どう?」
「良いね」
「昔はAIで造られていたらしいけど、美の感性は人間じゃ無いと表せられないよな」
「私も描いていい?」
「もちろん」
渡されたスケッチブックに、愛は鉛筆で素早く男の子の絵を描いた。目を光らせ、嬉々として楽が言う。
「誰々?」
「一緒にリハビリしてた人」
「へ~。好きだったの?」
顔を少し、赤らめ、
「別に、そういうんじゃないし」
「記憶だけで描いたの?」
「そう」
「すごいな。記憶だけでこれだけ描けるなんて」
次に案内されたのは、楽が所属する音楽部。音楽のジャンルや、演奏する楽器を問わず、自由に音楽を楽しんでいる。
楽はおもむろにギターを肩にかけ、ピックを手にしてギターを鳴らす。
「楽はギターなんだ」
「ほとんど我流だけど」
「ジャンルは?」
「なんでも」
「ふ~ん。私も弾いていい?」
楽は愛にギターを渡す。
愛は、おもむろにギターを鳴らすと、クラシックからポップス、ロックなど、様々な音楽を入り乱れて奏でた。
「すごい、どこで習ったの?」
「リハビリの一環でね」
怒鳥が所属するテーブルゲーム部では、将棋、囲碁、チェス、トランプ、カルタ、すごろく、麻雀、花札に至るまで、様々なテーブルゲームを興じる。
「人生さん、ゲームで一勝負いかがですか? なんのゲームがいいでしょう?」
「なんでもいいですよ」
「今、なんでもって言いましたね? では将棋で」
次の瞬間、怒鳥は愛に瞬殺されていた。




