白のビキニ
昼休み。
ひとりで昼食を取っている心の下に、愛、喜多郞、楽、怒鳥がトレイを持ってやって来る。
「ここ、いい?」
心の了解を待たず、ドカドカと心を取り囲むように座る。
「なに?」
「聞いたよ。夏に大会があるんだって?」
「だから?」
「サーブだけなら、あいつよりうまいよ」
心は頬を紅く染める。
「勝てると良いね」
「あんたにいわれなくても、勝つわよ」
五人で心を囲み昼食会。みんなの話に心が塩対応するも、愛がうまく場を和ませる。終始、会話の途絶えない中、喜多郞だけは静かだった。
食事も終わろうとしたとき、突然、喜多郞は真剣な目つきで言う。
「愛さん」
「なに?」
「絵のヌードモデルになって欲しい」
「「「ヌード!?」」」
潮が引くように静まる一同。全員、ドン引きだ。
「さすがにヌードは嫌だなあ」
「引くわ」
「どうしてヌード?」
「夏の絵画コンクールに出展しようと思ってる」
「だからってヌードはないでしょう」
「このあいだ海で見た愛さんから閃いたんだ。それをテーマにしたい」
心が愛に耳打ちする。
「あんたの友達、だいじょうぶ?」
「たぶん」
「お願いだ!」
「いくらお願いされても、伴侶でもない人に裸体をさらすのは嫌だな」
「それじゃあ、水着で」
「水着か。まあ、それならいいか」
「どうもありがとう」
「ちょっと愛。いいの?」
「私自身もどんな絵になるか興味あるし」
「でもさ、この時期、海辺で水着はさすがに寒いよ」
「愛さんだけ美術室で下書きさせてくれればいい」
「いつから描くの?」
「今からでも」
美術室のとなりにある準備室から、白のビキニを着た愛が出てくる。
「美しい」
「綺麗だ」
「筋肉質だよね」
「一さん、そんなこと言わない」
「いいよ、事実だし」
「あんたいったい、どんなリハビリしたの? たった三ヶ月で、あそこまでテニスが上達するなんてありえないよ」
「自分でもよくわからないんだけど、パッと閃くんだよね」
「なんだそれ」
「その水着はどうしたの? この辺じゃ売っていないよね」
「リハビリ時代に水泳をやっていたんだけど、その時のを着てみた」
「ちょっとサイズ小さくない?」
「そういえば、きついかも。成長したのかな」
パンパンと喜多郞は手を叩く。
「はい、みんな出て行って。愛さんは見世物じゃないよ」
三人を美術室から追い出す。心はそそくさとその場を離れる。楽は苦虫をかみ潰したような顔だ。その顔をさみしげに見送りながら、怒鳥も歩きだす。
愛はまっすぐ立ったまま、なんのポーズをとることもない。
「立っているだけ?」
「イメージではそれが良い」
「肖像画?」
「背景は後から描き足す。今は人物の下描き」
「そう」
毅然とした目線を愛に注ぎ、喜多郞は木炭をキャンパスに走らせる。
喜多郞くんって、絵にのめりこむとこんな顔するんだ。カッコ良いかも。なんか、ちょっと恥ずかしくなってきた。そんな目線で見つめられると。
愛は頬を紅く染める。
「愛さん」
「はい!」
「疲れたら言ってください。休憩しますから」
「はい。ありがとうございます」
音楽室では、バンドのメンバーが練習をしていた。
ベースを弾いている娘が言う。
「楽。遅かったね」
ドラムの娘は言う。
「いつもは一番乗りなのに~」
キーボードの娘は言う。
「なんかあった?」
不機嫌なまま、楽はギターを肩にかける。
「最初の曲から練習、始めよう」
楽はギターをかき鳴らした。
テーブルゲーム部では、町内すごろくについて喧々囂々、侃々諤々。意見を交わしていた。
「どうした怒鳥。まるで怒った鳥みたいな顔して」
「怒鳥だけにな」
「このコマに止まったら、魚屋で鯵五匹買う? っていうのはどうだ?」
「それより八百屋でキャベツ五個だろう」
「キャベツ五個買ったら持てないだろ」
「キャベツ落として一回休みにする」
「なあ怒鳥。どう思う?」
「あ? なんの話?」
「どうしたんだよ怒鳥。上の空じゃないか」
「悩みごとか?」
「いや。なんでもない。それで、なんの話?」
テニスウエアに着替え、テニスシューズを履き、心はコートに現れる。コートにいた彼女に歩みよる。
「先輩。練習試合してくれませんか?」
一瞬、怪訝な表情を浮かべる。
「どういう風の吹き回し?」
「このテニススクールに入った時から振り返ったんですよ。そういえばちゃんと対戦したことなかったなって」
「それで練習試合?」
「教えてくださいよ。テ、ニ、ス」
ニコッと微笑む。
「ふん。あたしが先のサーブね」
「ジャッジは公正にお願いします」




