第十二話最終章
かなり短くて申し訳ないです
―――翌日の放課後―――
華は校舎裏の桜の木の下で鯉住を待っていた。春の花はもう散り、新しい緑が枝を覆っている。柔らかな風が吹き、髪を揺らす。
やがて、足音が近づいた。
「……芹川さん?」
振り向いた彼は、少し驚いた顔をしていた。
「ごめんなさい、急に呼び出して。少し話がしたくて」
「構いませんよ。」
鯉住はいつもの調子で穏やかに答える。その静けさが逆に華の胸を高鳴らせた。
「昨日のこと、ずっと考えてたの。御堂くんに言われて……正直、心が揺れた。でもね、その後で鯉住くんの言葉を思い出したの。」
「私が隣にいていいと言ってくれた。」
華は息をのみ、視線を逸らさずに続けた。
「その一言で、私……すごく救われたの。誰かに『いていい』って言ってもらえることが、こんなに嬉しいなんて思わなかった。」
鯉住の瞳がわずかに揺れた。華はさらに一歩近づき、胸の前で手を握った。
「だから……言うね。鯉住くん。私、あなたのことが好き。」
風が止んだように感じた。
静寂の中で、彼女の声だけが響いた。
「優しいとか、かっこいいとか、そういう言葉じゃ足りない。ただ、あなたの隣にいると落ち着くの。私も、あなたに『いていい』って言いたい」
頬が赤く染まり、視線はまっすぐ。これまで何度も告白を受けてきた華だったが、自分から言葉にするのは初めてだった。
鯉住は黙ってその言葉を受け止めていた。返事を待つ彼女の呼吸が、少し震えているのが分かる。
やがて、彼は小さく息を吐いた。
「……芹川さん」
名前を呼ぶ声は穏やかで、どこか切なさを帯びていた。彼は空を仰いだ。告白の言葉が風に溶け、静寂がふたりを包んだ。芹川華は胸を押さえながら、ただ彼の返事を待っていた。
「……芹川さん」
鯉住悌一は、少し間を置いてから穏やかに言った。
「その気持ちを聞けて、よかった。私にとって、とても大事な言葉だよ。」
それだけで、華の胸は熱くなった。だが彼は続けることなく、ただ空を見上げる。言葉の先があるのか、それとも終わりなのか、わからない。
華はふっと笑った。「……鯉住くんらしいね」
拒まれたわけじゃない。けれど、すぐに結論を出す人でもない。その曖昧さが、不思議と華の心を落ち着かせた。
「ありがとう。言えてよかった」華の声は柔らかく、どこか安心していた。
鯉住は視線を戻し、静かに頷く。空には淡い夕焼けが残り、白い雲がゆっくりと形を変えていた。
その景色を胸に刻みながら、二人の時間は静かに流れていった。 華は彼の横顔を見つめ、返事を待ちながら、彼が見ている空の青を一緒に感じていた。




