第83話 答辞
本日は、私たち卒業生のために、このような式を開いていただき、心より御礼申し上げます。
思い返せば、北川高校での3年間は、決して平らな道ではありませんでした。
人を受け入れること、受け入れられること。
ときにはもがき、苦しみ、なにもかもが嫌になることもありました。どうしてうまくいかないのか、何度も、何度も悩みました。
どうしてうまくいかないのか。反転すれば、うまくいく未来が欲しい。私は、そう願っていたのです。
そこで思いました。うまくいく未来など、ほんとうに必要だろうかと。
私には、夫がいます。親友がいます。仲間たちがいます。それ以上に、なにを求めるというのでしょう。うまくいく未来など、必要ない。私は、そう、理解することができました。
人との関わりは、かなり不安定で、予測できないものです。
けれども。
その不安定さの中でこそ、私たちは互いに影響を受け合い、少しずつ形を変えて行くのです。自分ひとりでは、決してなれない自分に。愛する人々に、ただ導かれるようにして。
そうしていまの私は、形作られているのだと気づきました。だからこそ、私は、自分のことを、やっと好きになることができたのです。だってこの私は、私の愛する人々が作ってくれたのですから。
そうした人々の中でも。
この場でひとり、どうしてもお名前をあげておかねばならない人がいます。
高宮 沙良さん。5歳の女の子でした。昨年の1月に、小児がんで亡くなっています。
私の人生は、もはや、私のものではありません。私のことを愛してくれた沙良さんに恥じぬよう。私は、私の愛するすべての人々の恥とならぬよう、必死で……必死で生きていくことを、ここに誓います。
北川高校で出会った皆様。先生方、用務員の方々。そして、支えてくださった保護者の皆様。
誰一人欠けても、いまの私はいませんでした。そして私は、いまの自分のことが、たまらなく好きです。それは、皆様の存在があればこそなのです。
これから私たちは、それぞれ異なる道を進んでいきます。強調させてください。異なる道です。
当たり前ですが、これは、お別れなのです。
それぞれが、新たな、これまでとは異なる人々との関係性を築いていきます。異なる道を歩んで行きます。残酷で、可能性しかない未来へ、私たちは放り出されます。
けれど、先はみえなくても。
互いに関わり合いながら、新しい自分を作り続けるしかありません。新しい自分が、それぞれ、ダイナミックに生まれ続けるのです。そして、それは予測不可能です。
もがき苦しむことが、むしろこれから、増えていくのでしょう。
でも、北川高校で学んだように。人とのつながりの中で、必ずみんなが、自分のことを、もっともっと好きになれるものと信じております。
最後に。
生きるからには、必死である必要があります。
自分の学ぶべきことは、愛する人々との関係性を見据えつつも、自分で決める必要があります。
さらに。
一度、これと決めたことでも、それがほんとうに正しいことなのか。私たちは、自分の学ぶべきことを、常に疑い続ける必要があります。
誠実であるとは、変わり続けることなのです。疑い続けることなのです。それはきっと、誰にとっても苦しい道のりです。ですが人生とは、そもそも、そういうものなのです。
私たちが愛した、北川高校での出会いと支えに、心からの感謝を込めて。
さようなら。みんな、さようなら。
ほんとうに、ほんとうに、お世話になりました!
以上
私からの、答辞とさせていただきます。
北川高等学校、第43期、卒業生代表
御影 七海。




