第74話 白嶺を、導く
新学期が始まって間もない、4月。放課後。
北川高校と白嶺学院、双方の医学研究会が、オンラインミーティングをしている。
双方の医学研究会が連携して、文化祭を一緒に作り上げるためだ。
白嶺の文化祭は9月、北高は11月である。つまり、北高からすれば、2ヶ月前倒しで準備を進める必要がある。それぞれの研究成果、活動報告をポスターや動画にして、持ち寄る。
夏休みには、双方の部員が集まって、合宿もしようということになった。
文化祭当日は、双方の人員が、それぞれの学校を訪れる。お互いの文化祭を楽しみながら、当日の運営を手伝う。少しずつアイデアが形になるにつれ、現実味が増し、やる気も出てきた。
そんな中、蓮が発言の機会を求めた。
目線を、上げる。
蓮「研究成果の発表なんだけど。どうせなら、それぞれの研究班が論文を作成するの、どう? 査読のあるジャーナルからの出版にチャレンジする」
普通の高校生には、考えつかないアイデアだ。
——やるからには、必死であれ。
蓮「まず、小児がんのボランティア班は、ボランティア団体の運営における課題を整理。そうした課題の解題解決方法にはどのようなものがあるか、論文検索。可能なら、その解決策を現場に導入し、効果を測定する」
七海の興味に配慮した、優れた提案だ。
蓮「看護版は、医療における人工知能の可能性と限界について検討。その中で、現場を持っている看護はむしろ、より重要な任務を担う可能性について、インタビューを交えて調査する」
医者の社会的地位に疑問を投げかける、挑発的な提案だ。
蓮「そして医学斑は、現実的に日本の高校生が狙える世界各国の医学部について調査。近年、日本の受験生にも人気の高い、東欧諸国の医大に入学している日本人のインタビューを集め、課題と可能性を整理する」
日本の医学部に行く必要はあるのか。受験生は、海外の医学部受験を可能性として除外する必要はない。そんな提案だ。
蓮「スポーツ班……カイオと原口しかいないから、白嶺からも誰か入ってもらいたい。スポーツ班は、スポーツに導入されているICTの最前線を調査。その効果と限界を整理して、限界を突破するための指針を仮説として提案する」
白嶺の可能性を広げる。スポーツ科学もまた、医学的に重要な領域だ。
蓮「俺と美月、数学研究会のメンバーは、他の班の論文作成を、統計的に支える。意味のある論文にするためには、統計的にどうかが検討されている必要がある。それを支援する。そうだ、白嶺にも、数学強いやつ、いるでしょ? メンバーに入れたい」
蓮をはじめとした数学に強い生徒たちが、統計的な支援をする。各班の研究が、査読つき論文にチャレンジできる土壌が、これで整った。
蓮「高校生にだって、研究できる。学問の進歩に貢献できる。やるからには、必死でやる。それが白嶺の理念だ。高校生のお遊びだなんて、誰にも言わせない。そういうレベルの発表がしたい」
——やるからには、必死であれ。
七海「蓮くん。査読って、どれくらいの期間かかるの?」
蓮「医学系は、即報性が重視されるから、早ければ2〜3ヶ月。人文系は、エビデンスが少なく議論が多くなるから、1年以上っていうのもザラかな。投稿~出版までの中央値は 79 ~ 323 日の範囲らしい(※1)」
白嶺、医学研究会、部長の工藤 慎二が発言する。
工藤「御影くん、さすがとしか言えない。研究の中身については、議論しよう。でも方向性については……めちゃくちゃ、燃える! チャレンジしてみたい!」
七海「でも、査読を通すまで、時間足りないよね。これから研究するんだし」
蓮「査読つきジャーナルに論文を提出したっていう事実までで、まずは十分。それに俺たちは、ポスターを作るんじゃない。学問の進歩に貢献するんだ。プロのリングに上がることが重要。勝ち負けじゃない」
——やるからには、必死であれ。
工藤「プロのリング……僕もそう思います。チャレンジしたい。必死で、やってみたい。僕たちの代では間に合わなくても、後輩がいつか、成し遂げてくれる。っていうか、御影くん。そういえば、もう査読つき論文、持ってるって聞いたよ?」
蓮「まあ、あるにはあるけど」
七海「そんなレベルの論文じゃないでしょ。謙遜しない。蓮くんの論文は、それ1本で、世界中の大学から給与つき研究員のポストをオファーされるレベルなんだよ」
自分の偏差値は、高い。そう考えている、白嶺の生徒たちの自尊心が砕かれる。せいぜい、偏差値が高いとされる日本の大学に進むことを考えている自分が、恥ずかしくなる。
それに対して、蓮は、大学を飛び越えて、いきなり大学院。しかも、学費を払うのではなく、給与をもらいながら研究するのだという。自分と蓮の違いは、なんだろう。偏差値だけなら、負けていないのに。
——自分の学ぶべきことは、自分で決める。
七海「みんな、ここは蓮くんに勇気を牽引してもらおう。数理班もいるんだし、学問の進歩への貢献、チャレンジしてみようよ! 高校文化祭のレベルなんて、軽々と超越しよ!」
夢咲「おい、みんな。蓮と七海にばっか、話させんな。人生、持ってかれっぞ。乗せてもらうんじゃない。運転するんだ。選ぼうぜ、みんな。私は、やる。やってみせる。こんなバカップルに負けない」
夢咲「白嶺は、どうするんだ? おまえら、高校生クイズで勝ってりゃ、それでいいのか?」
最終章。第74話までお読みいただけたこと、とても嬉しいです。ありがとうございます。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
高校生であろうと、立場に関係なく、学問への貢献は可能です。それが自分には無理と感じてしまうのは、単に、その機会や支援がなかっただけかもしれません。チームで挑めば、誰にでも、十分に可能なことです。それにしても、夢咲、かっこいいなー
引き続き、よろしくお願い致します。
参考文献;
1. Runde, B. J. (2021). Time to publish? Turnaround times, acceptance rates, and impact factors of journals in fisheries science. PLOS ONE, 16(9): e0257841.




